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2013年5月17日(金)第4,439回 例会

先端医療を知る

松 井  宏 夫 氏

医学ジャーナリスト 松 井  宏 夫 

1951年富山県生まれ。’74年中央大学卒業後,日本ドキュメント・フィルム助監督,「週刊産経」記者を経て,フリージャーナリスト。
’81年から医学を専門とする。

 きょうは「先端医療を知る」ということでありますが,「すでに受けられる医療」というところをお話しさせていただきたいと思います。(スライドとともに)

 皆様はダヴィンチというロボットを見られたことはあると思うのですが,前立腺がんにおきましては,2008年10月2日に「先進医療」となりました。ロボットで行う手術に対しては72万円の自己負担,検査等につきましては保険適用になるという「混合医療」で行われまして,これが2012年4月から「保険適用」として行われております。

 術者は椅子に座り,3D画像を見ながら遠隔操作で手術をしていきます。ロボットの手がいっぱいありますが,体の中に手が4本入ります。そしていろんなふうに動かしながら臓器を切断していくものであります。

 前立腺がんが保険適用になったものですから,3億5,000万円するダヴィンチが売れに売れておりまして,保険適用前は日本には25台ぐらいしかなかったのですが今,日本国内で108台使われております。

様々な臓器にロボット手術

 冠動脈バイパスのロボット手術については先進医療ということで,金沢大学の渡邊剛先生がやっていらっしゃいます。実はダヴィンチは,冠動脈のバイパス手術を行うためにつくられたものです。直径1ミリの血管を縫い合わせることが,体の中で簡単にできるところが最大の売りとなっております。

 心臓バイパス手術をやるためにできたダヴィンチですが,日本で渡邊剛先生以外にこの手術ができる人がいらっしゃらない。アジアでは渡邊先生と中国の先生の2人だけです。心臓ロボット手術の現状ですが,2011年7月までに126例です。

 消化器とか他の臓器で頑張っているのが,藤田保健衛生大学病院の上部消化管外科の宇山一朗教授で,大変ユニークなロボット手術に力を入れていらっしゃいます。この方はソフトバンク球団の王会長の手術を腹腔鏡で行った先生です。

 たくさん手術をされていて,食道がん,胃がんが専門ですが,肝臓がん,膵臓がんの手術もロボットでやっていらっしゃいます。現在,藤田保健衛生大学病院のロボット手術数は,トータルで347例,これは現時点です。内訳は,食道が26例,胃が111例,肝臓が22例,膵臓が13例,大腸が32例です。

腎臓がんなどに広がる先進医療

 ダヴィンチのメリットのすごいところは1ミリの血管も縫えることですが,何で1ミリの血管が縫えるのかと言いますと,5つの理由があります。1番目はリアルな3D画像。遠近感を持つ画像です。2番目は,ロボットアームに自由度がある関節機能。3番目は,手振れ防止機能がある。4番目に,臓器を見るときに拡大されます。拡大視の効果というのは最大15倍。5番目は,スケーリング機能。これは実際の動きよりも最大5分の1まで,ロボットアームの動きを縮小できる縮尺機能がついています。

 先進医療の2番目は腎臓がんです。今広く行われている手術の中に「腹腔鏡下小切開手術(ミニマム創内視鏡下手術)というのがありますが,これは東京医科歯科大学泌尿器科の木原教授が開発した手術です。2006年に先進医療に手を挙げたら通って,「この手術だったら受けたい」と言う人が増えました。それで2年間で保険適用になりました。

 その先を行く「ロボサージャン手術」というのがありまして,術者自身をロボット化するという意味ですが,木原教授が使っています。術者が帽子のようなものをかぶっていますが,メガネのように装着する3Dディスプレーを用いています。このロボサージャン手術は保険適用です。

 先進医療の3つ目は,「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」です。心臓の弁の手術の場合に,人工弁置換術と思っていらっしゃる方が多いと思いますが,こういう大動脈弁の疾患に対して,東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科の尾崎教授が開発した手術で,2007年4月26日に1例目が行われました。2011年7月末で377例,再手術が2例程度で,非常にいい成績を挙げています。

光トポグラフィー検査

 先進医療のもう1つは「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」です。これは先進医療として受けられます。うつ状態の患者さんに,光トポグラフィー装置のキャップをかぶっていただき,血流を測定してグラフ化するものです。

 まずリラックスしてもらうために,「あいうえお」とか「かきくけこ」というような単純な言葉を声に出してもらいます。次に,指定される特定の頭文字で始まる単語を思いつくまま,幾つでも挙げていただきます。例えば,「『ま』から始まる言葉をどんどん挙げてください」と言いまして,「まり」「満月」「魔女」「麻酔」とか何でもいいのですが,大体20秒ぐらい言ってもらいます。それが終わると,また単純な言葉を言ってもらって終わります。

 そうするとグラフが出てきます。健常者の場合は検査の最初からグンと跳ね上がってきて,検査が終わるとスッと落ちます。統合失調症の場合は,あまり上がらずほとんど同じような状況ですが,終わった後に一回ちょっと上がるところがミソです。うつ病の方の場合は全然上がりませんで,スーッと横に長いだけというような感じになります。双極性障害の場合は,健常者と比べて上がりが遅いんですが,ある程度は上がって,検査が終わるとスーッと落ちていく。

 時間の関係で,5つ目の先進医療のお話には入れませんでした。ご静聴ありがとうございました。