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2013年4月5日(金)第4,434回 例会

被災地の移動図書館車

茅 野  俊 幸 氏

公益社団法人
シャンティ国際ボランティア会
専務理事
茅 野  俊 幸 

1966年生まれ。15歳で愛知県妙厳寺専門僧堂(豊川稲荷)での修行に入り,駒沢大学卒業後に永平寺で修行。端松寺副住職として松本に戻りNPO活動にかかわる。’03年からシャンティ国際ボランティア会事務局長,’08年専務理事。

 (スライドとともに)

 シャンティの歴史をご紹介させていただきますと,前身は1980年発足の「曹洞宗東南アジア難民救済会議」です。私も曹洞宗の僧侶でございますが,もともとは曹洞宗の仏教者の方々を中心とした活動からスタートしています。32年前,NGOと言われる海外における人道支援団体が国内に存在しない時代に,カンボジアの難民キャンプの視察に調査団を派遣して,最初は素人の集団としてスタートしてまいりました。

難民キャンプで教育支援

 (カンボジアでは)すでに国際援助機関,欧米のNGOによって食料・医療・衛生活動は行われており,次に必要な活動は精神的な援助になる。調査団の報告を受けて「未来を閉ざされた難民キャンプの子どもたちに学びが大切である」という考えのもと,教育支援活動に取り組むことになりました。私たちが最初に始めた活動というのが,カンボジア語に訳した絵本をワゴン車に積んで各キャンプ地を巡回する移動図書館の取り組みでした。現在はタイ,カンボジア,ラオス,ミャンマー難民キャンプ,そして「9.11」以降はアフガニスタンにも事務所を構え,同国内でも活動を行っております。

 (東日本大震災では)まちづくり支援とあわせて,岩手,宮城,福島で走る移動図書館活動を展開することになりました。難民キャンプと状況は違うにしろ,「3.11」の津波被害により仮設住宅に住まわれる方々にも,本を読む機会,集える場所の提供はとても大切であることを確信し,この活動がスタートしたのです。まずは岩手県沿岸部の仮設住宅に向けて,図書館車の運行を始めました。初めは軽トラで,カラーボックスに1,000冊ぐらいの本を積んで走らせました。多くの方々から募った募金でこの図書館車を動かすことができ,本や雑誌を1,500冊から2,000冊積めるようになりました。沿岸部は津波被害で活動の拠点となる場所を確保できず,岩手の内陸部の遠野市に事務所を置きながら,陸前高田市,大船渡市,大槌町,山田町の4ヵ所の約30の仮設住宅を,2週間に1度のペースで訪問しています。「立ち読み・お茶のみ・お楽しみ」として,本はひとり5冊まで借りられます。本の貸し出しだけでなく,図書館車のそばにキャンプ用のタープを広げ,その下に 机や椅子を並べて,お茶飲みのお楽しみの場づくりを行っております。

図書館が憩いの場に

 仮設住宅では,子どもからお年寄りまで本が借りられる環境を整えるため,土・日の運行,平日の運行と,対象者に合わせて行っています。今では仮設住宅の皆さんが,当会の移動図書館車が来るのを待ってくださっています。「今度はいつ来るの?」「新しい本が入ったら借りたい」というようなお声もございます。移動図書館車は,本の貸し出しだけでなく,自由にくつろげる皆の居場所,憩いの場ともなっています。子どもたちが学校から帰ってきて,お茶を飲んだり,好きな雑誌を読んだりしています。雑誌とか漫画本というのは本に当たるのかと思われる方もいらっしゃるかと思いますが,被災されている方々にとって,小説を読む心のゆとりというのはなかなかない。その中においても少しでも本と親しんでいただけるように,雑誌でも漫画本でも一時の安らぎがそこにあるのではないかと,仮設住宅の皆様のリクエストに応えてさまざまな雑誌を運んでいます。

 お茶を飲みながら雑談したりして,皆さんが移動図書館車が来るのを楽しみにしてくださっています。阪神淡路大震災のときもそうでしたが,孤独になっていく,心の病気になってしまう,そんな方々に対しても少しでも心の安らぎの場の提供ができればと考えて移動図書館活動を続けさせていただいております。

 (被災地では)さまざまな方が本を借りに来ます。カンボジアの難民キャンプの場合は子どもたちが主でしたが,岩手,宮城,福島での仮設住宅での移動図書館活動は,お年寄りの方々が主になっています。そしてまた,職を失った方々,何もすることがないけれども本を読んでいれば少しは安心だなという,前向きの心を取り戻していただけているのではないかなと思います。雪の日も,雨の日も,2週間に1回,仮設住宅に暮らす方々に,一時でも安らぎが訪れることを願って活動を続けてまいっております。仮設の中にもグループホームがありまして,車椅子を押してもらって本を借りにきてくれています。

被災地の光目指して

 私たちもできる限りのことしかできませんが,雨の日も,雪の日も移動図書館車は走ります。雪の中でも本を借りてくださって,私たちが逆に励まされるときもございます。被災地にも春がやってきて,お花見がてら本を読んでいただく機会もございます。私たちシャンティ国際ボランティア会といたしましては,このアジアで培った移動図書館のノウハウを今後とも被災地の活動に活かしてまいりたいと思っております。小さな本でありますが,被災地の方々にとりましては一つの明かり,光になっていくのじゃないかな,そんな思いで私たちは活動を続けさせていただいております。

 私たちの移動図書館活動というのは,限られた時間,限られた場所の中で,被災者全員の方々に対するサービスはできません。ゆっくりとした活動ではありますが,少しでも心が安らげる場を今後とも提供していければと思っております。私たちの活動にご関心がおありでしたら,ホームページ,また事務所のほうにでもご連絡をいただければと思っております。