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2013年3月29日(金)第4,433回 例会

我が国の防災・減災対策のこれからの考え方

河 田  惠 昭 氏

関西大学 社会安全学部
教 授
河 田  惠 昭 

1946年大阪市生まれ。’74年京都大大学院工学研究科土木工学博士課程修了。専門は防災・減災。阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター長(兼務)のほか,京大防災研究所長を歴任。現在,日本災害情報学会会長。

 南海トラフ巨大地震の社会経済被害の大略を3月18日に報告いたしました。震度6弱以上(の被害を受ける人)が4,070万人です。東日本大震災はこの数字が750万,阪神淡路大震災は350万です。震度6弱以下でも津波が3メートル以上来るところを入れますと6,088万人。すなわち日本の人口の56%が何らかの形で被害を受ける地域にいるということであります。被害額は220兆円。2年前に東日本大震災が起こり,今やっと復興の緒についた段階で首都直下地震とか,東海,東南海,南海,南海トラフ巨大地震が起きますと,日本は立ち行かなくなってしまう。

家庭内備蓄が防災のカギ

 南海トラフ地震の社会経済被害想定を東京に住んでいる人は自分には関係がないと思っているようですが,そんなことはありません。これが起こると,日本中から食べるもの,飲み物は一瞬でなくなってしまう。情報ネットワークが寸断し,物流が寸断すると,たちどころに身近なコンビニエンスストア,スーパーマーケットから食料品,水がなくなります。政府は阪神淡路大震災のように3日我慢すれば4日目に支援物資が届くというふうなキャンペーンを張ったわけですが,全く足らないんです。公的な備蓄はできませんから家庭内備蓄を中心にこれを1週間,10日と増やすキャンペーンをこれから大綱あるいは防災戦略の中で国民に訴えるということで,動こうとしています。

 今年の1月17日に神戸でありました阪神淡路大震災の18周年の追悼式では,防災担当の西村康稔内閣府副大臣が「政府として防災対策推進検討会議最終報告書に基づいて今後の我が国の防災・減災対策を進める所存だ。政権が代わっても防災戦略,防災対策の内容は変えない」という決意を示されました。この報告書の第1章では「災害から国民を守り,国を守ることは政治の究極の責任である。『国難』とも言うべき大規模災害を意識する。『防災の主流化』を通じ,可能な限りの備えを怠らない」としています。

計画・企画から防災の意識を

 防災の主流化というのは計画,企画段階から防災のことを考えるということです。つくってから防災をどうするかというのがこれまでの対応でした。あのWTCがそうです。震度6弱で15メートル揺れる。そんなところで執務はできない。つくる前にきちっとそれを評価するということがとても大事です。

 2005年の神戸の国連防災世界会議で2015年までの10年間,世界各国はレジリエントソサエティを目指すんだという行動枠組みが採択されました。「レジリエンス」を高めるという意味は被害を減らすと同時に,復旧までの時間を短くすることによって,社会に及ぼす影響を減らすことであります。被災しても早くもとに戻す。あの四川大震災は2008年ですが,被災地は完全に復興しました。災害を受けることは避けられないが,その被害を小さくし,かつ早く復旧できるような社会にしなければいけない。これが実は我が国政府がこれから目指しているところなんだというふうに理解していただきたい。

 想定外の巨大外力にどう対応するかということで,私はいつも「水は昔を覚えている」と申し上げています。昔,海だったところ,川だったところは,どう操作をしてもまたもとに戻るのであります。地震に対しても技術的に超高層ビルは建築可能だったとしても,地震が起こった途端に,長期にわたってそこで生活する,あるいは企業活動するということが難しくなる。こういうものは技術が許せば建てていいというものじゃないんだという倫理の問題もきちっとやらなければいけない。まさに生命科学で言っているような倫理の問題を社会づくり,あるいはまちづくりのほうに持っていく必要があります。

 ですから,自然の摂理の中で生活し,社会経済活動をする。自然の恵みに対する畏敬と,それを利用できることに対する感謝,あるいは従来から言われております持続可能な社会,強くてしなやかな社会,減災,こういった言葉が一くくりのものとして目指す方向が,この社会の開発の中に出てこなければいけないということであります。我が国ではともすれば自然と天然を誤解している。手つかずのままで置いておくことがいいことだとなりますと,災害が起こった途端に貴重な自然の資源がすべて失われるということが東日本大震災で起きました。環境も破壊されました。守るべきものはやはり人間の手で守らなければいけないということも,今回の東日本大震災の大きな教訓でした。

長期の防災対策推進が課題

 今政府は長期的な国土のグランドデザインをつくろうとしています。ご承知のように国土の3分の1が海面下にあるオランダでは,100年かけて,1万年に1回の高潮に耐えられる堤防を完成いたしました。我が国でも,先ほど32万人の最大死者数が出ると申し上げましたが,そのうちの6万人が10メートル以上の津波が5分以内に来るところに住んでいる,この人たちを堤防等で守ることは事実上不可能でありますが,100年かけてそこを「居住禁止」にするということは十分可能です。今住んでいる人が将来お亡くなりになったら,新しい住民がそこに住むことを禁止する。そこの不動産等は公的資金で手当てする。こういう形でいきますと,100年たてば,この6万人が住んでいるところに津波がやってきても,人的な被害が出ないということが可能であります。我が国は今までそういうことをやったことがない。超長期にわたる防災対策の推進ということが今とても望まれています。