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2013年2月8日(金)第4,426回 例会

クールジャパンと江戸・上方文化

奥 野  卓 司 氏

関西学院大学 教授
(総合図書館長)
奥 野  卓 司 

1950年8月生まれ。’78年京都工芸繊維大学大学院修了。’89年イリノイ大学人類学部客員准教授,’91年甲南大学大学院社会学研究科教授,’97年関西学院大学大学院社会学研究科教授,2010年関西学院大学総合図書館長,’11年放送大学大学院客員教授(兼任)

 「クールジャパン」と言うとアニメ,マンガなどの話でありますが,それと江戸文化,上方文化はどうつながっているのか,つながっていないのかというお話をさせていただければと考えております。(スライドとともに)

 私たちが学校で習ってきた江戸時代観というのは,素朴で,厳しい身分制度があって,幕府が完全に管理をしていたので庶民は虐げられていた,こういう歴史観だったわけです。最近は,教科書でもそういうふうには書いていません。本屋さんに並んでいる一般の江戸文化の本は,むしろ江戸時代というのは大変楽しかったと書いています。

 江戸,京,大坂は,世界有数の大都市であったということであります。そしてある種の情報社会,今でいう情報社会と同じように,世界的に見ても庶民の間にこれほど情報が行き渡っていた社会はなかった。瓦版だとか,黄表紙だとかいろんな出版物が出たり,歌舞伎とか浮世絵とか落語,そうした世界に誇るような町民文化が日本の中にあったりしたということです。

江戸の町民文化,源流は上方に

 江戸時代についての相反した歴史観というのは,今でも並行してあるのですが,本当にどっちが正しいのだろうかということです。ここでは,こういう2つの歴史観があるということだけを申し上げておきたいと思います。

 江戸文化というとすぐ江戸の話なんですね,ここは今でも変わりません。ところが,実は江戸の中で本当に町民文化が発達していたところというのは,例えば吉原であるとか,芝居町であるとか,ごくごくわずかで,江戸の古地図を見ましたらほとんどが武家の世界です。だからそういう意味では,町民文化というふうに江戸文化の中で考えられている主流の文化というのは,実はこの大阪とか京都にあったと考えることができます。

 きょうの「クールジャパン」なんですが,上方文化と非常に関連があるというのがお話ししたいことでありまして,上方文化が今日どのように継承されているのかということを考えてみたいと思います。

日本は「モノ語りづくり」の国

 日本はモノづくりの国である,モノづくりで何とか日本を復権しなきゃいけない,ということがよく言われているわけですが,実は,「モノづくり」の国であるということの前に,「モノ語りづくり」の国だったと言えるのではないかと思うのです。

 これはわれわれ誇りにしていいと思うのですが,「情報社会」という言葉を最初に使ったのは関西の文化人類学者の梅棹忠夫さんです。

 『情報産業論』の中で「情報社会」ということを言いました。彼が言っている非常に重要なことは,今までの工業社会というのは,「モノづくり」の社会だった。情報社会は何かと言うと,「モノ語りづくり」の社会であるということです。

 日本にも,私たちが知らないところで情報社会が進んでいたということがありました。宮崎駿さんがつくった「となりのトトロ」だとか「千と千尋の神隠し」であるとか,「イノセンス」だとか,任天堂のゲームだとか,「ガンダム」だとか,「新世紀エヴァンゲリオン」だとかいうふうなものが世界的に様々な賞をとったり,評価されたりしていたということです。高度な日本の作品としてアカデミー賞をとったり,カンヌ映画祭にノミネートされたりしました。

 ジャパンクールとよく言われているのは,コミック,アニメ,ビデオゲーム,フィギュア(大阪茨木市の海洋堂さんは世界のトップメーカー),それから日本の音楽Jポップとかで,世界的に評価されてきたということが言えます。それから,ドラえもん,ポケモン,キティちゃんというのが世界の3大キャラクターになっている。日本のコミックスが英語その他の言葉に翻訳されまして,まさに「マンガ」という言葉でアメリカでもヨーロッパでも,世界中の本屋さんで売られている。

 『源氏物語』が世界最初の絵巻物であったとか,あるいは『鳥獣戯画』が世界最初のマンガのルーツであるというふうに言われているとおりであります。江戸時代に入りますと,人形浄瑠璃,歌舞伎,落語(落とし話),黄表紙,浮世絵,こうした様々ないわゆるポピュラーカルチャー,大衆文化が日本の中で大きく広がってまいります。

関西のクール文化を世界に

 こういう文化の中に共通したものがあって,昔で言えば「粋(イキ)」という言葉だと考えます。関西,特に京都ではこれを「粋(スイ)」と言っています。今オタク文化で,こうしたことに使われるのが「萌(モエ)」という言葉です。「粋」と「萌」には共通点があると考えます。

 日本の美と言うと「わび」「さび」があったのですが,「わび」「さび」は江戸時代においてはあくまで武士の文化でありまして,庶民の文化というのは江戸の「粋(いき)」であったり,上方の「粋(すい)」ということになったりして,これが現在は「萌」につながっている。わび,さび,粋(いき),粋(すい),萌というふうな文化は一連のものとして私たちの世界に存在しているということが言えます。

 われわれが日本の文化を再興する,あるいは日本の文化をベースに日本を盛り立てていくということにおいては,実はこうした上方の近世の文化が大変意味を持っているのではないか。クールジャパンという形のマンガとかアニメとかゲームとかフィギュアとか,実はこれらのルーツも本当は関西にあるんです。

 上方のクール文化を世界に発信していくことが重要ではないかというお話をさせていただきました。どうもありがとうございました。