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2013年2月1日(金)第4,425回 例会

日本の政府開発援助(ODA)とJICAの
役割につて

佐々木  十一郎 氏

JICA関西国際センター
所長
佐々木  十一郎 

1960年生まれ。東京水産大卒業,
’84年JICAに。パプアニューギニア事務所員,フィジー事業所長などを経て’12年1月から現職。

 JICAは無償・有償の援助と技術協力というODAの3つのスキームを一体的に実施する機関として2008年に新たにJBIC(国際協力銀行)と統合してできました。技術協力として毎年1,500コース,いろんな分野での研修事業も実施しております。この研修はJICA自身が実施するわけではなく大学,研究機関,国,自治体,NGOなどにお世話になっています。年間1万名の途上国の政府関係者,あるいは政府推薦による民間の方々が日本に来て,日本の経験・技術を共有して帰っていただいております。(映像とともに)

80カ国で2千人が活躍

 技術協力の事例ですが,シンガポールの交番制度ですとか,インドネシアの母子手帳があります。インドネシアの母子健康手帳では,大阪大学の中村先生に1990年代からご努力いただいて,日本の「母子健康手帳」がインドネシアのほぼすべての州まで広がって,母子の健康を守っています。シンガポールでは日本の交番システムが普及し,これをシンガポール自身がアフリカ,中南米に伝えていく,「第3国研修」と言う形でほかの国に影響を与える実態がございます。こういう人を介した技術協力という形で一番有名なのが青年海外協力隊です。協力隊制度は1966年,フィリピンに12名が派遣されてから続いている事業で,現在も80ヵ国程度に2,000名がご活躍されています。累計3万7,000名の方々がこの経験を持って日本に帰られております。

 ODAは円借款も含めて1兆円規模ですが,民間資金のフローというのはODAの倍以上で,新興国,途上国に流れております。この部分をどうやってわれわれと民間の方々が連携して戦略的に実施していけるのかということを,われわれも真剣に考えております。

官民連携で支援充実

 公共の部分はわれわれODAの財源,民間はビジネス,その間の領域をどういうふうに埋めていけばいいのか。リスクが高い国ですから,ODAを呼び水として民間の方々の途上国でのビジネスの端緒をつけるために,どういうふうなODAが考えられるべきなのかということを模索しております。その中の一つの方法としては,協力準備調査があります。最初の取っかかりのPPP(Public Private Partnership)のインフラ事業として,毎年公募という形をとっております。年2回民間の方々からのご提案をいただきまして,1件1.5億円の条件がございますが,現場の調査費用というものを新たにつくっております。これを踏まえてODAを実施いたしますので,日本政府の援助方針ですとか,途上国自体の経済発展に寄与するという形と,将来的には事業に投資して参画していただくということなどがその条件になっております。

 PPPによる廃棄物処理の支援イメージは,まず,分別回収ルートの確立や分別に関する技術指導と,民間のノウハウを出していただいて,海外投融資の形によって中間の処分場を建設。最終的な,処分場は借款で建設するといったようなODAのいろんなスキームを組み合わせた形で,途上国の廃棄物処理全体のシステムをつくり上げていこう。こういう最初のPPPの構想を先ほどの1.5億円の調査の中で相手国政府とともに調査をして,それを提出して採用いただくといったようなことを考えております。

 先ほどの青年海外協力隊,シニア海外ボランティアも,民間企業の進出したい国に対して,その分野で,例えば期間も柔軟に考えて,3ヵ月から2年間,どの期間をとっていただいても結構で,企業の提案をわれわれJICAにいただいて,われわれのほうが相手国政府とお話し合いさせていただいて,その企業の社員をその途上国に派遣するといった制度も新しくつくりました。特に興味を持っていただく国の人脈をつくる,言葉ができるようになる,その土地勘を社員の若い方にぜひ植えつけたい。そういった民間企業のご提案をいただいて,ボランティアの制度を新たに民間の方々の志向に基づいてやっていきたいというふうにも思っております。

ODAで平和と発展に寄与

 最後にODAの意義ということですが,日本は資源がない,エネルギー,食料も他国に依存しているといった意味で,狭義の安全保障としてODAは重要です。(経済のグローバル化で各国の)相互依存関係がますます濃密になるという中で,われわれ日本だけが発展するということはあり得ない。日本の国内市場は,やはり今後の少子高齢化でますます縮小いたします。この中で増大するGDPのパイを持つアジア,あるいは新興国インド,ブラジルというところにODAを呼び水としながらも官民一体となって共同利益を追求していかないといけないという意味でも,ODAも活かしていただきたいと思っております。

 また,外交の中で国際的な地位を向上させるために,ODAは各国の信頼を勝ち取る意味でも非常に重要です。東北の震災の際でも,150ヵ国を超えるいろいろな国から温かいお言葉,援助をいただきました。ODA(JICA)大綱というものがかなり前ですが制定されておりまして,その中では,「平和と発展に貢献する。ODAを通じて積極的に展開していって国際社会の共感を得られるようになりたい」というふうに書かれております。

 最後に,憲法の前文では,「平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において,名誉ある地位を占めたい……」ということです。この一つの手段としてODAもぜひ活かしていただきたい。 また,こういう崇高な理念とともに,官民一体となって日本が今後より強くなるためにも,ODAをぜひご活用いただきたいというふうに思います。JICA,ODAを今後ともよろしくお願いいたします。