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2012年12月7日(金)第4,419回 例会

なぜ消費者視点が求められるのか
~消費者をめぐる社会の変化~

片 山  登志子 氏

弁護士 片 山  登志子 

1977年京都大学法学部卒業。’88年弁護士(大阪弁護士会),2010年内閣府消費者委員会専門委員,’12年消費者庁消費者安全調査委員会委員。

 25年消費者問題をやってきて,これからの社会は,事業者と消費者が対立するのではなく,理解し合い協調するといいますか,協働関係ができて初めて本当によい社会ができるのではないかと思っております。

 お手元にレジュメをお配りさせていただいておりますが,消費者をめぐる最近の社会の変化についてお話しさせていただきます。マーケティングという観点で消費者を知るだけでなく,企業の社会的責任として消費者とどう向き合うのが望ましいのか,そういう観点でも「消費者視点」に強く関心が持たれるようになってきております。

受け身でなくなった消費者

 なぜ消費者視点が求められるのか。レジュメの1ページに書きましたように,企業と消費者の関係が21世紀に向けて大きく転換をしてきた。「国民生活審議会消費者政策部会の報告」を一部抜粋で挙げさせていただきました。おおむね次のようなことが述べられています。

 経済社会のグローバル化や市場メカニズムが重視されるようになった社会環境の変化の中で消費者は,行政や企業によって保護される受け身の存在ではなくなった。企業の活動を見極め,よい企業を選択し支援し,一方では悪しき企業を市場から淘汰し排除していく。そのことによって安全で安心して暮らせる公正な市場や社会をつくる,その役割を担う存在である。

 21世紀に入って,消費者が自立した主体として活動できるように法律そのものが多く整備されました。公益通報者保護法ができたことは皆さんも記憶に新しいかと思いますが,これも事業者がどんな事業をしているのか,きちっと消費者に見えるようにする仕組みとして設けられたと言えるかと思います。

 もう1つが消費者団体訴訟制度です。内閣総理大臣の認定を受けた「適格消費者団体」が,個々の消費者に代わって,事業者が使用する契約約款などに不当,不正な部分があった場合,あるいは表示に不当なもの,誤認を招くようなものがあった場合に,契約約款や表示の使用をやめてください,という訴訟を起こせます。

大阪の消費者団体で活動

 私は大阪にある適格消費者団体の1つ,「消費者支援機構関西」で活動していますが,スタートしたときに,消費者の皆さんがどれだけ活動に協力してくれるだろうかと不安を持っていました。ちょうど5年ぐらいになりますが,さまざまな約款を研究し,改善する方向で検討し,事業者に申し入れ,事業者と一緒に改定を検討する,そのような作業を行うグループが常時10ぐらいあって,延べ常時100人ぐらいの消費者が検討に加わっている。社会が動き出しているのを肌で感じているところです。

 消費者は事業者の皆さんに具体的にどういうふうに向き合ってほしいのか,どういうことを実現してほしいと願っているか。それについてお話ししたいと思います。

 2009年9月に消費者庁が設置されました。新しい省庁をつくる議論の中で,政府は次のような方針,閣議決定を示しています。2008年6月27日の決定の中で,「今や『安全安心な市場』『良質な市場』の実現こそが新たな公共的な目標として位置づけられるものとなった」。次のフレーズが大好きですが,「それは競争の質を高め,消費者・事業者双方にとって長期的な利益をもたらす唯一の道である」とされました。

 冒頭にも申しましたが,企業と消費者が対立的な関係にあるのではなく,一緒にそれぞれの役割を果たしてよい市場づくりをする。これは多分皆さんもできればいいねと思っていただけると思うのですが,決して容易なことではないと思います。企業と消費者が協働関係に立つために,ちゃんと双方向のコミュニケーションがとれる社会に変わっていってほしいと思っております。

企業と消費者,双方向で

 双方向コミュニケーションづくりが今,どうスタートしているのか,少しだけご紹介させていただきます。私は消費者支援機構関西で,事業者に対しいろいろ物申す活動をしているのですが,同時に企業と消費者の双方向コミュニケーションの研究会を立ち上げました。延べ10社の大企業の皆さんに入っていただきました。そこに消費者団体,あるいは消費者問題に詳しい学者の方に入っていただいて,議論をしていく。特に今年は高齢者にターゲットをしぼって,高齢者とのコミュニケーションを実践しました。まだ小さなサークルでしか実践できていませんが,とてもおもしろかったです。

 最後に消費者の新しい動きを1つ紹介させていただきます。「消費者市民社会」という言葉を耳にされたことがあるでしょうか。

 消費者が毎日の生活の中で,自分の利益や幸福を求めるのはもちろんOKですが,それだけでなく,将来の地球,日本がどうなるか,そのことに今がどうつながっていくのかということまで考え,本当の豊かさを共有するために何をしないといけないかを考える。そして主体的・能動的に判断し行動する。それが消費者市民としての社会参加であると言われています。

 今年8月に「消費者教育推進に関する法律」ができました。その第3条,基本理念は,消費者市民社会の形成に消費者が参画し,その発展に寄与することができるような消費者の育成を積極的に支援する。それがこれからの国の目標であり,事業者の皆さんもそれに協力して参加していただくことになっています。

 消費者をめぐる新しい社会の動きにご注目いただき,それぞれのお仕事の中で,消費者市民を育てる教育にご協力いただきたいと思います。ご静聴ありがとうございました。