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2012年11月9日(金)第4,417回 例会

京都 千年の地下水脈

楠 見  晴 重 氏

関西大学学長 楠 見  晴 重 

1953年生まれ。’78年関西大学工学部卒業,’90年同大学工学部助教授,’02年同大学工学部教授,’09年同大学学長。

 本日は,私の研究テーマの一つ,京都の地下に眠る千年の水脈というお話をさせていただきます。(スライドとともに)

 皆さんご承知のように京都は1,200年にわたって都が置かれたところでございます。1,200年も長く都が置かれたのは,世界的に見て京都とローマがございます。ただ,ローマは一時人口が5万人を切ったときがございますので,1,000年以上も続いた都というのは京都だけだと思っております。

 どうして1,000年以上続いたのか,いろんな原因があると思います。その1つに,私は地下水が大きな役割を果たしているのではないかと思っております。清水寺の森清範貫主(かんす)とお話をさせていただいたことがございますが,清水寺にも音羽の滝というのがございまして,東山から出ている地下水でございます。これも1,000年以上にわたって,絶えることなく流れてきているというお話でございました。

「水が育む文化」が随所に

 「井戸水の町 京都」ということがよく言われます。京都のいろいろなところに,井戸のある風景が見られるかと思います。また,京都には「水が育む文化」がございます。例えば豆腐,湯葉,生麩,こういうのは基本的に地下水を用いてつくられております。さらには酒どころの伏見ですが,伏見の酒造組合は現在28社程度ございますが,すべて地下水でお酒をつくっております。

 茶道もございます。京都に小川通りというのがありますが,そこに表千家・裏千家・武者小路千家の三千家が並んでおります。お茶を点てる水は,三千家とも地下水です。

 水が育む産業というと,染色,友禅が有名です。その昔,鴨川とか桂川で友禅流しをしておりました。しかし,水の汚染につながるため今は禁止になり,地下水に頼っております。室内に人工的な川をつくって,地下水をくみ上げて友禅流しをしております。

 その昔,平城京から平安京に都を移したときの平安京は,今の京都御所の場所にはなかった。船岡山という少し北のほうにあって,平安京初期までそこに置かれておりました。今の千本通りが朱雀大路で,その左と右が左京,右京ということになっておりますが,どんどん町の中心が東へ移って,現在,河原町とか祇園とかが中心になっております。これについては後で説明させていただきます。

天王山-男山に天然のダム

 平安京のときには,地下水が簡単に手に入りました。地表面から1~2m掘れば,新鮮な地下水が確保できたわけです。今の京都御所もそうですが,京都市内に平安京時代の井戸の遺跡が1万ぐらいございまして,その深さが1mないしは2mぐらいです。

 どうして京都に地下水が豊富なのかということですが,地下水の出口が天王山と男山の間の三川が合流する場所の一点しかないからなのです。天王山と男山は,同じ古生層という地層でできています。古生層というのは約1億2,000万年前にできましたが,天王山と男山は地下の浅いところでつながっています。だから,天然のダムみたいな形になっています。京都に流れ込んでくる川は全部必ずここを通り,淀川になって大阪湾に流れていく構造になっています。

 石清水八幡宮のある男山から宇治川の天ヶ瀬ダムの断面を見ますと,古生層という非常に硬い岩盤で水を通しにくい不透水層の上に,大阪層群という砂礫と粘土が重なり合ったものがずっと堆積していて,ここに地下水が豊富にたまっている。この深さが一番深いところで800mぐらいございます。

 京都盆地に一体どれぐらいの地下水があるかを計算しました。約211億トンの地下水がたまっているだろうと思われます。琵琶湖が大体270億から275億トンぐらいですから,それに近い量がたまっているということです。

 平安京のとき,どうしてその地下水がたくさん使えたのか。800mの地下水は,平安京の時代には使えないわけですから,もっと浅いところに着目いたしました。

 京都で7,500本のボーリングをした資料を集めて解析し,大体地表面から5mから10m程度のところの砂と礫の比率を出しました。砂と礫の多いところは地下水が豊富です。

 下鴨神社,二条城,京都御所が非常に砂礫が多く,いい地下水が出ています。先ほど言いました生麩,友禅,茶道も,全部こちらのほうに入っています。したがって,平安京が西から東に移るというのは,水のきれいなところ,地下水のきれいな方向に移っていることがおわかりになるかと思います。

世界は絶対的な水不足

 20世紀は石油の時代,21世紀は水の時代であると言われております。今世界では水が足りません。アジア,アフリカの31カ国で絶対的な水不足という状況です。これは改善することなく,2025年には48カ国にまで増えると予想されています。

 日本は水が豊かですが,世界の水を使ってしまうと責められています。日本の食料自給率はカロリーベースで40%弱しかなく,いろんなものを輸入しております。肉類とか豆類とかは,現地で生産するときに多くの水を使っています。これを「バーチャル水」と言っておりますが,食料輸入時にバーチャル水も間接的に輸入していることになります。

 水というのは,水と生命,水と環境,水と都市,水と汚染,水と住民と,いろんな問題がございます。関西大学は,この水に対していろんな研究を行っております。私のこういう研究もありますし,環境に関すること,生命に関することをやっております。

 雑駁なお話で申しわけございませんでした。これで終わりにさせていただきます。どうもありがとうございました。