大阪ロータリークラブ

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2012年11月2日(金)第4,416回 例会

Andrew Carnegieの生涯から公益理念
について考える

本 田  孔 士 君(眼科医)

ロータリー財団委員会
委員長
本 田  孔 士  (眼科医)

1939年生まれ。’65年京都大学医学部卒業,’85年京都大学医学部教授。’03年大阪赤十字病院院長。当クラブ入会:2003年6月。

 アンドリュー・カーネギーをケーススタディに,公益とは何かを考えてみたいと思います。アメリカには成金といわれる人がたくさんいます。特に南北戦争の時代に青春期を過ごしたお金持ち,その三大王というのは石油で財を成したロックフェラー,金融業で財を成したモルガン,もう一人がアンドリュー・カーネギーです。この3人を非常に悪く言う人もいますが,彼らは大きな社会貢献をしています。モルガンはメトロポリタンミュージアムに美術品を寄贈。ロックフェラーは奨学金を大学等に配っております。カーネギーも9億ドルというお金を生前に寄付しております。

人間の価値は世の中にいかに役立つか

 カーネギーはエジンバラから北のスコットランドのダンファームリンというところで生まれました。13歳のときに家族とともにアメリカにやってきます。彼は祖母から「人間の価値とは世の中にいかに役立ったかがすべてなんだ。お金を持っているとか,爵位を持っているとかは人間の本質に関係ない」ということを教わるんです。アメリカにはお金を借りてやってきます。なぜピッツバーグに行ったかというと,親戚がいて家賃がただで住めたからです。彼はアメリカで家族の生計を支えようと必死に働きました。最初にやったのが,糸巻きです。そして電報配達をやりました。その間に電報技士の電信技術を自分で覚えてしまいます。当時は有線鉄道ですから,通信と鉄道は一緒でした。通信技士ですばらしい青年がいると,スコットさんという人に引き抜かれて,ペンシルバニア鉄道に入社。

彼の引き立てで偉くなって,21歳でペンシルバニア鉄道の総務になりました。

やる気のある人を助ける

 僕は鉄鋼の町ピッツバーグはカーネギーがつくったと思っていたのですが,そうじゃないんです。鉄鋼の町にカーネギーが行ったんです。カーネギーは30歳でペンシルバニア鉄道をやめ,鉄鋼業の会社を興しています。当時のピッツバーグの製鉄業者というのは,技術者が自分の勘でやっていた。そこに彼が原価計算という考えを持ち込んで,非常に正確な経営をします。そして,ドイツから優秀な技術者を呼んで,成分分析をしました。鉄鉱石とかコークスでも産地によって質が違いますが,そういうことを全部分析して,理論的に鋼をつくるわけです。彼が30歳で鉄鋼に乗り出したとき,鉄鋼はイギリスのほうが上質で,アメリカは輸入品に押されていたのです。カーネギーはどんどん合理化して,質をよくして関税がなくてもちゃんと成り立つようなところまでいくんです。それがカーネギー語録の「やる気のある人を助ける」につながります。

 カーネギーの奨学金は黒人のための学校とか,経営は成り立たないがいい人を育てている学校とか,非常にきめ細かい配分をしています。今さらハーバードとかコロンビア大に援助してもしようがない,もっとお金を欲しがっている小規模なところがあるということを言っているわけです。彼が財産がゼロになってもいいと言ったのには,幾つかのわけがあると思うのです。その1つは,1892年に彼の製鉄所で大きなストライキが起こって,自分の雇っている職員が10人亡くなるんです。組合が2つに割れて,過激な218人の組合員が温厚な3,000人の組合員と対立する。そこへ行政が介入して発砲事件になって,10人が死んでしまった。彼は一生この十字架を背負って生きていきます。

大阪に根ざす民の力

 最後に,僕は大阪に来て10年になるのですが,大阪というまちはすごいと思います。

 まず懐徳堂ですが,これは民間の学校で藩校とは違うんです。東京には昌平黌というのがありますが,幕府の学校です。大阪には,懐徳堂のように町人でも丁稚でも誰でも入れるという学校があった。それから八百八橋ですが,9割方は民がつくった町橋です。今の大阪城は鉄筋コンクリートで昭和の初めにつくったのですが,つくったのは大阪府でもなく,大阪市でもない。大阪城をつくろうと民間の人が寄付をして,お金を出し合ってつくったのが今の大阪城です。平成に建て替えた大阪赤十字病院ですが,昭和の初めにできたときは東洋一という立派な病院で,総工費が150万円かかりました。それに対して1万円以上の寄付をした人が80人います。何という民の力でしょうか。自分たちのまちにいい病院をつくろうと,私財を投げ打つ人が非常にたくさんいた大阪の民の力に驚きました。 中之島の中央公会堂ですが,これはほとんど岩本栄之助さん一人のお金です。岩本さんはその後不幸な経過をたどりますが,その心意気はカーネギーに似ていると思います。この岩本さんや,赤十字病院に寄付した方々というのは,自分の成した財産を世の中に役立てようということで寄付したんだろうと思います。

 カーネギーは図書館,公会堂,大学も寄付しています。それは,ちょっと年上のリーランド・スタンフォードやヴァンダービルトを模範としています。スタンフォードはスタンフォード大学をつくり,ヴァンダービルトは,メンフィスにある医学の分野では非常に有名なヴァンダービルト大学をつくりました。カーネギーもモルガンもロックフェラーも,そういう先輩のやっていたことを模範としたのです。公益のことも話したかったのですが,カーネギーさんの生涯を思い出してもらったら,全部答えが出るんじゃないかと思います。要するに自分がお金を得たのは,努力もしたけれども運がよかった,世の中の方のお陰だ。だから,自分はそれに報いるために世に奉仕する。9億ドルというのは全財産だと思いますが,その全部を寄付しました。しかも,それをきめ細かく配りました。彼は「財産をつくるよりも財産を配るほうが難しい」と言っています。