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2012年10月19日(金)第4,414回 例会

嘘をついている時に表れる非言語的行動

朴   喜  静 氏

当クラブ受け入れ・2012年~14年度
米山奨学生
朴   喜  静 

1982年韓国生まれ。2007年慶北大学社会心理学修士課程を修了。警察の犯罪分析員を経て,’11年4月に大阪大学人間科学研究科博士課程後期に入学,対人社会心理学を専攻。
’12年4月~’14年3月2660地区米山奨学生。

 例会で私の研究を発表できて,光栄に思います。まず写真を見てください(スライドを映す)。この写真の人物は,女子学生に対する強制わいせつの疑いで逮捕された容疑者です。被害者の陳述以外に証拠はない状態でした。容疑者は自分の犯行を認めず,指紋など物理的な証拠はなかったので,容疑者は自分の無罪を主張し,私たちを説得しようとしました。このような場合,容疑者は自分の犯行を隠している犯罪者なのか,それとも罪を着せられた人なのかを判断することは難しいと思います。それで嘘判断において,犯罪者の陳述より,顔面の表情や体の動きなど非言語的な行動が重要な要素だと思いました。それで,嘘をつく時に人はどんな行動をするのかについて興味を持って,研究しています。

 嘘を見破る方法は古代にもありましたが,その方法は非人間的で,非科学的でした。例えば,中国に米噛み法という方法があります。米を噛ませながら尋問した後に,吐き出した米が唾液に濡れなかったら無罪と判断する方法です。現代は科学的な方法で,警察の場合はポリグラフ(嘘発見器)を使う,嘘をつく人の非言語的な行動を見る,陳述分析,話す言葉を分析して論理性を見る,脳波を利用して分析するなどです。

嘘が顔に表れるときの3つの感情

 嘘をつく時に表れる非言語的な行動を説明します。まず先行研究を見ると,瞳孔の拡張,嘘をつくときには声が高くなる,自分の身体を触るなどの行動があります。嘘をつく時にそういう行動が表れるのは3つの感情が関係あります。1つ目は見破られるのではないかという不安,2つ目は欺瞞による罪悪感,3つ目は相手をだます喜び。そういう感情が主に表れるチャンネルは顔だと思います。

 それでは顔にある欺瞞の手がかりを紹介いたします。1つ目は非対称性の表情です。人が嘘をついている時には鼻を中心に片方の筋肉の動きが強くなる現象が表れます。2つ目は偽りの微笑です。例えば,相手の話が余り面白くないのに笑わなければならない場合,人は口だけ引っ張り上げて,まるで面白いかのように表情をつくります。3つ目は微表情です。例えば,怒りを感じるのに感情をそのまま表現すると大変な状況になる時に,感情を抑えようとします。でも,怒りが消えるわけではなくて,短い時間に顔の表情に表れます。それが本当に短い時間なので,トレーニングなしには確認できない表情です。

日本人が嘘をつくときの行動を実験

 嘘にかかわる顔面表情の研究は西洋人を対象にした結果で,東洋人に対する研究結果はまだ十分ではありません。特に日本人は嘘をつく時に表れる表情を抑制しがちだと考えられます。日本人が嘘をつく時に,どういう行動をするのか実験を通して確認しました。大学生に参加への同意書をもらい,嘘をつく能力を測る質問表に回答をもらいました。次に嘘をつく場面をつくりました。例えば,実験室にお金を置いて,そのお金を持っていくかどうか,参加者が決めるようにしました。それで,参加者が持っていくと決めた場合は,後のインタビューで自分が持っていないかのように演技してくださいと教示しました。持っていかない人は,インタビューの時に正直にお金は持っていかなかったと言ってくださいと教示しました。それで嘘の条件と真実の条件を分けることができました。その後に質問をして,参加者のインタビューをビデオで撮影して,真実を話す人の行動と,嘘をつく人の行動を測定しました。測定に3カ月ぐらいかかりましたので,大変な作業でした。

嘘をつくと顔の筋肉が不自然に動く

 私が検証したいのは,顔面の表情がどうなるのかです。嘘をつく能力が高い人は,自分の本当の感情を隠し,外見的平静を保つことが非常に上手なので,緊張と不安などを統制して,微笑みやすいことが明らかになりました。それに対し,嘘をつく能力が低い人は嘘をつく時に緊張し過ぎて,余り笑わないことが明らかになりました。顔の筋肉の動きについても検討しました。まず,眉毛を上に上げる,唇を押さえつける,そういうことが嘘をつく時に増えることが明らかになりました。先行研究では見られなかった新たな結果であり,恐怖の感情と関係がある筋肉だと報告しています。嘘を見破られるのではないかという不安とか恐怖を感じますので,眉毛が上がったり,唇を押さえつけたりする動きが表れやすいことが明らかになりました。

 2012年の研究結果ですが,実際嘘をついている人はむしろ意図的なアイコンタクトをするという研究結果があります。その理由としては,真実を話しているかのような印象を相手に与えようとするためです。結論的には,視線を回避したとしても嘘をつくことではないということを,嘘を判断するときに認識していることが必要だと思います。

 以上の結果を適用するのに最もふさわしいところは夫婦関係だと思います。基本的に長年一緒に過ごしながら相手のしぐさとか癖などがわかっているし,特に奥様は主人の普通の姿をよく知っていると思います。普段より何か不安そうだなとか,顔の表情とか雰囲気とかを読み取るのが本当に上手です。だから,奥様に嘘をつくことは本当に難しいと思います。嘘をつかないことが一番いいことだと思いますが,やむを得ない事情があるときにはうまく演技することですね。人は視線を回避すると嘘をつくと思います。ちゃんと目を合わせながら会話すると,人は真実と思い込みます。できるだけ手とか足とかを動かさずに,なるべく微笑をまぜながら自然に話すこと,それが疑われない方法だと思います。もちろんこちらにいらっしゃる皆様はそういうことも必要ないと思いますが,やはり最も重要なことは嘘をつかないことです。