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2012年9月7日(金)第4,408回 例会

シンガポールの日本人学校から見た
日本の教育,シンガポールの教育

吉 本    卓 氏

守口市立第4中学校 校長
元シンガポール日本人学校
小学校部チャンギ校 校長
吉 本    卓 

1956年生まれ。立命館大学経済学部卒業。1994年~97年ワシントンDC補習授業校,2008年~12年シンガポール日本人学校小学部,12年から守口市立第4中学校校長。

 4年間,シンガポールのチャンギ校の学校経営をしてまいりました経験から,日本人学校の子どもたちの生活とシンガポールの教育状況を話そうと思います。現在海外で生活している義務教育の子どもたちは平成23年度で合計約6万5,000人。小学生が4万8,000人,中学生が1万7,000人です。子どもたちが勉強する場は日本人学校,補習授業校(以下補習校),私立学校があります。日本人学校は,昭和31年にバンコク日本人学校が戦後第1号として設置されてから,現在88校が運営されています。教育課程は全く日本と同じです。ただし,学校は私立学校になります。補習校は,私が勤務しておりましたワシントンD.C.補習校が昭和33年に設置されてから,現在は203校あります。補習校では,現地の学校やインターナショナル校に通う子どもたちが,週末の土曜・日曜,また放課後に日本の教科書をもとに一部の教科を学んでいます。私立学校は世界に9校ほどあります。就学形態別の子どもの数ですが,日本人学校が1万9,000人,補習校が1万6,600人,この2校に通わずに現地校だけで生活する子どもたちが3万人で,一番多くなっています。日本人学校は80%がアジアに集中しています。補習校は主にアメリカ,ヨーロッパに集中しています。

 昨年度の数字(文科省指定日・4月15日の人数)ですが,最も大きな日本人学校は上海で,虹橋校と浦東校の2つの学校で2,675人。2番目のバンコクは1校で2,571人。3番目がシンガポール日本人学校で、3校で1676人でした。チャンギ校は、年末には約700人でした。 シンガポール日本人学校を紹介します。小学部のクレメンティとチャンギ,中学部のウエストコースト校です。私が勤務したチャンギ校はチャンギ空港のすぐ横ですが,敷地面積も4万7,000㎡ありましたから施設的には世界最大級の学校だと思います。チャンギ校は1998年に開校しました。目指す教育は,21世紀に生きる日本人として豊かな国際感覚を持ち,世界とつながる姿勢を持つ人材を育成することです。アシスタントの英語の先生も23人います。

シンガポールの教育,能力主義を徹底

 次に,シンガポールの教育についてお話しさせていただきます。シンガポールは非常に小さな国です。淡路島とか,琵琶湖ぐらいの大きさと言われますが,人口は約500万。シンガポールの教育政策は「国の未来を担う子どもたちを育てることは国を形成することであり,子どもたちにバランスのとれた十分な教育の機会を提供し,子どもたちの可能性を開発していくこと,子どもたちを家族,社会及び国に対する責任を意識する国民に育てていくことを公教育の使命としている」をベースに展開されていきます。教育の特徴は大きく分けて2つあります。1つは「二言語主義」です。小学校1年生からすべての授業は英語です。母語は中華系,マレー系,インド系となりますが,並行して学んでいます。もう1つが「能力主義」です。早い段階から子どもたちのコースを分けていっています。国際貿易に支えられた国家発展のためには,英語を使えなかったらだめだろうということで,英語を中心に置きました。非常に多民族な国ですから,国家の一体性と国民の帰属意識を保持するためには共通の言葉が要る。それが英語だというわけです。ただ「二言語主義」は子どもたちに過重負担になっていきますし,教育効果もなかなか上がってこない。そこで,次の段階で能力主義に変わっていくわけです。

能力に合わせて多くの教育コースを準備

 シンガポールの小学校は6年間ですが,基礎段階とオリエンテーション段階という2つの段階を4年生で区切っています。4年生の末に学校独自のテストが行われます。その成績で5~6年生のオリエンテーション段階のコースが決まる。小学校4年生でコースが分かれます。優秀な児童に関しては,母語,英語,理科,算数に関して能力別で授業を受ける形になっています。6年生を終えるとPSLE(初等学校卒業試験)があり,これでコースが分かれます。60%の子どもたちが4年のエクスプレスコースに進学します。この子どもたちが4年後にテストを受けて大学の準備教育,そして次のテストを受けて大学に進学します。30%の子どもたちは,普通コース,技能コースに行って,4年後にテストを受けてコースが分かれていく。ポリテクニックとか大学を目指したい子どもはもう1年間,5年生をやります。ですから6年生の卒業試験に重点を置いているのです。

専門技能教育を低コストで提供

 きょう紹介したいのは「ITE(技能教育研究所)」です。日本の専門学校に当たりますが,この学校が3つ,キャンパスが11あります。3つのキャンパスの調理の講習では,国でレストランを学校の中に持っていて,一般的な職員も食事ができる。観光科では観光ガイドになりたい子どもが学んでいます。注目するのは授業料。日本の調理師専門学校で1年間の経費が200万円ぐらい。ITEの子どもたちは1年から2年間通いますが,半期の授業料は1万円です。1年間で2万円。国がいかに人材に金をかけているかということです。優秀な生徒は国費で留学できます。2011年度はシンガポール国費の23%を教育にかけている。国防が25%ぐらいです。日本の2011年度一般会計歳出総額のうち,文教と科学を合わせても6%。一概に比較できませんが,シンガポールは教育にかける比率が非常に高い。

 ただ,今のシンガポールは学力偏重主義からいかに脱却していくかが課題だと聞いています。詰め込み型から思考力を養成する教育への変換。日本も一時こういうことを言っていました。もう1点は能力主義の緩和と多様な選択肢です。これまで体育や芸術にあまり目を向けてなかったのですが,教員を増やしたり,授業時数を増やしたりしています。