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2012年6月8日(金)第4,396回 例会

次代を担う大豆たん白質 その魅力と期待

高 松  清 治 氏

不二製油(株)フードサイエンス研究所
副所長
高 松  清 治 

1953年大阪生まれ。’76年京都薬科大学卒業。’79年大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了。’83年同医学研究科博士課程修了。医学博士。’83年不二製油(株)入社。中央研究所,新素材研究所を経て’07年より現職。

 不二製油は1950年の創立の油脂製造会社ですが,60年代初頭から大豆たん白質の製造と販売を行っています。私は入社時より,大豆たん白質の機能性,特に栄養,健康の機能について研究しています。きょうは,大豆たん白質の魅力,将来性についてお話しします。(スライドとともに)

大豆の歴史

 当社が大豆たん白質を使うに至った経緯は,創立当時原料統制があり,後発メーカーは大豆を扱えませんでした。60年に自由化が進み,大豆を扱おうといったときに,後発企業が大豆油を扱って商売ができるのかというところから,その大豆たん白質を使っていろいろな食品素材をつくっていこうということから今の事業が始まりました。

 大豆の原産地とされているのは中国東北部付近です。5千年以上前から栽培されていたようです。日本でも長い歴史があり,納豆・豆腐・味噌・醤油は1千年以上前の文書に残っております。縄文時代の遺跡からも大豆が見つかっています。07年の大豆生産量は,米国農務省の統計によると,北,南米を中心に約2億5千万トンです。欧州では1700年代,アメリカ大陸では1800年代の後半から生産が始まりました。

 大豆は,たん白質・炭水化物・脂質の三大栄養素が含まれていますが,油脂とたん白質が中心なので,大豆の90%以上は大豆油の生産と脱脂大豆をたん白質源とする家畜用飼料に使われています。一方,大豆たん白質の製品などは,主な用途として,食肉加工・水産製品・一般加工食品などに広く使われています。最近では,たん白質の栄養・健康機能が明らかにされるようになり,健康食品・栄養食品としての利用が進んでいます。

大豆の実力

 良質なたん白質を摂取することはヒトの健康にとって一番重要なことですが,良質のたん白質イコール動物性食品,肉・卵・乳製品と理解されていました。かつては,大豆を含む植物性たん白質は,アミノ酸のバランスが悪いから,肉や卵,牛乳と一緒に食べなきゃだめと言われていましたが,80年代に大豆たん白質がヒトに必要なアミノ酸をバランスよく含むことが明らかになりました。

 また,大豆に含まれる様々な成分に様々な生理機能があることも分かってきました。たん白質・食物繊維・糖類(オリゴ糖)・微量成分のイソフラボンとかサポニン・油類のレシチンとかリノール酸・ビタミンK,などが含まれています。一つの素材から,6種類が特定保健用食品,すなわち「トクホ」と言われる健康機能をうたった食品の有効成分として認められているのは,大豆だけです。

 米国の研究では95年,大豆たん白質は血中の悪玉コレステロールを低下させることが示されました。また,血中の中性脂肪も低下させることも明らかになりました。99年には,米国食品医薬局が,大豆たん白質は心臓病予防に有効と商品に書いてよいと認可しました。日本では93年に「トクホ」が始まり,翌年,私どもの研究陣が出した食品が認可されました。

 最近では,中性脂肪を特別に下げるということで,大豆たん白質の成分であるβコングリシニンも「トクホ」になっています。コレステロールを下げるというのは,心臓病や脳疾患の低下に結びつくということで,一つの大きなエポックになったわけです。その後の研究の中で,内臓脂肪がいろいろな脂質・糖質の異常を引き起こすということがわかり,いわゆる「メタボ」と称されるようになりました。これは私どもの研究ですが,肥満ラットに大豆たん白質を含む食事を与えると,中性脂肪や血糖値,コレステロールも低下させる効果があることが明らかになりました。また,抗肥満因子であるアディポネクチンというホルモンが,大豆たん白質を食べると増加することも研究データで出てきました。

大豆の未来

 血中のたん白質は栄養状態,健康状態を示す一つの重要なものですが,米国の研究では,血中のたん白質のアルブミン濃度が低いと,通常レベルと比較して病気への抵抗性がなく,運動障害などがあると極端に寿命が短くなる報告が出ています。解決策の一つとして,大豆たん白質を酵素により消化した大豆ペプチドがあります。たん白質を摂取すると,アミノ酸に分解されて小腸から吸収されて体の中のたん白質に換えられます。近年,分解途中のペプチドが消化管の中からスッと吸収されるということがわかってきました。

 大豆製品を食べたときにお腹の調子がよくなるということもあり,消化管機能を高め,消化吸収しやすいたん白質ということで,非常に価値が高いと考えています。また,大豆ペプチドは微生物の発酵を促進する機能を持っています。納豆や,味噌もそうですが,発酵力の強さが買われて,第三のビールの原料にも利用されています。

 世界人口は増え続け,食糧供給は深刻な問題です。また,食生活の欧米化で,例えば中国では牛肉,牛乳の消費量が増加しています。肉類の生産には多量の水と飼料が必要なので,今後の大きな問題です。現在,大豆はアメリカ大陸とアジアで生産されています。アフリカ,豪州,欧州ではまだなので,他の穀物に比べて増産の可能があります。

 食肉生産を高めるために大豆を使うこともあるのですが,大豆や大豆たん白質は栄養や健康効果が非常に優れているので,食糧源,たん白質源としての価値と魅力はますます高まると考えています。世界は食糧,環境,エネルギーなど大きな問題を抱え,個人レベルでも生活習慣病,メタボなどの問題を抱えています。諸問題の解決に大豆が一部なりとも力を発揮できると私たちは考えており,これからも研究開発を進めていきます。