大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2012年5月25日(金)第4,394回 例会

米国,中国における製造物責任(PL)訴訟について

山 本  善 三 君(保険業)

会 員 山 本  善 三  (保険業)

1953年生まれ。’75年 成蹊大学経済学部卒業。同年東京海上火災保険(株)(現東京海上日動火災保険(株))入社,中部・北陸本部浜松支店長,理事事務会計サービス業務部長などを経て,’06年執行役員営業企画部長,’07年常務執行役員,’11年より専務執行役員。
当クラブ入会:10年10月

 2年間お世話になりましたが,転勤できょうが最後になりました。最後の日に卓話をさせていただく,こんな名誉はありません。最近中国も含めてPL(製造物責任)問題は随分大きく騒がれています。米国の実情や中国の実態も含めて,お話しします。

PLとは

 製造物責任は,一般的には製品の欠陥によって,ユーザーや第三者が負傷したり,財産に損害を与えた場合,さらに,その製品以外のものに拡大損害が発生したケースのことで,メーカー側が法律上の賠償責任を負うということです。ここで重要なキーワードは「欠陥」と「拡大損害」です。製造物責任は,英語で「Product Liability」。「PL」はその頭文字です。日本では1995年に法律ができました。

 テレビを例に考えてみます。①映像は出るけれども色が出ない。②長時間見ていたらテレビから火が出て,テレビが損害した。③テレビから火が出て,テレビだけではなくて家まで燃えてしまった。メーカーの製造物責任に当たるのは③です。燃えたテレビには「欠陥」がありましたが,「拡大損害」は製品以外のものに拡大して発生した損害のことです。②の損害はテレビのみ。③家が燃えたので「拡大損害」でPLの対象になります。

米国の実情

 米国のPLリスクをお話しします。米国連邦地方裁判所に提起されたPL訴訟件数はどんどん増加し,最近では年に6万件を超えています。一般的に連邦地方裁判所に提起される訴訟は,州裁判所に提起される件数の5%なので,全米では120万件のPL訴訟が毎年発生していることになります。日本で年間10件程度なので,米国の訴訟社会の激しさが垣間見えます。米国の原告勝訴率は平均で44%です。賠償も高額な事例が多く,肺がんになった女性がたばこ会社を訴えて,2兆8,000億という評決が出ました。米国の裁判制度は陪審員制度ですが,その陪審員制度で勝敗と損害額の決定を行うことを評決と言います。そこから最終的に裁判があります。

 米国が訴訟社会の理由は,まず,弁護士が多い。「完全成功報酬制度」で,金銭がなくても原告側は弁護士を起用して訴訟を起こせるルールです。PLについては特に完全成功報酬制度になっているので,仮に原告が負けても腹が痛まない仕組みになっています。「懲罰的損害賠償制度」も特徴です。社会的責任を金額で負担させることです。商品に関する技術的な問題や中身がきっちり理解できない素人の陪審員も結構多いため,感情に流されて結論を出すケースもあります。

中国の事例

 中国のPL事情ですが,権利意識が高くなり,賠償額の高騰につながっています。外国企業が標的になることも,頻繁になりつつあります。この20年ほどで中国では多くの法律が誕生し,弁護士もついていけない状況です。その中で,判例が形成されないで裁判の予測が困難という状況にもあり,思わぬ判決が出る可能性があります。

 中国のPL訴訟を語るうえで重要な存在になるのが「消費者団体」です。全土に約3千あるそうですが,この消費者団体が受ける苦情の6割は品質に関する補償らしいです。今は品質問題ですが,拡大解釈でPL問題につながる可能性もあります。日中間では,歴史や,尖閣問題など反日感情が高まると,いろんな訴訟が提起されることもあります。

 中国でのPL事故の事例をお話しします。中国は偽物が多いのですが,日系メーカーのマークをつけた偽物の四輪駆動車にはねられた人が,運転者のみならず車にも欠陥があったということで,日系メーカーを訴えました。結論としては,日系メーカーが調査をして,密輸をして組み立てた製品であると証明したために原告が負けました。ただ,偽物と立証するのはメーカー側にあるので,証拠も含めて迅速に確保することが重要です。

PL対策

 企業のPL対策は,事故発生防止対策の「PLP」と,事後対策「PLD」が重要です。PLPの中心は,製品の設計上の欠陥,製造上の欠陥,製品の使用に関する指示・警告上の欠陥をなくすための製品安全活動です。

PLDは,仲裁・和解・裁判といった訴訟への対策やPL保険加入などからなります。事故の予防策,事故の防御策,この両方を検討する必要があります。

 PL対策を米国と中国に分けてお話をします。米国は出口です。訴訟を受けたときに,企業が責任を免れるための証明がポイントです。設計,警告の不備については,安全基準を明確にして,製造時には安全な設計だったことを証明する必要があります。製造の欠陥を問われた場合には,十分なテストを行っていることを証明する必要があります。事故が自社以外の過失によって発生したことを証明するのです。

 中国の場合は,今は入口。予防対策の確立です。まず,中国国内の規格だとか基準を満たす。次に,同じ製品を他国で発売している場合には,同一レベルの安全対策をすることが必要です。それから,これは実際にある話なんですが,家電製品で中国語の取扱説明書が添付されてなかった,これは基準違反ということで認定をされたことがあります。中国語で表示をしていなければ,警告をしてないのと一緒という判断でした。

 PL事故は発生する可能性がゼロではありません。事故が起きようと起きまいと準備が大切です。国によって制度が違うので,グローバルなPL体制が重要になってきます。