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2012年5月18日(金)第4,393回 例会

東日本大震災と弁護士の活動

三 木  秀 夫 氏

弁護士 三 木  秀 夫 

1955年生まれ。’84年大阪弁護士会登録。’91年三木秀夫法律事務所設立。’10年大阪弁護士会副会長,同年日本弁護士連合会理事,
’11年大阪弁護士会災害復興支援委員会委員長

 昨年3月まで大阪弁護士会の災害対策担当の副会長だったのですが,任期の終わる最後の月に東日本大震災が発生しました。その関係で対策本部をつくり,任期終了後も1年間,災害対策委員長を務めました。災害時に弁護士は何ができるのか,何をしたらよいかを悩みながらの1年間を,振り返ります。

早い始動

 昨年3月11日,東日本大震災が発生しました。特に大阪は,95年の阪神淡路大震災のときに法律相談等に力を尽くした経験もあったので,東日本大震災でもノウハウを生かそう,という声が強く出ました。最初に,法律相談時のQ&A作成に着手しました。大規模災害には特有の問題が多くあります。阪神淡路大震災のときには大阪弁護士会が中心になりQ&Aを作っています。しかし今回は,津波被害,原発事故,と初めて直面する問題がありました。そのために日本弁護士連合会を中心に私たちも参画しました。

 その作業中,大阪にも被災者の方々が避難していることがわかりました。親戚が被災地にいる方もおられます。3月28日から弁護士会館で無料相談を始めました。4月からは無料電話相談も始めました。この二つは現在も実施中です。相談内容は,最初のころは罹災証明のもらい方,生活再建支援制度の使い方やローン,リースの問題,労働問題などです。後半は原発問題。特に賠償の問題です。

 4月4日に岩手弁護士会から応援依頼がありました。大阪の約3,600人に対し,岩手弁護士会会員は80人。しかもほとんど盛岡在住です。盛岡から被害が大きかった三陸地域まで車で約2~3時間。依頼は,岩手・花巻への航空便がある札幌の弁護士会と兵庫,大阪の弁護士会に入ったわけです。

被災地へ

 応援弁護士は募集をかけると,たくさんのメンバーから手が挙がりました。私も4月15日から陸前高田市に入り,いろんな相談を受けました。相続,死亡弔慰金の問題,賃貸借の問題,労働問題……。私の受けた相談の中で,幾つかご紹介いたします。

 漁業を営んでいた60歳の男性はローンやサラ金からも借りていて,被災後に非常に激しい取り立てを受けているという相談でした。30歳の男性は,両親がともに津波で行方不明。両親が注文主になって,家を建築中でした。残りの代金をどうするかという深刻な問題でした。60歳代の方は,息子さんは前に亡くなっていたが,津波でお嫁さんが亡くなられ,小学校1年生ぐらいのお孫さんが生き残った。今後自分が育てていかねばならないが,どのようにしていったらよいのかというご相談でした。非常に深刻な問題ばかりで,たいがいの方が死亡が絡んでいて,法律相談というより,心の悩みを聞くだけで少しは役に立つかなというようなことでした。

被災者の数だけ悩みがある

 派遣は5月で一段落しました。大阪に多くの避難者が来られ,それもだんだん増えている。大阪でもやることがあるとわかったからです。大阪府や市町村に確認しましたが,個人情報を理由に詳細は一切教えてくれませんでしたが、次第に情報共有ができるようにはなりました。今,約2,000人の避難者が大阪にいますが,7割が福島原発絡みの避難者です。

 避難者への聞き取り調査で,課題も見えてきました。受け入れ後の支援の問題。個人情報を理由として避難者に情報提供ができにくい。受け入れが少ない自治体は放置状態であるため,避難者同士のつながりができにくい。それを受け,弁護士会として三つの大きな避難者支援の取り組みを行ってきました。一つ目は,「大阪弁護士会ニュース」をつくり,避難者に市町村を通じて配る。二つ目は,避難者の思いや悩みを聞く活動。三つ目は,このような支援を,府や市町村,民間団体と連携して実施する,です。

 その中で一番の問題は福島の原発問題です。特に賠償問題が,本当に深刻です。昨年8月に政府の中間指針が出て,その後東京電力から直接請求の書類が送られて来ましたが,弁護士が見ても複雑なのです。加害者側がつくった書類なので,完全に東電の論理でできています。自主避難者は対象外の扱いなので,放っておけないということもあり,弁護士会が窓口になって相談に乗り,弁護団もできまして交渉を進めています。

 内部被曝の問題もあります。自主避難者は日本中に散らばっています。健康調査をきちっとやってください,地域で線引きをせずに,ずっとやってください。これは必ず言い続けないといけません。水俣病のときも,地域での線引きや,一定時期で打ち切るなどということがあり,同じような問題を今回も起こしてはいけないので,声を強く上げています。

息の長い支援を

 東日本大震災から1年2カ月が過ぎました。避難者は孤立感,孤独感が非常に高まっています。今後,きめ細やかな支援が求められます。東京電力からの賠償は遅々として進まない。住まいの問題,雇用,子どもへのイジメ,高齢者の認知症など多くの問題を避難者は抱えています。今私が一番気にかけているのは,避難者の間でも幾つか分断状態にあるということです。避難命令のあるなしなどで微妙な意識の差があります。

 すべての方々が個別に非常に不安な状態です。私たちは全員にきちっとした補償,生活安定ができるように対応したいと思っています。私たちが連絡をとりまして,支援団体のネットワークの連絡協議会がようやく立ち上がったところです。皆様方のご支援もいただけたらと思っている次第でございます。