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2012年4月20日(金)第4,391回 例会

グローバル人材の育成拠点としての
オーストラリア

Christopher Rees 氏

会 員 Christopher Rees 

1961年生まれ。’82年グリフィス大学理学士,’88年ニューサウスウェールズ大学社会科学修士。’83~’89年豪州三井物産(株)はじめ民間企業勤務後,’92年豪州政府貿易促進庁入庁。’92年~’97年在福岡領事,’99~’03年在香港副総領事などを歴任し,’09年から現職。
当クラブ入会:’09年4月

 3年間例会に参加して,数多くの面白い卓話を聞いてまいりましたので,私の話はそれほど面白くないかもしれません。しかし,日本経済の将来にとって非常に大切なトピックを選びましたので,関西のビジネスリーダーの皆様にとって興味深く感じていただけるだろう思います。(スライドとともに)

人材のグローバル化

 そのトピックとは「日本の人材のグローバル化」です。私は,日本の商社に勤務していたとき,幅広い産業分野で豊富な経験を持つ,有能なジャパニーズビジネスマンにたくさん出会いました。そのため,私は,日本の労働力は非常にグローバル化されていると理解していました。しかし,ここ数年で,日本のリーダーたちが,企業の海外拡張計画にどのように対応していくかという問題が注目を集めています。私には,二つの出来事が同時に起こり,混在しているように見えます。

 まず一つに,日本経済の問題があります。経済成長が長期に鈍化するなか,多くの日本企業が海外,特にアジアヘの拡張に目を向け,より低いコストを求めて生産拠点をアジアに移転しています。アジア諸国は成長を続け,魅力的な市場にもなっています。日本の海外ビジネスヘのアプローチは,より洗練されたものになりつつあり,また,一層切迫したものとなっています。統合した海外ビジネスを展開するには,ビジネスをうまく管理できるスキルを持つスタッフが必要です。

 また一方で,企業が今必要としている,国際スキルを身につけた,いわばグローバルなものの考え方のできる日本の若年層は,まだ少ないように思います。長引く不況が,若者を保守的にしてしまったという意見があります。また,学力低下とも関連づけられる「ゆとり教育」のせいだという意見もあります。おとなしく,競争を好まない「草食男子」と呼ばれる若い男子が増えてきたことを引き合いに出す人もいます。

日本企業が求めるもの

 オーストラリア(以下,豪州)貿易促進庁は,豪州の教育産業の海外におけるマーケティングおよびプロモーションを担当しています。我々は人材のグローバル化に積極的な企業にインタビューを行い,レポートにまとめました。今回のグローバル人材に関する調査では,ソニー,楽天,ユニクロ,パナソニックなど多くの日本を代表する企業の人事の方々から,貴重なお話を伺うことができました。回答には幾つかの共通項がありました。

 一つ目は,スタッフに求めるスキルとして多くの方が「論理的な思考」や「プレゼンテーション能力」と答えたことです。特に望ましいのは,「異文化理解力」,「新しい環境への適応能力」のようです。また,海外で教育を受けた日本人や外国人のスタッフの優れた点は,会議に積極的に参加する姿勢や,会社の将来を考えていること,そして,自分自身その将来にどうやって貢献できるかを考えていることです。

 次に,スタッフの英語力を伸ばすことに力を入れている多くの企業でTOEICを採用していますが,本当に必要な英語力は,試験では測れない実際の仕事で使える生きた英語力が必要だという意見が出ました。そして,多くの人事の方から,「グローバルなリーダーシップ能力」の重要性についても多くの意見が出ました。印象的だったのが,一番グローバルな視点が必要なのは,海外で現地スタッフを管理するマネジャーであり,「日本DNA」を持ちながら,現地スタッフにこのDNAを伝えることが彼らの最大の課題であるというご意見でした。

豪州の国際教育

 今回の調査を踏まえた上で,豪州におけるグローバル人材の育成の土壌を紹介します。

豪州は多民族多文化国家ですが,人口に占める外国生まれの人の割合が,他の移民大国に比べて非常に高いことはあまり知られていません。2011年の統計では,人口約2,259万人のうち4人に1人は外国生まれです。

 多様性に富む豪州の教育制度は非常に柔軟で,国際教育が深く根づいています。まず,豪州に移住して間もない成人移民を対象に,英語能力養成のため,無料で学習の機会を提供しています。学校における英語以外の外国語授業にも力を注ぎ,外国語教育は小学校の低学年から始まります。’09年からは,政府主導で公立学校で,日本,インドネシア,中国などの言語の学習促進を図りました。

 豪州は古くから教育産業を重要な輸出産業として位置づけています。教育サービスの輸出額は,’06年以降,石炭,鉄鉱石に次いで第3位です。戦後,豪州はアジア太平洋国家として,南アジア,東南アジア諸国への経済・教育援助を目的としたコロンボ計画を開始,各国のエリート学生を大学に受け入れることで,国際教育が根づいていきました。

 ’91年には「留学生の権利を守る国家法」を制定しました。国を挙げての国際教育の推進の結果,豪州への留学生数は,’09年に60万人を超えました。豪州の大学で学ぶ学生の5人に1人は留学生です。留学生の多くは中国,インド,韓国などアジア出身です。日本からの留学生は,残念ながら11位です。日本のライバルであるアジア諸国の若者が,積極的にグローバル人材としての武者修行を海外の大学で行っている一方で,冒頭でお話ししたように,日本の若者の内向性がこのデータからも見受けられます。

 現在日本企業は,国際的に,特にアジアにおいて立場を強くする必要があります。成功は,人材育成によって大きく左右されます。わが国が,その成功のためにささやかながらお役に立てればと強く願っています。