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2012年4月13日(金)第4,390回 例会

橋下さんと平松さん

斎 藤    努 氏

羽衣国際大学 名誉教授 斎 藤    努 

1966年毎日放送入社。「ヤングタウン」(ラジオ)や「ヤングおー!おー!」(TV)パーソナリティーを務める。’76年東京放送出向。海外取材40カ国以上,教養番組を数多く担当。
MBSナウのニュースキャスター,テレビ制作部長,アナウンサー室長を務めた後’02年毎日放送退社。同年羽衣国際大学産業社会学部教授。放送・メディア映像学科長,副学長,’12年現職。

 昔,「ヤングおー!おー!」というのをやっていまして,「随分変わり果てたな」とお思いでしょうが,その分皆さんも変わり果てています(笑)。きょうのテーマは「橋下さんと平松さん」ですが,客観的な話ができればと思っています。(スライドとともに)

橋下氏はなぜ勝ったか

 昨秋,大阪市長選がありました。私は平松(前市長)さんの5年ほどアナウンサーの先輩なので,前回の選挙から街頭演説など応援しました。今回は選対本部にも入り,メディア対策も含め,戦略・戦術を練りましたが,結果は,メディア操作上手の橋下さんの勝利,メディアと市民の良識を信じた平松さんの負け,になったと思っています。

 橋下さんはメディアの操作がうまい。外形的,デザイン的なことをどんどん言います。まず「大阪都」。次に「維新八策」。外形的,デザイン的というのは,一般の方々の目を奪うにはいいんです。今のように閉塞感が漂う世の中では,皆さんの目は橋下さんを応援したという形なんでしょうか。

 簡単に大阪市長選挙の総括をします。橋下さんは75万票で58.96%,平松さんは52万票で41.04%。大体6対4で橋下さんがとりました。勝敗の要因は投票率の大幅アップ。無党派層のうち自民,民主系,まあまあ親派だった連中が橋下さんへ投票した。30代から50代の男性が圧倒的に橋下支持でした。自民,民主党の中央と市議団との意思疎通の欠如。それから,政策論争が通用しませんでした。平松さんは大阪市長選に出ていて,橋下さんは大阪都知事選に出ている。このボタンのかけ違いで平松陣営は弱ってしまいました。

ワイドショーの影響

 一番の問題は,メディアの動向でした。私たちは選挙戦を通じて橋下さんと戦ったイメージが全くなく,メディアと戦ったイメージが非常に強いのです。メディア出身の私も平松さんも,メディアがこんな具合に物事を曲げていくのかという部分を実感したのが今回の選挙でした。なかでも,私はワイドショーが大きな影響を与えたと思います。

 ワイドショーは一体何時間放送しているのでしょうか。大阪だと,毎日放送は朝6時から夕方7時までの13時間で,11時間が情報番組かワイドショーです。朝日放送は8時間。関西テレビは9時間。読売放送は11時間。これが競争のように同じネタでやっていく。投票行動への影響,ポピュリズムの醸成,チェック機能の喪失,政治の情報のパス回しというか,スポーツ選手や芸能タレントがこんなことまで言うのかなというような無責任発言で,市民の判断力が低下します。

 この数カ月でワイドショーが特に大きく取り上げた話題は,なでしこジャパン,オウム平田出頭,消費税,オセロ中島,原子力発電,大阪都構想,AKB48,木嶋被告練炭殺人,それと北朝鮮です。ワイドショーはセンセーショナリズムしか追えないという部分があります。インパクトを求めるため,制作者は単純に二元的な部分を強調します。「AかBか」という二者択一で,真ん中の部分は皆さんで考えろ,が制作姿勢だと思います。

 例えば,オウムの平田出頭はポイントがずれて「男と女の物語」に変わりました。オウムは日本の社会にどういう影響を与えたのかというような今に至っての分析,研究はほとんどありませんでした。原子力論議も中途半端。報道はするけれども検証はしない,この部分が今のテレビの思わしくない部分です。

SQを高める社会に

 なぜ橋下さんを応援する人が増えたか。それは「閉塞感」ということになるのですが,日本は戦後,社会的に発展して様々な変化があったのに,憲法,霞が関,公務員制度,地方制度,教育,社会福祉(年金・健保・介護),農業,税制はあまり変わっていません。この部分を変えないと日本はうまくいかないのではないかと思う人が多いのです。

 民主主義の振り子を考えてみました。民主主義は,社会民主主義と新自由主義があって,皆さんはその間で生活をしているんですが,今新自由主義の方向へ,要するに経済最優先という形で何とか突破口を開こうという形で動いています。これは国民の理解という部分が非常に大事だと思うんです。国民力が試されているのではないかと思います。

 私は,日本の国民力が落ちているような気がして仕方がありません。どの部分で落ちているか。人の能力別パターンは大きく三つあります。論理的,計画的部分のIQ。援助機能,他者優先機能,社会貢献機能など社会的な指数のSQ。感情制御・社会性のHQです。

 IQとHQは,日本はそんなに低くはないと思いますが,問題はSQです。昔は,このSQはもっと高かったんじゃないかと思います。いがみ合うんじゃなくて,コミュニケーションをとりながら,自分より相手という考え方を育てないことには,日本の社会はちょっと具合が悪くなるなと私は思っています。

 今の日本をつくったのは私たちです。団塊の世代の上10年,下10年ぐらいが今の日本をダメにしたと思っています。これは共同責任です。一生懸命仕事はやった。ところが後ろに続く人を育てるのを忘れたのと違いますか。若者の力がないのは事実です,私は大学で教えていて思います。これは教育学のせいでも,政治のせいでも,メディアのせいでもないです。全員のせいです。ですから,この今のすばらしい日本をつくり上げて,次の孫たちの時代にもやっぱりいい時代をつくるのは,まだ皆様方に残っている仕事だろうと,私も含めて思っています。