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2012年4月6日(金)第4,389回 例会

国連識字の10年-いま夜間中学があることの意味-

白 井  善 吾 氏

大阪府守口市立第三中学校夜間学級教員 白 井  善 吾 

1946年兵庫県生まれ。’69年大阪教育大学卒業。同年より公立学校教員。’87年より現在まで大阪府守口市立第三中学校夜間学級教員。編著書「新編・文字はいのちや・学校はたからや」,「学ぶたびくやしく,学ぶたびうれしく」他多数。

 「今,夜間中学があることの意味」を現場からお伝えできたらと思っております。

まだ多くの非識字者がいる

 地球上の約10億人が,今も「非識字」です。「文盲」は使わないでいただきたい。韓国には「文解=ムネ」という言葉があります。識字と同義語です。「文字を理解するという意味に加え,文字を知らぬがゆえに知り得なかった文化を理解し,文化的に阻害されてきた状態から自分たちを解放する」との意味が込められているそうです。単に文字を知るだけでなく,その文化活動に自分を置くことが,国連が目指す識字だと思っています。

 現在,日本では義務教育未修了の人たちが,国勢調査などによると約175万人います。学歴などを記載しなかった「不詳者」を入れ込むと,非識字の状態に置かれている人が約300万はいると思います。未就学者が一番多いのは大阪で,1万900人。東京は7,900人ですが,「もっといるのでは」というのが現場での実感です。それと,15~19歳の年代の中で,速報値では6,700人が未就学だと答えている。つまりこの人たちは今もつくられているということです。10年前の統計だと3,515人ですから,1.9倍も増えています。

夜間中学いろは歌

 資料の「守口夜間中学いろは歌」は,夜間中学生が学びの中でつくったいろは歌です。「い」,「一枚の ビラのおかげで 入学できた」。夜間中学生が町に出て,義務教育未修了の人たちにビラを届ける。そのビラを持ってたどりついたということです。「ろ」,「老眼で ならいはじめた あいうえお」。今年の例だと80歳を超えた人が夜間中学の門をたたきました。「は」,「初めての 机にすわり 手がふるえた」。何としても学校に行きたい,やっとたどりついた。という感動を詠んでくれました。「く」,「くぐった校門 勇気が要った」。なかなか門をくぐれなかった。ある夜間中学生は懐にナイフを忍ばせたと言うんです。「もし断るんだったら,このナイフでと思った」と。「本当にこの歳になって勉強させてくれるんか」と思ったと言うんです。「ね」,「年齢差 こんなにあるのも 夜間中学」。十代から80を超える人たちが,一緒のクラスで勉強しています。もちろん国籍が違う人も一緒です。「え」,「遠慮なく 本名でよぶ友だちどうし」。夜間中学には,今は少なくなってきましたが,在日韓国・朝鮮人の人たちもたくさん学んでこられました。日本名でなく,本名で呼んでもらえた。自己を解放して,学べる幸せを詠んでくれました。

誕生の背景

 夜間中学は歴史的・社会的・経済的な事情で学齢時に義務教育を保障されなかった人たちが,留保していた学校教育を受ける権利を行使する場です。年齢に関係なく学校教育を保障する制度で,こんな教育制度は世界でも日本の夜間中学だけと言われています。夜間中学は,市民の運動によって生まれました。先駆けは,1947年の大阪・生野第二中学,現在の勝山中に開設された「夕間学級」です。子どもが労働力だった時代,「夕方からなら学校に行かせられる」という声で,夕方に学びの場を設けました。

 66年,行政管理庁(現・総務省)は夜間中学廃止勧告を出します。昼間に働かせて夜学校は認められない,が理由でした。立ち上がったのが,夜間中学の卒業生です。自分たちでつくった映画を,全国で上映しながら夜間中学開設運動をやった。そして,開設されたのが大阪・天王寺の夜間中学でした。今,全国で35校。大阪には一番多い11校あります。生徒は日本人が20%,在日韓国・朝鮮人が14%,中国からの引揚帰国者,残留孤児,残留婦人,その家族らが21%,難民0.5%,移民1%,その他42%です。

夜間中学の存在意義

 高校生が訪ねてきたとき,一緒に授業を受け,夜間中学生にも教えました。気づいたのは,夜間中学生の輝く目,学ぶ姿勢です。高校生は「自分の勉強は『習う』だった。夜間中学生の学びは『学ぶ』と『習う』がある」と言いました。積極性のある,なしだと思いますが,「学ぶ」と「習う」は少し違います。高校生は「学ぶということがいかに大切か,そして,学ぶということを楽しんでおられると思った。これからは,自分も学と習を合わせた『学習』で積極的に授業を受けていきたい」ということでした。

 小学生が訪ねてきたときは,感じたことを詩にしてくれました。「夜間中学生から学んだよ。いろんな人が通えるよ。昔の時間を取り戻せる。皆仲良し。これこそ宝物の夜間中学校。夜間中学生は優しいな。知らなかったことがわかったとき,うれしい,楽しい,そんな学ぶ姿勢に感動した。夜間中学生のすごいとこ,勉強を楽しいと思えること,勉強に熱心なところ,つらい昔があったけれど,耐えて,耐えて生きている心の強さ。そんな夜間中学生は,夜に光を放っていた。私たちは今を頑張る。夜間中学生を見習いながら,少しでも負けないように,強くなって,思いやりを持って,昼の中学校で見えない光を放ちます」。私はこんな学びの場がある夜間中学を,とても大切にしたいと思っています。

 夜間中学就学援助・補食給食が,橋下さんが知事になったときに切られてしまいました。夜間中学生たちは「獲得した文字と言葉で,これから夜間中学にたどり着く人たちに夜間中学を届ける」という決意で存続の署名活動を行いました。夜間中学は法律に明記されていないので,明記してもらう取り組みも進めています。これからも,夜間中学を頭の片隅に置いていただければ光栄に思います。