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2012年3月23日(金)第4,387回 例会

今一番聞いて頂きたいこと

堤      堯 氏

ジャーナリスト・評論家 堤      堯 

1940年生まれ。’61年,東京大学法学部卒業。文藝春秋に入社。『諸君!』『文藝春秋』各誌の編集長。『週刊文春』編集局長,出版総局長などを歴任,常務,常任顧問を経て退社。著書に『昭和の三傑-憲法九条は「救国のトリック」だった』,『阿呆の遠吠え』等

 今,「原発は危ない。やめよう」,「すぐやめるわけにはいかない。漸減だ,プラス自然エネルギーの利用だ」と,二者択一になっています。ところが,第3の道を説いた人物がいます。「古川和男」です。古川和男氏は安全な原発を研究,検証した方です。安全な原発なんてあるのかとお思いでしょう。あるんです。「トリウム溶融塩炉」と言います。

トリウム溶融塩炉とは

 現行の原発は「ウラン原発」です。溶融塩というのは,例えばガラスも溶融塩で,ケイ酸を主成分にした溶融塩です。この溶融塩の中にウランの代わりにトリウムを投入して核分裂させるのですが,核分裂を利用するのはウラン原発と同じです。固体ではなく液体燃料を使うのですが,様々な利点があります。

 まず,東電福島原発のようなシビアアクシデントは起きない。事故があった場合,その燃料はガラス状に固まってしまいます。今,福島原発では上と下から放射能を垂れ流していますが,このトリウム溶融塩炉の場合,固まってしまいます。それから,プルトニウムは少し出ますが,廃棄物が少ない。プルトニウムをリサイクルして,消滅させることもできます。さらに,炉が小型化できます。トリウムの埋蔵量は世界に豊富で,ブラジル,インド,トルコ,ベネズエラ,アメリカでも見つかっています。

 このトリウム溶融塩炉,実は日本でも30年前に一躍脚光を浴びたことがあります。古川和男氏が米国・テネシー州のオークリッジ研究所に行きまして,独自の構想を加えて「FUJI」というモデルをつくりました。そのモデルを物理学者で第一次南極越冬隊長を務め,日本原子力研究所の理事でもあった西堀榮三郎氏に相談した。ソニーの井深大氏,東大学長の茅誠司氏,後の第二臨調会長,土光敏夫氏も関心を示し,政界も反応して議員連盟もできましたが,頓挫しました。

頓挫の理由

 なぜダメになったかというと,二つ理由があります。まず政治的理由です。米国ではオークリッジ研究所でトリウム溶融塩炉が成功して,丸4年間,2万6千時間稼働したんです。ところが「運用に適さない」と政治的につぶされ,予算もカットされてしまった。

 戦後長く,連合国から原子力の研究を規制されていた日本が,高速増殖炉の研究を始めたいと米国に求めたさい,当時のカーター大統領は「高速増殖炉よりも,トリウム溶融塩炉を開発したらどうか」とアドバイスします。カーターは政界進出前は原子力潜水艦の研究者だったので,原子力もトリウム溶融塩炉も知っています。自分でもやりたかったと思うんですが,ウラン派で軍産複合体が固まっているので,プルトニウムが出ないのは運用に適さないと,実現できませんでした。

 もう一つは石油危機です。当時日本の発電量の7割を石油でまかなっていたのですが,中東から石油が来ない。日本は八方手を尽くしてエネルギー源を求めました。ところがダメ。もう原発しかないと米国製の原発にスライドして,あれよあれよという間に54基もつくってしまいました。

トリウム原発反対派への反論

 現在も石油の値段は上がっています。イラン問題もあり,八方塞がりです。トリウム原発の再評価があってしかるべきです。古川氏は生涯をトリウム溶融塩炉に捧げました。去年の12月14日に,84歳でお亡くなりになったのですが,もったいないことをしたなと思います。彼によると,300億円あれば実験炉ができるんです。  原子力村の人たちは,「トリウム溶融塩炉は無理」と言う。理由は「塩を使ったら腐食する」。原発事故の際,東電が海水注入をためらった のは,海水を入れたら炉が腐食してしまうからです。しかし,塩を使うと言っても,塩は800度以上の高温にすると,サラサラした透明な液体になる。その透明な液体は,海水とは全然違います。  それから,ウラン原発に比べてトリウム原発のほうが高温で稼働するので,高温に長期間耐えられる容器,圧力容器,格納容器ができない。仮にできたとしてもコストが合わないと,言う人がいます。これもウソです。炉の中身の9割が黒鉛で,黒鉛は熱に強く融点は4,000度。1,000度でやってもビクともしない。ウラン原発は350度ぐらい,トリウム原発は700~800度ぐらいですが,容器は問題視するに当たらない。

まず,実験炉を

 欠点は確かにあります。トリウムは天然でトリウム232の状態ですが,これに中性子をぶつけるとウラン233に変わり核分裂を起こして熱を発する,それを利用しようという仕組みなんですが,この中性子の不足を指摘する人がいます。古川氏も,欠点があるとすれば唯一それが欠点とおっしゃっていましたが,先ほど申し上げたようにオークリッジ研究所で4年間,2万6千時間稼働したので,やればできるんです。諸外国は今,関心を持って研究を進めています。中国は1,000億円の予算を計上してトリウムの開発をやろうとしています。トルコ,米国,フランスもです。

 今までウラン原発に頼り切っていたから,新しい道,一番難しいのは固体燃料から液体燃料に変わる,そうすると考え方を変えなきゃいけない。それは非常に難しいと,古川氏がおっしゃっていました。とにかく第3の道としては研究に値します。この間もアフガニスタン支援に2,000億円という報道がありましたが,実験炉は300億円でできる。実験炉ができてやってみれば,それがいいか悪いか一目瞭然,百の議論を超えるのです。