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2012年3月16日(金)第4,386回 例会

世界の中の日本

加 藤  隆 俊 氏

財団法人 国際金融情報センター
理事長
加 藤  隆 俊 

1941年生まれ。’64年東京大学法学部卒業,同年大蔵省入省。’89年神戸税関長,
’93年大蔵省国際金融局長,’95年大蔵省財務官。
’98年米国ブリンストン大学客員教授,’00年米国クレアモント大学客員教授,’04年 国際通貨基金(IMF)副専務理事。’10年 9月より現職。

 「世界の中の日本」というテーマで,ややお気に障るようなことを申し上げるかもしれません。今まで15年間海外で生活しました。ある意味では浮世離れしていますので申し上げることも毛色が変わっていると思います。

新興国市場が世界経済の鍵を握る

 IMFの副専務理事だった6年間で約70国を担当しました。そのなかで,考えたことが二つあります。まず景況感,世界経済の景色の変化です。私は04年にIMFに移りました。その前年,中国のGDPは日本の38%だったのですが,一昨年に抜かれました。世界の国から見て,中国の存在感が大きくなり,日本の存在感が小さくなった。

 2010年のGDPでは,ベスト20のうち9カ国が新興市場国です。80年代に日本とドイツが世界経済を牽引する機関車の役割を果たす,という議論がありましたが,最近は世界経済の成長エンジンは中国,インド,ブラジル等の新興市場国に変わってきています。中国,インドは10億人を超える国ですが,インドネシア,ブラジルも2億人です。日本企業がインドネシアの国内市場なり,ブラジルの資源なりに再び関心が寄せているのもむべなるかなと思います。

 特にアジア各国は国民の年齢平均が若い国です。インド,インドネシア,フィリピン,ベトナムは,それだけ能力が高いと考えられるので,今後の成長を考えると,規模の大きい新興市場国の市場が,日本のみならず先進国各国から関心を集めます。これからは先進国よりも,新興市場国へ資本が流れていく世界経済の構造になるように思います。

グローバル化する経済

 2番目に抱いた考えは,世界経済はこの10年で本当にグローバル化したということです。サブプライム,リーマンショック問題が起きたとき,日本の金融機関はバブル崩壊以降の経験からほとんど影響を受けなかったのですが,その後の世界経済の急減速で,輸出の落ち込みが一番激しかったのは先進国の中では日本です。97,8年のアジア通貨危機のときは世界経済全体がものすごい影響を受けたということはなかったように思います。

 今週,米国とカナダの年金担当者と会いましたが,最初の質問は「日本国債の金利はいつから上がり始めるのか」でした。日本国債の規模,発行残高は世界一です。IMFの分析では,日本国債の値段が大幅に下がるときは,米国,ドイツ国債の値段も下がります。IMFの分析を見ると,日本発の世界経済危機という意味では,日本国債の大幅な値崩れが一番の危機という分析になっています。

 それから,今の世界経済のグローバル化の2点目が,ユーロ危機です。現実に単一の通貨,中央銀行という仕組みができた以上,うまく機能しないと世界経済全体が影響を受けます。努力の跡もうかがえます。例えばEU諸国の銀行の監督は,ユーロ発足当時は各国の政府,中央銀行が担当していましたが,現在はEBAという機構が統一的なルールをつくっています。銀行監督については,欧州全体の仕組みがある程度機能し始めてくると思いますし,立ち行かなくなった銀行への資本注入も,原則はそれぞれの国で政府が手当てしますが,できない場合にはEFSF(欧州金融安定ファシリティー)から借り入れることができる,と進歩しています。

 これらはユーロ圏自身の問題と思われるかもしれませんが,日本の輸出市場としてのユーロ圏のウエートは11%で,さほど大きな規模ではない。ところが,中国は22%で,これは中国から見て,他のアジア諸国とほとんど変わらない。中国がこの間の全人代で,今年の目標成長率を8%から7.5%に引き下げましたが,理解できます。また,米国から見たEUの輸出ウエートは18.8%です。中国の経済成長率の減速,米国の成長率が足を引っ張られるということを通して,日本経済もユーロ危機の影響を受けます。

日本が取り組むべきこと

 日本がもう少し大切にすべきではないかと思う点が,国際準備通貨としての円です。円ドルは依然として世界で3番目に為替市場で取引されている通貨です。中国の人民元は,まだ1%弱です。中国は人民元を準備通貨化しようとしていますが,一朝一夕でできる話ではなく,入念に準備をして金利の自由化,通貨の交換性などを備えて初めて国際準備通貨として取引される通貨に成長するのです。日本は,円という一種の国際公共財を大切に育てていく必要があります。

 外国を参考にすべき点もあります。一つは,ドイツです。ドイツは日本人と同じく英語が下手で,外交感覚が非常に乏しいと言われていましたが,IMFではドイツ人職員の数や,管理職も増えました。ユーロという同じ通貨のもとに多くの国が入っているので,どうしてもコミュニケーションは英語,となります。また,欧州ではフランスの大学に行っても、オランダの大学に行っても、ドイツの大学に行っても単位がとれ、それがカウントされるという取り組みも始まっているので,おのずと国際性が育まれます。日本で言えば,例えば日中韓で留学生を受け入れることを超え,互いに共通単位を設けるなどといった方向に進んでいったらどうかと思います。

 シンガポールから学ぶ点もあります。シンガポールは,今,アジアで1人当たり所得が一番高い国です。シンガポールの女性の出生率は、日本と同じか、低いかもしれません。それなのに、日本以上の成長率をキープしている一つの理由は,移民,外国人労働者です。もちろん社会問題はありますが,そうやって国としての活力を補っている。日本人にとって外から人を迎えるというのはまだ容易ではありませんが,もう少し他国の成功例から学んでもいいと思います。