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2012年2月3日(金)第4,380回 例会

グローバル化時代における国際協力
-企業・大学・個人

住 村  欣 範 氏

大阪大学
グローバルコラボレーションセンター
副センター長・准教授
住 村  欣 範 

1991年大阪大学人間科学部卒業。
’96年同大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。’97年9月~’99年9月ハノイ国家大学ベトナム研究文化交流センター留学。’00年9月大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。
’07年より同大学グローバルコラボレーションセンター准教授,同大学同センター副センター長。

 きょうは,世界理解月間記念例会の卓話ということで,「グローバル化時代における国際協力―企業・大学・個人」をテーマにお話しします。(スライド使用)

GLOCOLの概要

 私は以前,大阪外国語大学ベトナム語科でベトナム語や,ベトナムの文化,社会について講義をしていました。文化人類学者ですが,2007年,阪大と大阪外大の統合を機に,グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL)に籍を移し,国際協力・開発・交流を手がけるようになりました。

 グローバルコラボレーションセンター

(GLOCOL)は現在,グローバル人材の育成・国際協力・開発,そして共生社会,多文化共生社会の実現を事業の柱にして活動しています。これらの活動を大学の中で,海外体験型教育企画オフィス(通称FIELDO)に還元して,インターンシップやフィールドスタディーを海外で行うような教育プログラムを全学に提供しています。

 最近,そのことをもう少し意識的に行うようにしているのが,GLOCOLトリニティ・スパイラルアップというもので,トリニティというのは三位一体,スパイラルというのは循環的に昇っていく--このトリニティが何かと言うと,これもGLOCOLの創立当初から「実践・研究・教育」を連携させる,つなげていくということです。

グローバル化時代における国際協力

 近代化の過程で個人と技術の結びつきが非常に強くなりました。技術は国,企業だけが使うのではなく,個人が,それも消費的に使うものになりつつある。これは特に途上国において顕著です。一番気になるのが,食品に対する化学物質の使用,特に途上国における個人と化学物質の結びつきです。このテーマは上野製薬株式会社との国際共同研究のテーマの一つになっています。また,3月からベトナムで始める「薬剤耐性細菌の発生機構の解明と食品管理における耐性菌モニタリングシステムの開発」事業にも関係しています。

 日本では食品に対する化学物質の使用は,生産する企業で厳密に自己管理され,それに対する評価も一定の基準に従って受けているので,ある程度安心して食品を食べることができます。しかし,例えば東南アジアでは必ずしもそうではありません。化学物質は非常に安価に,それも容易に個人や小さな集団で手に入れることができます。

 もう一つ典型的なのは,薬剤耐性菌の発生に関係する抗生物質の使用です。ベトナムや中国では,抗生物質,抗菌剤がドラッグストアで容易に購入できます。個人が適当に薬を飲んで,細菌が消える前に投薬をやめてしまう。確定的ではないですが,日本人と比べると,タイやベトナムでは,数倍の割合で耐性菌のキャリアがいる結果が出ております。恐らくそれはこういった食品における化学物質,抗菌剤の使用と密接に関連しています。

 ベトナムと日本はEPA(二国間交流協定)が結ばれており,今後ベトナムからの食品輸入の拡大が考えられます。そういった中で,ベトナムで抗生物質,化学物質の使用状況,耐性菌の問題に取り組むことは,ベトナム,途上国への支援のみならず,日本にとっても密接に関係があるテーマであると考えて,この事業を展開しています。

大学,研究機関と企業との連携

 次に申し上げたいのは,ダウンサイドリスクへの対応力です。大規模な災害,被害と並行して,個人や小さなコミュニティーのレベルで,目に見えない形で進んでいるリスクも存在しています。日本の外務省,JICAなどは,人間の安全保障という概念を非常に重視しています。これは国家の安全保障という概念に対置されるもので,発展よりは危機的な側面を重視する。国のような大きなレベルの社会よりは個人やコミュニティーでのリスクを重視する。我々もそういった概念に基づいて研究や実践を行ってきました。

 もう一つ重要なのは,単にダウンサイドリスクがあるということに受け身になるのではなくて,はね返していく力です。ベトナムはかつて,鳥インフルエンザの死亡者数が世界で一番多い国でした。それが5年後には沈静化し,今ではWHOなどからも高くその制御力を評価されるような国になっています。

 ダウンサイドのリスクや,現実に問題が起こったときの対応力,あるいはそれに先立って,見えないリスクを顕在化させる能力といった先端的な取り組みは,従来大学,研究機関が行っていくべきものだったと思いますが,こと個人の持っているリスクに関しては,企業の活動が非常に大きく関わっています。なぜなら,企業は多くの場合商品を市場に出して,その過程で個々の消費者と関係する。同時に,どんなリスクが潜在しているかということを一番早期に発見しやすい立場にいると思うからです。

 例えば,ベトナムでは交通が非常に大きな問題になっています。死亡者数の原因は交通が一番多い。そこで,ホンダベトナムなどは一般のバイク使用者に対する教育活動を,積極的に展開してきました。

 食品の問題も,個々の消費者,流通業者,生産者に対して綿密なコミュニケーションをとりながら改善を図っていかなければ,問題が解決できないものであります。大学と企業の連携による社会先端的な問題への取り組みは,いわゆる科学技術的な先端的研究とは対峙していますが,そういった取り組みが行われることによって,日本の社会,あるいは協力先の現地の社会を成熟した社会にしていくことができるのではないかと考えています。