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2011年7月15日(金)第4,356回 例会

低線量放射線は怖くない

中 村  仁 信 氏

大阪大学名誉教授
医療法人友紘会 彩都友紘会病院院長
中 村  仁 信 

1971年大阪大学医学部卒業。国立大阪病院放射線科医師,大阪大学講師,助教授を経て,教授。その間,米国オレゴン州に留学。
’09年大阪大学名誉教授,同年より現職。

 今,福島で低線量の慢性被ばくが問題になっています。放射線は線量が多いと怖いですが,低線量であれば怖くない。むしろ体にいいというところをお話ししたいと思います。(スライドを使いながら)

 一番大事なのは放射線を浴びたらどうなるのかということです。テレビに出たとき,「放射線を浴びると活性酸素が増えるだけですよ」と言いました。人間の体はほとんど水ですので,放射線は必ず水に当たります。放射線が水に当たると,H2OのHの分子が弾き飛ばされ,活性酸素ができます。

 活性酸素は毒性酸素と言ってもいいものです。活性酸素ができると,周りのDNAを傷つけ,その中の遺伝子も傷つけます。活性酸素は遺伝子だけでなくいろいろなところを傷つけ,多くなると細胞を壊します。いろんな病気の原因,老化の原因とも言われています。

たばこやストレスでも発生

 しかし,活性酸素が過剰に発生するのは放射線だけではなく,運動してもたくさんできます。アルコールの飲み過ぎ,食べ過ぎ,ストレス,炎症,たばこ,アスベスト,医薬品,いろんなことがあります。1981年にドールという人が考えたがんの原因にほとんど入っております。これらが重なると,より発がんリスクが高くなります。たばこやらストレスやらで活性酸素がたくさん出ている人に,放射線で追い打ちをかけるのはよくないわけです。

 DNAが活性酸素で傷ついても,ほとんどが修復されます。修復がちゃんとできないものもあるのですが,そういう細胞はかってに自爆する。ですから,ほとんど心配ないわけです。

 死ぬ細胞が多いと,障害が起こってきます。白血球減少,頭の毛根細胞がやられて脱毛,いろんなことが起こります。

 さらに,必ずしも全部が修復されたり自爆したりするわけでなく,残るものもあります。残ると突然変異がたまって,がんの原因になるということです。

 これも線量が多いのと少ないのでは違い,福島で言われる低線量被ばくであれば,ほとんど数日あれば損傷は修復されます。

 もう1つのポイントは,被ばくが急性か慢性か。原爆の場合は急性被ばくです。福島の被ばくは慢性被ばくです。1回で浴びてしまうと,修復する量も少ない。分割すればするほど修復できるので,残る影響は少ない。

 もう1つ問題は内部被爆です。外部被爆が通り過ぎるだけに比べ,内部被爆は蓄積されるから怖いと言われます。しかし,被ばくというのは出ていくまでの線量を計算することができ,これをミリシーベルトで表します。このミリシーベルトで表された線量は,外部被ばくの線量と効果は同じです。内部被ばくを特別怖がる必要はないということです。

免疫弱っていると注意

 まとめると,被ばくすると活性酸素が出ますが,何もしなくても1日細胞当たり10億個ぐらい活性酸素が出ています。それに運動,紫外線,いろんなものを加えるともっと出ます。遺伝子損傷は,細胞当たり数万から100万起きていますが,ほとんどは修復されます。

 放射線はと言うと,1,000ミリシーベルトでやっと2,000個ぐらい。100ミリシーベルト慢性低線量被ばくではわずか200個です。これの突然変異も1個できるかどうかですが,何もしてなくてもDNAの複製などでDNAの変異は起こってしまう。

 これは大部分細胞自爆させられますが,それもくぐり抜け,がん細胞が毎日何千個もできています。われわれは何千個も毎日がんができているわけです。ですから,低線量放射線で1個や2個がんができたとしても怖くありません。数千個を免役細胞が処理するので,がんにならない。ただ,免役が弱ってるときはがんになるリスクが高くなります。

 発がんリスクから見ると,リスクがあることをしなくても,かってに遺伝子損傷が起こります。がんも生活習慣病と言うように,たばこ,飲み過ぎ,食べ過ぎ,いろんなことで活性酸素が増え,遺伝子損傷が増えます。

 慢性の炎症,胆石があって胆のう炎が続くとがんになったりします。これも活性酸素がよく出る。発がん物質では,活性酸素と関係あるのもないのもありますが,これはDNA損傷を起こしてがんになる。これ以外にもウイルスによってがん遺伝子がつくられますし,発がんリスクはものすごくあるわけです。

数値になるから気になる

 その中で,低線量放射線の発がんリスクはほとんどないに等しいです。ただ,ほかのと一緒になると少しでもリスクは増えると言えます。

 放射線は目に見えないので,見えない恐怖と呼んでいますが,数値として出ます。数値に出るから,かえって気になる。ほかにも運動とかストレスとかたばことか炎症,いろんなものによって活性酸素が出てDNA損傷を起こすが,数値として見えないから気になりません。

 チェルノブイリが今どうなっているかというのをNHKでやっていました。半径30キロは立ち入り禁止ですが,動物天国になっていました。ネズミを調べると,40世代ぐらい交代しているが,がんがない。他の動物が入り込み,木も生い茂っているが,がんや奇形はない。ところが,ツバメはがんができ,発育異常も見られた。ツバメは南方から飛んできます。非常に運動してくるわけです。活性酸素もたくさん出て,処理能力も限界に達している。その状態で被ばくすると,がんになるということです。

 私はがん専門病院でがんの治療もしています。お困りのときは声をかけてください。