1972年新大阪ホテル入社(現リーガロイヤルホテル),’80~81年フランスへワイン研修,’03年フランス共和国農業功労賞叙勲,
’08年大阪府「なにわの名工」受賞,’09年厚生労働省「現代の名工」受賞,’10年国土交通大臣賞受賞,’10年秋(社)日本ソムリエ協会会長就任。
ソータン,ビューン,タイティンガー,何か怪獣が出てきそうですが,全部ワインの名前です。一昔前は,結構こういう名前でワインが出ておりました。
ソータンは,フランスの貴腐ワインで有名なソーテルヌ地区のワインのことをいいます。ソータンはフランス語の英語読みなのです。
ビューンは,これもフランスのワインで,ブルゴーニュ地方ボーヌのワインを英語読みすればビューン,どっかに飛んでいきそうな名前です。
タイティンガーはシャンパンメーカー名で,テタンジェ社のシャンパンです。フランス語でテタンジェで,英語読みしたものです。
日本のワイン文化は,アメリカとイギリスの影響が強いものですから,フランスのワインなのに,アメリカ,イギリス読みが当時はよく使われておりました。
ちなみに,ブルゴーニュ地方を「バーガンディー」,私の職種ソムリエは「ソメリエ」と呼ばれておりました。
さて,「ワインの今昔」です。日本のワインの歴史をさかのぼってみますと,結構古くからあり,日本神話にも出てまいります。
それからしばらくは日本にワインの話は出てきません。次は織田信長になります。ポルトガルのワインを飲んでいたという文献が残っております。織田信長は新しいものが好きで,家来に「チンタ酒を持て!」などと命じていたことでしょう。ちなみにチンタ酒とは,ヴィーノ・ティント(赤ワイン)であったと思われています。
そして,幕末。下田の代官所に初の米国領事館が置かれました。初代領事ハリスの日記に,下田の代官所の役人を船に招いて,ワインを振る舞って大いに役人たちを喜ばせたという記載があるようです。
次は明治の初期です。
日本の近代の黎明期,明治3年,山梨勝沼ではぶどう酒醸造用のぶどうからワインづくりが始まっています。その後2人の青年がフランスに留学して,技術を持ち帰っています。
昭和初期には,この大阪が3年連続でぶどう生産量日本一になったことがあるんです。柏原のあたりです。残念ながら生食用が多かったようですが,わずかにぶどう酒用のぶどうもありました。今でも細々ながらつくっていて,いいワインができております。
戦後は,今と大して変わりません。1980年代はわれわれソムリエがちょっとしたブームになり,1980年に初めて日本でソムリエコンクールが開かれました。1995年あたりから「ソムリエ」という名前が定着しました。
最近では,「ポリフェノール」という赤ワインの成分が健康にいいということで,ワインを飲んだら健康になると言われるようになりました。これもほどがありまして,飲み過ぎには皆さんご用心ください。
ワインはアジアでもはやっているんです。隣国のソウルに行きましても,ワインをいたるところで見かけるようになりました。中国では,上海がすごい量のワインを取り扱っています。上等なワインほど売れるんです。
今までワインの大きなイベント,ヴィネクスポというのが,2年に1回,ボルドーと日本で行われていたのですが,2年ぐらい前から香港に行きました。帰ってきてくれない。また,来年も香港でヴィネクスポというワインの博覧会があります。
では,ワインはどのようにしてできるのでしょうか。
白ワインは,どんなぶどうからでもつくれます。皮が赤くても白くても茶色くても,何でもできます。とにかくぶどうを集めて絞ったら甘いジュースが出てくる。この甘いジュースがミソなんです。甘いジュースに酵母というバクテリアが入ると,その酵母が甘いのを食べて,アルコールと炭酸ガスに分解します。これを発酵と言います。アルコール発酵2週間程度で,ぶどうのジュースが辛口の白ワインになります。ただ,そのままでは出せません。少し休ませてビンに詰めます。白ワインは,摘み取ってからビン詰めして販売されるまで半年から1年ぐらいです。
赤ワインは,あの色はぶどうの皮の色なのです。ぶどうを絞らないで皮ごと漬け込んでいるんです。巨峰の皮をむくと爪に紫色のカスが残りますでしょう。あれが実は赤ワインの素なんです。これにいっぱいポリフェノールが入っているんです。2~3週間漬け込みますといい色合いになりますし,その間に発酵もします。それを絞って樽かタンクに詰めてしばらく休ませます。ビン詰めにするまでに大体1年から2年ぐらい。これが赤ワインのつくり方です。
以前はフランスワインが輸入酒の7割強だったのですが,今,フランスワインの日本への輸入量は30%台です。ニューワールドと言われるワインが1990年代ごろから台頭してきたんです。カリフォルニア,オーストラリア,ニュージーランド,チリ,アルゼンチン,南アフリカ,こういう地域が,いいワインをつくっているのです。
昔,ワインは「家飲み」ではなく,「外飲み」が主でした。レストランや飲み屋に行ったときだけ飲むものでしたが,最近は家庭でワインが消費されるようになり,ずいぶんワインの消費も増えてきました。
最後になりますが,食卓でワインを楽しんでいただくのは今も昔も変わりません。楽しく気楽に飲んでいただくということをお願い申し上げます。