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2011年1月21日(金)第4,334回 例会

これからの世界と日本

深 田  宏 氏

会員 深 田  宏 

1929年生まれ。東京大学文学部卒業,英国オックスフォード大学ベリオールカレッジで政治学及び経済学を専攻。’50年外交官試験合格,’51年欧米局勤務。在英国,フィリピンの日本国大使館を経て,外務省アジア局地域政策課長,アメリカ局北米第一課長,同局参事官,米国大使館公使,OECD代表部公使,外務省経済局長,シンガポール大使,OECD大使。’88年大阪担当特命全権大使歴任の後,’90年から’92年3月までオーストラリア大使。’05年SCJ副理事長就任。’06年上野製薬(株)監査役就任。

 最近の『フォーリン・アフェアーズ』,アメリカの外交専門誌で,このほどリタイアすることになった編集長でホーグさんという方が非常にいい巻頭文を書いています。「国民の教育に成功した国,そういう国が経済競争に勝ち抜くだろう」ということでした。

 これには私も同感で,日本が戦前の儒教的なものを含めた精神的支柱を一切否定して,戦後の教育を行ってきた失敗から立ち直る必要があると痛感するわけです。

 また,政治家の方にはもうちょっと頑張っていただきたい。

 日本で今最大の深刻な問題は「甘え」です。自分が何もしなくても,国やよその人が何とかしてくれるであろうと,楽をしていい思いをしようということを皆が考えたのでは,国が栄えるはずはないわけです。

 日本と韓国はよく比較されます。日本も韓国も少子高齢化が進んでいますが,韓国の方が元気がいい。なぜだろうか。最近韓国の大使をやって帰った者から聞くと,「韓国では,まだまだ儒教的な精神が生きている。電車の中で老人が前に立つと若い人はすぐ席を譲る。タバコを吸おうと思っても,年上の人が吸わない限り自分は吸わない。それからもう1つは,北朝鮮を隣にして緊張感がある。この理由で韓国は元気なのだ」ということでした。

外交のツケ

 『フォーリン・アフェアーズ』のもう1つの論文は,皆様ご存じの現在ハーバード大学の教授のジョゼフ・ナイさんです。彼は政府にもおりました。この人が日本に触れた部分では,「日本は多分中国と組むことはしないであろう。しかし,国防力,軍事防衛の面でどうしてもアメリカの助けを必要とするであろう」と言っております。

 ナイさんに言わせますと,「21世紀はグローバリゼーション,それから,インフォメーションテクノロジーの時代である。その時代において一番大事なことは軍事力である。2番目は経済力であり,3番目は,力というよりも国のコントロールの及ばない国際金融などである」ということを言っています。

 ナイさんの意見を一応受け入れますと,国際関係というのは,経済力もありますが,どうしても軍事力を中心にした力で物事が動いていく。そうなってきますと,日本の場合,北方領土にしても,尖閣にしても,非常に日本は押されぎみであります。これは,この1年ほどの間に日本の外交がいろいろと失敗を重ねてきたことのツケです。

アタリ氏「超民主主義」

 ナイさんの話に戻りますと,「アジア復活の一番の中核にあるのは,当然中国である。中国のGDPがアメリカのそれを凌駕する時代が遠くない将来くるかもしれない。けれども,そのときの豊かさの中身は随分違うはずで,もちろん一人頭ということもあるし,クオリティーの面で中国はまだまだアメリカには及ばないのではないか。さらに,民主主義ということを考えると,中国は全く違う体制である」と言っております。

 ただ,ここで私の考えになりますが,民主主義が金科玉条であるということは若干今問題視されており,フランスの知識人であるミッテランの懐刀であったジャック・アタリという人が,『21世紀の歴史』(フランスの原文は『将来の短い歴史』という題)という未来学的な本の中で,「民主主義は金属疲労的なものをもよおしていて,このままでは行き詰まるであろう。そのうちに超民主主義というものがどうしても模索される時代がくる」と言っております。

日米同盟は大事

 中国は覇権を求める国であるかどうかということは非常に議論されるわけでありますが,ジョゼフ・ナイさんに言わせますと,「中国が仮に覇権を求めれば日本やインドは黙っていないだろう。その場合には,日本,インド,アメリカ,オーストラリア等が結束してこれに対応するであろう」と言っています。

 最近,中国の要人がこう言っております。「中国は過去覇権を求めないことを理念としていた」。大変立派なことを言っているわけでありますけれども,その直後に,「実は中国は覇権を求めて失敗したという苦い経験を忘れていない」と。中国の将来の動きということを考える上での参考になろうかと思います。

 ナイさんは最近本を書かれ,日本について3つの選択肢があるだろうと言っておられるようです。

 1つは,彼が支持しておりますアメリカとの同盟,もう1つは中国に対する従属,3番目には,フランス的ないわば自主独立路線,この3つを挙げておりますが,フランスの進み方は大変耳障りはいいのですが,日本には適用されないと思っています。

 なぜなら,フランスの場合はドイツをはじめとして近所に非常に似た仲間がたくさんいる。それから,冷戦が終わって西ヨーロッパに対する脅威が非常に小さくなっている。

 これに対して日本は,残念ながらそういう仲間が周りにたくさんいるわけではないし,東アジアの波は高いという状況ですから,この第3の道は望ましいかもしれませんが無理がある。そうなると,結論的には第1を中軸にして日本の外交を展開していくと。

 日本が第3位の経済大国に落ちたということを嘆く必要は全くありません。世界の国は200近くあるわけで,人口で10番目の国が第3位であるというのは立派なことです。