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2010年9月3日(金)第4,316回 例会

青少年の実情とロボットを活用した
「生きる力養成講座」について

大 和  信 夫 氏

ヴイストン(株)
代表取締役
大 和  信 夫 

1963年3月,大阪生まれ。’85年3月,防衛大学卒業 。陸上自衛隊,産業用プラントメーカー,不動産仲介業を経て,2000年8月,ヴイストン(株)を設立し,代表取締役に就任,現代表。’04年7月,自律型ロボットサッカーの国際プロジェクト「Robocup」に大阪の産官学連合チーム「TeamOSAKA」として出場,世界大会優勝を果たす(以後,世界大会5連覇 チーム監督)。

 私たちはロボットの開発・製造をしている会社です。今日は青少年の実情とロボットにかかわる部分,特に教育に関する部分についてお話をさせていただければと思います。

子供が二極化

 最近,青少年について思うのは極端な二極化が進んでいることです。明るく礼儀正しくて,はっきりした意見をもった子供が増えている一方,何を考えているのかわからない,やる気が感じられない子供も増えています。学習時間についての統計でも,全く勉強しない子供と,たくさん勉強する子供の二極化が進んでいるとのことです。

 勉強時間が短く,目的意識が低い子供の増加は心配すべきことですが,私はあえて,この子供たちを「資源」と名づけました。「負け犬」と言って排除することはできませんし,天然資源が乏しく,人口が世界で10番目に多い日本にとってどんな子供も「希望の星」に近づける努力を社会全体でしていかなければいけないと思います。

 企業が社員採用で重視している能力は,1位がコミュニケーション能力,2位が基礎学力,3位が責任感,4位が積極性・外向性,5位がビジネスマナーと言われています。また,経済産業省は最近,「社会人基礎力」と言い出し,その中味として「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」などを挙げています。つまり,企業が求める能力とその人材となるべき青少年の実情の間に隔絶があるのです。

生きる力をロボットで

 私たちはロボットを使って子供の「生きる力」を養成する試みを進めています。もともとは2足歩行ロボットを開発していましたが,4年前に台車型ロボットをつくり始めました。カリキュラムを組みやすく,低価格化を進められるからです。「理科系教材」として流通しましたが,最近では「生きる力」を養成する総合学習教材として注目されています。

 文部科学省は総合的な学習の目標について「自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること」と定めています。

 ロボットを動かすにはプログラムが必要になります。ものごとを論理的に行うということを「アルゴリズム」と言い,その手順を図表化したものを「フローチャート」と言います。これは非常に便利で,何にでも応用できます。

 例えば,すき焼づくりについても,フローチャートで図表化できます。レシピがそれにあたり,いいレシピなら,その手順通りに進めると,おいしい料理になるわけです。

 ロボットの場合,いいアルゴリズム,いいプログラムをつくろうとすると,仮説を立てて実行し,検証して差異を修正する活動をしなければいけません。これは企業の品質改善の手法そのものです。ロボットを教材に使うことで,この行動を短期間に繰り返すことができます。

 ロボットを開発している私たちには,かなり近くから遠くまでの未来が見えていると思います。私たちに寄せられる開発要請には,未来社会をイメージするヒントが多く詰まっているからです。

 例えば,マニュアル化されている業務はロボット(機械)化されていくと思います。また,単純労働の現場から日本人はいなくなるでしょう。こうした時代を生き抜くために,子供たちにはロボットを使って課題を発見し,問題を解決する能力,つまり「生きる力」を培ってほしいと思います。

ソフトを無償提供

 私たちヴイストンは,ロボットで世界を変えるというミッション(使命)をもって行動しています。そのイメージの中には「ロボットをサッカーのように普及させたい」という思いがあります。サッカーは1人でもできるし,ボールがなければ紙を丸めても練習できます。

 ロボットが普及しない一番の理由は高いからです。そこを何とかしようと考えています。中学校では「計測と制御」という単元が必須科目になります。私たちはその教材を3,000円ぐらいで開発しましたが,生徒の教材として3,000円は高すぎるということでした。

  そこで,私たちはその授業が実施できるソフトウェアを今,無償で配付しています。このソフトはフローチャートを描くと,パソコンの画面上でロボットが白と黒のラインを見分けて自分で走ります。画面上にタイルを置くことでロボットのプログラムができます。実際のロボットではセンサーで拾う数値も画面上に見えます。

 ホームページから無料でダウンロードできるので,ロボットを買わなくても「計測と制御」の授業ができます。それによってロボットの売り上げは落ちるかもしれませんが,私たちは問題にしていません。ロボットがもっと普及し,ロボットがもっと社会に入っていかなければいけない,ロボットに携わる人がもっと増えなければいけないと考えて仕事をしているからです。青少年を取り巻く厳しい環境が私たちの責任と関係ないと決して言えないと考え,できることからしていくつもりです。