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2010年6月18日(金)第4,306回 例会

アジアと共に発展するために
―立命館アジア太平洋大学の経験から―

Monte Cassim 氏

(学)立命館副総長 Monte Cassim 

1947年スリランカ生まれ。’70年スリランカ大学建築学科卒業。’72年大阪外国語大学日本語プログラム修了。’82年東京大学大学院都市工学専攻。’04年立命館アジア太平洋大学学長。’10年現職。

  スリランカの下町出身で,アジアに魅せられた私が,その発展をどう見ているかということから始めたいと思います。日本で修士課程が終了した時,先生が博士課程進学や米国留学を勧めてくれましたが,私は「同じ金を使うのであれば,アジアや関西に10回来ます」と答えました。なぜアジアや関西かと言いますと,人間の生くさい環境が好きだったからです。生々しさが庶民文化を表している。アジアの原動力はこの道端にあるのです。

 有力な国の少数の人間の価値観を,世界中に植えつけることが秩序づくりの基本です。大英帝国しかり,今の米国しかり。アジア太平洋の時代になれば,世界の過半数の人間の価値観が世界の秩序をつくるのですが,これは前例がありません。過半数の人間は単一のはずがない。宗教も言語も文化も違う。だから,多様性が大きな意義を持ちます。地域の文化を世界へどうつなげていくかということが,アジア太平洋時代の基本です。そうなると,創造性も増してきますから,それを応援する環境づくりも大事になります。

APUは多様性培う実験

 APU(立命館アジア太平洋大学)の経験もそれです。世界中の98カ国から学生が集まり,この10年間で延べ1万5000人が在学あるいは卒業しています。世界に向け,日本の民間大使を養成してきました。厳しい授業の中で,時間をやりくりし,出身国や地域を紹介する文化芸術週間のプログラムをつくっています。700人収容のホールは,市民を含め,いつも満席です。これはスペイン週間の時の写真ですが,真ん中の学生がスペイン語を話すアルゼンチン人で,両脇はスリランカ人と日本人です。自分の文化を他人に伝えながら,共同作業で見事な演技をやるというのは,この大学の特徴です。楽しむと同時に,イベントを企画する力もついてくる。ある商社の幹部が「面接は要らない。あれを企画した人を紹介してくれ。すぐ採用します」と私に言いました。キャンパス全体を学びの場にすることは,多様性を培う実験だと思います。

 当初,心配していました地域の皆さんが,いつの間にか大学のファンになりました。大学も努力しました。地元との交流のために祭りに参加。人口が減少している地域では,若い人が祭りを継承することは非常に大事です。神輿は重いから,年寄りばかりではかつげない。そういうところから始めて,地元の人の心の中に学生が入るわけです。結果として,愛される大学になります。2002年のワールドカップサッカーで,カメルーンが大分県でキャンプした時に,ダニエル君というカメルーンの学生が,中津江村とチームの仲介役をしました。チームが資金不足と聞くと,中津江村の人々がカンパを募り,最終的にキャンプが実現しました。その後,仲介役のダニエル君が交通事故で亡くなりました。私が感心したのは,彼が入院した時から,遺体が母国に向かうまでの間,中津江村の誰かが,いつも彼の側にいたということです。大学をつくろうとした時には「犯罪やエイズが増えるかもしれない」と心配していた住民が,ダニエル君の努力で,この大学に親しみを感じてくれたことが,私は大学の一番の財産と思います。

 2004年に私が学長に就任した時には,46社が,留学生や日本人学生を採用しに来た。今は380社です。地域の経済成長は,地域内や日本国内の需要だけに頼る時代ではないと思います。やはり周辺諸国と共に伸びなければいけません。アジア太平洋時代に必要とされる人間を養成し,国内外で活躍できる人材を育てることが大事です。

出る釘を育てよ

 日本の売物は高度な技術であるのは間違いありません。それに創造産業も加える。出る釘を育てるように,デザインと技術で生きていく国にしてはどうでしょうか。家の周りの工芸品などを見ると,日本人には潜在的にデザイン力があると感じます。それを表に出して,商品開発につなげる。こういうことには,やはり遊び心を持った場所が一番です。東京はまじめ過ぎます。関西でしょう。

 今後の課題としては,日本人は虫の目でコツコツやることには適していますが,時には鳥の目で俯瞰しシステムを構築することも考えていただきたい。高い志も大事です。どんな企業でも志は高く,単純功利主義ではない。これは日本型経営の中でも尊敬できる部分です。そういうところで,今何が欠けているのかというと,多くの組織に,迅速に判断する環境がない。延々と議論して合議性を求めます。今は迅速な判断が必要な時代です。大阪にある多くの中小企業のような果敢さが,これからは必要です。それを大企業や行政,大学の経営の中にどう取り込むかが,これからの課題です。

日本の理解者を世界に

 私は,日本は科学技術と文化芸術を合体した,新しい外交をやるべきじゃないかと思います。日本に対する期待はどんなものかと考えた時,歴史文化大国の日本に対する世界の期待は大きい。科学技術大国の日本に対しても同様です。世界の平和と発展に大きく貢献している大国は日本です。私の国スリランカの平和構築に,47億ドルの援助がありました。そのうち30億ドルは日本のお金です。日本人は謙虚で,自分で自分を売り込むようなことはしない。だから第三者が,それを言わなければならない。そういう役割を果たす留学生や,我々のような人間を,この地域でたくさん育ててほしいのです。何よりも信頼を友情に変えて,歴史に名の残る国として日本が今後成長してほしいのです。