1967年大阪生まれ。’96年森田恭通デザインオフィスを設立。’00年6月現会社代表。海外でも幅広い創作活動で活躍中。
1967年の生まれで満42歳です。デザインの仕事をしております。今はインテリアデザインの仕事が多いのですが,デザインの学校で学んだわけではありません。
大阪の茨木市で生まれ,子どもの頃は神戸の須磨で,学生時代は神戸で過ごしました。そこでいろんな飲食店のアルバイトをしていましたが,あるきっかけがありまして,18歳のときに神戸の三宮で「COOL」というバーをつくりました。
「何で18歳がお酒を飲むとこをつくるねん」とおしかりもいただくのですが,当時周りの先輩とかから「森田君,今イケてるいいバーが三宮になかなかない。高いお店はいっぱいあるけど,安くていい店がないねん」という話をよく聞いておりました。
インドアディスプレイのアルバイトもしていましたので,そういうイメージで,おしゃれなんだけども安くて行けるバーをつくりましょうというところで,あるオーナーさんと出会いました。図面も読めない,建築とかデザインも全然わかってない人間が,大工さんに怒られながら何とかお店を1軒つくるわけです。それが今も,全く手を入れず25年そのままあります。そのお店がきっかけで「じゃ森田君に店を頼んでみよう」といろんなお客様が来られました。美容室だったり,バーだったり,レストランだったり…。デザインという職業を選ぶ前に,気がついたらこの世界に入り込んでいたという状況です。
デザインは商売の起爆剤で,決して主役ではありません。お客様が来られて,その方々がお金を落としていってくれて,いいサービスをするスタッフがいて,その従業員の人たちに給料を与えている中で,オーナーさんが結果として繁盛して喜ぶ。そして,お客様がリピートする。リピートするときに,これだけいろんなお店がある中で「どうせ行くんやったらあの店に行こうよ」と言われる,記憶に残るデザインをするのがデザイナーの役割だと思っています。
「印象に残るデザイン」というのが実は僕たちの最大の武器でして,お店の名前を覚えてないけどあの赤いお店だったとか,あのいいサービスをしてくれたところだとか,トイレに入ったらすごい驚きがあったとか,何かそこで印象に残ってもらえることをするのが僕らの仕事だと思います。
インテリアデザイナーという業界は割と歴史が浅く,インテリアデザイナーと呼ばれてまだ30数年,40年近くしかたってないと思います。もともとは内装屋さん,店舗屋さんと言われた業界です。そこに,デザイン力によってお客様が来る,デザインによってリピートしたくなり,人に伝えたくなるお店というのがだんだん出てきました。
また,学生さんのワンルームマンションに名作のイスがあったり,10年前では考えられないぐらい,デザインが家庭の中でも浸透してきています。その中で,僕たちはプロとしてデザインを世の中に広め,世界で仕事をしております。
芦屋に事務所があるんですが,今,世界8カ国17都市でいろんな仕事を同時に進行させております。7割,8割が海外のお客様です。さまざまな国の人たちからメールとか電話でお頼みいただいて,仕事をやっております。小さなレストランからブティック,宝石屋さん,ホテル,ビルのパブリックエリア,いろんな仕事をいろんな国でやっています。
海外の仕事は香港からスタートし,だんだん増えて,結局日本の仕事を超えてしまいました。香港とかは,割とアジアの文化で環境も日本と近く,あまり苦労はしなかったのですが,同じ発想でニューヨークに飛び込みまして,最初の仕事でボコボコにされ,ボロボロにされたことを思い出します。見事に法律も違いますし,クライアントさん,大家さんとのコミュニケーションも違い,すべての環境が違いました。
住宅でもほかのいろんな仕事でも,お客様はお金がないと言われる。100%言われます。どんな国の仕事でも,予算がないよというのがオーナーさんの一言目です。そこで,予算の中で何ができるかということをいつも考えています。基本的に,床・壁・天井に満遍なくお金をかけると確かにきれいで美しいものができるのですが,余り個性はなく印象に残りづらいんです。
人間は人と会話するときに目を見てしゃべるんですが,ずっと目を見ているわけではなく,おもしろいことに,その人の背後の壁によって印象を記憶するようなところがあります。そこで,そういうところに予算のバランスを集中することによって個性ある空間をつくろうとしています。
あと,大事にしていますのがライティングです。「デザインは興味ないのや。わからないねん」と言われる方でも,照明がいい感じで暗かったよとか,すごく明る過ぎたねという印象をお持ちです。やっぱり照明によって人のやわらかさが出たり,商品がより美しく見えたり,人がより美しく見えたりします。照明の効果を一番重要視し,形から入るデザインではなくて,照明による雰囲気の大事さを考えたデザインをしています。
3坪,5坪のお土産屋さんからファイブスターのホテルまで,いろいろやりました。でもやっていることは何ら変わりなく,いつも「リピーターに喜んでもらうこと」を考えてデザインさせてもらっています。デザインによって人の印象も変わるし,喜びもあります。ぜひ皆さん,日常でもデザインをもっと取り込んでください。厚かましいお願いですが,僕の地元は大阪なので,大阪の仕事をぜひ僕にいただければと思います。時間になりました。ありがとうございました。