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2010年5月28日(金)第4,303回 例会

平成の女道楽

内 海  英 華 氏

女道楽 内 海  英 華 

大阪府出身。’78年に三代目旭堂南陵に入門。
その後,内海カッパに師事。大阪で唯一の「女道楽」(三味線漫談)で舞台や落語会に活躍。寄席三味線への継承発展への功績が認められ,’94年に大阪市の「咲くやこの花賞」を受賞。

 内海英華でございます。まずは女道楽ということですが,大正年間に漫才が大変隆盛を極めました。当時,漫才を女性でやったり,安来節を呼んだり,複数の女性で舞台を飾りました。今のミュージカルのようなことをさせたところ,囃子連というように「連」という名前を付けて,女性が舞台に上がったのが「女道楽」の発祥と言われております。ところが,米朝師匠が「男性がお座敷などで歌ったり,三味線を弾いたり,踊ったり,にぎやかな宴会をするように,女だてらにするのが女道楽」とお書きになりました。私もそう思っていましたら,女道楽の師匠,二代目桂春団治の奥様ですが,若いころに女道楽をなさっておられた。その方に,三味線の稽古をお願いした時に女道楽をしていたというので,それならばぜひ形の残っているものを稽古していただきたいということで,今はこの形態をとっています。この間も「米朝はんは間違いやねんで」と言います。女でも,いろいろな邦楽のこなれたことをするので「女道楽」という名前が付いたそうです。これはほんまです。

18歳に飲酒の稽古

 私は18歳の高校生の時に,この世界に入りました。最初は落語を目指したのですが,落語は普通のことを普通に話します。子ども,女の人,酔っ払い。男の人がこれをやると成り立つのですが,女性が酔っ払いをやると違和感がある。廓話とか,夜這いの話もあります。それに気がつきまして,でも,何がいいかしらと思っていたら,その時分に二代目旭堂南陵という講談の先生がおりました。その講談を聞いて落語と似ていると思い,講談に入門しました。

 高校生ですから,週に1回,日曜日に稽古に行きます。師匠の前に弟子が座り,口移しです。先生は,本当にお酒が好きでした。朝昼晩,さらに寝る前。その時分,私は南蝶という名前をいただいていました。「南蝶,我々の商売は,お酒の席にも行かなあかん」。このおっさん何言うてんねん。私は18ですよ。普通は帰れと言うでしょう。南陵先生は変わってますわ。「お酒は飲まれたらあかん。飲む練習しよか」。稽古の前にビール大ビン2本ぐらい飲まされます。2時間くらいの稽古が終わると,それからが私の本当のお酒の練習です。初めての稽古の晩に1升飲まされました。そんなことを2,3年やっているうちに,本当にお酒が強くなりました。

 舞台を務めておりますと口説かれることもあります。第1号は桂春団治師匠です。ここだけの話ですよ。私が18で向こうは48。元気で,きれいで,一緒に宗右衛門町なんか歩いていても自慢でした。でも,交わし方があるんです。向こうは酔わして何とかしよう,こっちは酔わずに帰ろうと。飲む間に水1升飲んだら酔いません。さすがに5回目ぐらいに師匠が「お前はおもろない,飲ましても酔わん」。そりゃそうです,こっちは酔わんようにしてるんですから。

出囃子で世界中

 そのうち,しゃべりだけでなく三味線も始めることにしました。先生は長唄の家元だった桑原ふみ子という方です。この方は楽譜を採るということを最初にした人で,楽譜を我々に教えてくださり,後はテープに録音して家で稽古するんです。2年間くらいかかるところを,3カ月ぐらいで弾けるようになりました。弾けるようになったら,今度はお囃子さん。芸人同士,頼みやすいということで,よく声が掛かってきました。その頃は,三味線漫談が中心でしたので,名前が内海英華に変わっていました。「英華,すまんけど,後で一杯飲ますから三味線持って来てくれへんか」。私の最初の三味線のギャラはビールと水割りです。割と器用に弾くものですから,三代目春団治師匠が地方や東京へ行く時に連れていってくれました。五代目文枝師匠にも可愛がられました。世界中を飛び回っているような人でしたので,韓国やフランスやドイツにも連れて行ってもらいました。

米朝師匠はまったりと

 出囃子には格というものがございます。トップ,二つ目,トリ。(♪=演奏)これが「本調子」でしっとり,都都逸なんかは本調子です。(♪)これが「二上がり」で陽気になります。(♪)これが「三下り」で,少し陰になる。まず前座ですが,若手さんの背中を押す,頑張ってというように,にぎやかに弾きます。これを「石段」と申します。ちょっと弾いてみましょう(♪)(拍手)これは若い子向きなので,米朝師匠は出られない,こけますやん。それで年寄り用の出囃子があります。「都囃子」と申します。まったりした「ああ,これやったら米朝師匠も出られるわな」みたいな感じです。これは本調子で。(♪)(拍手)

 粋な都都逸をお届けすることにいたします。

 (♪)「めでためでたの若松様よ 枝も栄えて葉も茂る 四国西国島々までも 都都逸恋路の橋渡し ぬるい酒でもおまえの手から ついでもらえば熱くなる」(拍手) すみませんね,お酒も飲んでないのに。

 最後に曲引きを聞いていただき閉めることにします。相撲の時に必ず流れてきますのは「櫓太鼓」という太鼓の音です。この太鼓の音を三味線で出してみます。櫓太鼓というのは,天下泰平,国家安穏,五穀豊穣と打つのやそうです。誠におめでたい。お招きいただきました大阪RC様の皆様方のご健康とご繁栄,そして私の出世もついでに祈りまして。

 (♪)「一番太鼓でふと目を覚まし 五丈三尺櫓の上で ドドンと打ち出す一番太鼓」

 (ばちで棹の上まで)ここ,一番難しいところ(笑い,拍手)「きょうはどの手で勝つのやら」

 お粗末でございます。