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2010年5月21日(金)第4,302回 例会

生命体都市『ロボシティコア』構想

浅 田      稔 氏

大阪大学大学院工学研究科
知能・機能創成工学専攻
教授
浅 田      稔 

1977年 大阪大学基礎工学部制御工学科卒業
1982年 大阪大学大学院基礎工学研究科後期課程修了
同 年 大阪大学基礎工学部助手
1989年 大阪大学工学部助教授
1995年 同教授
1997年 大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻教授、工学博士(大阪大学) となり現在に至る。
この間、1986年から1年間米国メリーランド大学客員研究員。 知能ロボットの研究に従事。

 1990年代の初頭,若手数人が集まってロボカップ(ロボットのサッカー世界大会)というものを構想し,世界に情報発信しました。最終目標は,2050年までに11台のヒューマノイドチームが人間のワールドカップ・チャンピオンチームを打破すること。2050年に日本でワールドカップを開き,そのときロボットのチームが人間のチームを打破するよ,ということを言っています。

400チームが参加

 1997年,第1回の国際大会を開きました。40チームぐらいが参加し,名古屋の国際会議場で開催しました。今は400チームぐらいが集まってきています。参加者は1,000人から2,000人の間。半分はロボカップジュニアといわれる子供たちです。小学生から高校生まで幅が広く,サッカーのほか,レスキューやダンスとかいった競技をし,大学院の学生さんとか研究者がやるサッカーのゲームを一緒に楽しんでいます。

 技術の詳細は省きますが,基本的にリモコンではありません。リモコンでやっていると人間チームに完全に負けます。コンピューターコントロールでボールを追いかけ,チームワークでシュートします。

 小型リーグは天井からカメラを使って中央集権制御しますが,中型リーグは各ロボットがカメラを持って自分で判断します。ルールが毎年変わり,センサー情報技術・運動制御技術・情報処理技術など,いろいろなものが集約されて入ってきます。

 ヒューマノイドリーグは2002年から始まりました。翌年には初めて人間のチームと戦いました。もちろん負けましたが,結構健闘しました。そのうち人間とロボットの混成チームになったりすると,人間とロボットのコミュニケーションなど,いろいろな課題が出てくると思います。

もっと賢く

 こういったことをロボカップでやっているのですが,実はまだまだ設計者が「ああしなさい,こうしなさい」とプログラムを書いており,ロボットはそのとおり再生して動いているわけです。われわれはロボットをもっと賢くしたい,人間と同じように判断したり振舞ったりしてほしい,ということで研究プロジェクトを進めています。

 われわれは人のようなロボットを作りたいと思っています。それには人自身を知らなければなりません。われわれは工学的な方法で人を作ろうとするわけですが,もともと人間を理解し,知るためには自然科学的,人文科学的な方法がたくさんあるので,そういったアプローチとも相互フィードバックをかけながらやろうということで,ヒューマノイドサイエンスという分野を立ち上げました。研究プロジェクトの中には脳科学者もいれば,心理学者も入っていまして,そういった人たちと一緒に,人間とは何かというクエスチョンを共有しながら進めています。

 われわれはロボットを賢くしたい。賢くするにはどうしたらいいか。では人間はどうやって賢くなったか。そう考えると,赤ちゃんというものが気になります。そこで,お腹の中での胎児のシミュレーションをし,発達の流れを工学的に再現します。

 人間のミステリーの1つに言語があります。われわれは,人間がどうやって言語を獲得するかを少しずつ考えていきます。人間の発声器官に似たロボットを作り,それがお母さんとの相互作用の中でどうやって母音を獲得していくかという学習をやっています。今はまだ「あ・い・う・え・お」という短母音の学習しかしていませんが,お母さんの唇の形を真似て学習しました。これから物体を持つとか,身体を持って触るとか,そういった身体を使うことによる人間の言語獲得のミステリーも解き明かしたいし,それと同時に,ロボットの能力としても開発していきたいと思っています。

ロボシティコア

 現在進められている梅田北ヤード再開発事業において,大阪駅北地区の先行開発区域が約7ヘクタールあるのですが,そこにロボシティコアというのを提案しています。研究室でやっていることを一般に公開し,研究者・アーティスト・企業・市民がお互いに交わって新しいアイデアを考え,科学技術文化の発展を考える場です。

 お金の許す限りいろんなことを考えたいのですが,例えばミュージアムや簡単なロボットの工房。また,全世界のロボット関係のコンテンツを集めて実際に動くものとして展示するとか,最先端のロボットテクノロジー製品を組み込んだ未来生活空間を作り,未来生活を体験してもらうというようなエンターテインメント的なことを考える。ここは未来商品を出すので,どんどんアップデートし,リピーターが来ることを想定しています。われわれ研究者とか開発者にとってみれば,非常にいいモニタリングになるわけです。広場ではロボカップやアートフェスティバルなどの開催を考えています。

 ここでは,ロボット共生社会実現プロジェクトなどを展開したいと思っています。もちろんロボカップで培ったロボットのネットワーク,それから,先ほど言いました最先端のロボット科学技術研究,それらをあわせ持つこと,そして,実際の街で展開するので,社会環境設計や倫理の問題も含め,ここでテストしていく。

 何でこんなことを言うかというと,日本がロボットを一般社会に導入する世界で初めての国になるはずだからです。あらゆる実験段階の情報を世界に発信するべきで,またそれだけでなく,オピニオンリーダーとして日本が世界に情報を発信すべきです。そのための拠点として,この北ヤードを使いたいと思っています。