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2010年5月14日(金)第4,301回 例会

経営者のサーバント・リーダーシップ

金 井  壽 宏 氏

神戸大学大学院経営学研究科
経営人材研究所代表
教授
金 井  壽 宏 

1954年神戸市生まれ。京都大学教育学部,神戸大学大学院経営学研究科,マサチューセッツ工科大学で学ぶ。経営学の中でも特にモチベーション,リーダーシップ,キャリアなど,人の心理・生涯発達にかかわるテーマを主に研究している。

 リーダーの側がフォロワーに奉仕した方がいいという考えを「サーバント・リーダーシップ」と言います。「奉仕型リーダー」と訳してもいいです。普通,サーバントは人の世話をする人,お仕えする人ですから,リーダーとは逆の言葉です。しかし,理念に向かって頑張っている人に対して,リーダーがそれを後押ししたり,支援したり,奉仕したりする方が,実際にはうまい具合にリーダーシップが機能するという考えを,ロバート・グリーンリーフという人が言い出しました。

後ろから支える

 資生堂の前の社長の池田守男さんは5代の社長の秘書をされました。社長にほれ込んで尽くすのが仕事だった。ところが自分が社長になった。どうすればいいんだろうということで,いつも行っている教会を訪ねたり本を読んだりしているうち,今までの社長が資生堂の理念だとか,お客さま,社員に対していいことをやっているからその社長に尽くしていたとすれば,自分がお客さまとか社員に尽くす,奉仕するという方向があるとお気づきになった。

 池田さんが社長になる間際のころ,まだ論文も本もありませんでしたが,私がサーバント・リーダーシップについて話をした記録が2,3ありました。池田さんがそれに興味を持たれたので,パワーポイントをお見せしました。ところが,社長になられてからの談話が新聞に載った記事では「資生堂の今度の社長はサーバントになると言っている」と書かれていました。

 これは誤解を招きますよね。だから慎重にお話しする必要があります。私は次のように説明を申し上げております。

 例えば,お父さんがお子さんに対してリーダーシップをとるとき,自分が思っているいい生き方だとか,あるいは社会との関係でどういうふうに貢献する人間になってほしいかという,見通しとか,ビジョンだとか,ある種のミッションがあり,子どもがそれに向かって歩み出したら,胸倉つかんで無理やり引っ張っていくより,子どもがその目標に行くのを後ろから支えるという発想の方がいいのではないか。

同じ方向性

 サーバント・リーダーシップを学生たちにわかってもらおうと思いついたのが,次のような説明です。

 心の奥底から好きな人ができたとき,何で彼女のことを知りたいと思うか。彼女を知ることによって,彼女が喜ぶことをできるからです。

 彼女の喜ぶことが,自分が正しいと思っていること,自分が目指していることから大きくずれていたら,それに対して尽くすことはできない。しかし,自分が思っている方向性と合った感じであれば,好きになった人が喜ぶことをしたいので,奉仕する気持ちになる。これは少しサーバント・リーダーシップに近いと思うんです。

 恋愛について,自分の見通しだとか,ビジョンだとかがあり,それに向かうような形で彼女と実現できそうだと思ったら,彼女が喜ぶことに対して自分が奉仕する形でやった方が,結果的にうまくリーダーシップがとれるという考えです。

使命とは

 私のゼミは,いろんな方がゲストに来てくださいます。ラグビー元日本代表の林敏之さんが来てくださったとき,林さんはゼミ生たちを前に,ホワイトボードに大きな字で「使命」と書いて,読めと言うわけです。普通に「しめい」と読んだら,「違う,もっと大きな声で言え」。隣の学生が「し・め・い」と怒鳴るように言ったら,「わかった,君たちが読めるのはわかった。次,意味を言ってくれ」。ゼミ生は一生懸命考えて「使命というのは,ある崇高な目標に向かって真剣にそれに向かうという気持ちを言語化したものではないでしょうか」と答えた。

 私は,学部の3年,4年なら上出来かと思いましたが,林さんは「ちょっと違う」と。「もうちょっと君ら素直になれないか。素直になって,漢字そのものをじっくり見ろ。使命というのは,命を使うほど大事にすることや」と言われました。

 そのとき,私もゼミ生もびっくりしたのは次の一言でした。「君たちは大学3年,4年というすばらしい時期を過ごしている。当然,今,命を使うほど打ち込んでいることがあるでしょう」と言われたんです。

 私は自分が研究をやったり,教育をやったり,本を書いたり,こういう場で話させていただいたりするとき,本当に命を使うというほどのレベルでできていたかなと思いましたので,林さんに,「何かそういうことをお感じになった原体験があるんですか」とお聞きしました。すると「全豪チームと戦って負けた試合で,食事の後,クタクタになった先輩を宿舎に連れていきました。先輩は朦朧としたままお尻を持ち上げ,気持ちがまた試合の状態に戻ってしまいました。『フォワード頑張れ』とか,『こう行け』とか指示を出し始めた。それを見ていた自分は,この人ほどラグビーに命をかけていなかったと思い,『使命』という言葉の意味を考え直しました」ということでした。

 今日のお話は,「使命」という言葉で終えるのがいいと思いました。ただ「サーバント」だけだったら何か違うんです。ミッションだとか,コンセプトだとか,絶対実現したいことだとか,やや高いレベルの夢だとか,そういうものに導かれ,そこをしっかり伝えるコミュニケーションがたっぷりあった上で,皆がその方向に向かい始めたら支えてあげるのがいいという考えです。