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2010年4月23日(金)第4,299回 例会

“いま”を読み解くキーワード

大 屋  洋 子 氏

電通総研 消費者研究センター
消費者インサイト研究部
スーパーバイザー
大 屋  洋 子 

1969年宝塚市生まれ。’92年(株)電通入社。’04年より消費者研究センター,’08年より電通総研。ウェルネス(健康・美容)と食育市場担当のプロジェクトリーダー。

 昨年8月に「いま20代女性はなぜ40代男性に惹かれるのか」という本を出版させていただきました。この本を出して以来,弊社の上司から「何で50歳やったらあかんの」とか「60代と40代はないの」とか「70代と50代もあっていいんちゃうの」とかということをよく言われるんですが,20代~30代の男性からは「何で40代なんですか」と怒られることがないんです。

 そこに何となく,いまの40代より上の世代の男性の元気さと,その下の世代の「草食」とか言われて少し元気のないところが感じられるなぁなんて,日々感じております。

ITストレス

 いま特有のストレス,特に若い方たちが抱えているストレスの原因,その社会背景は何なんだろうと考えますと,大きく2つあると思います。

 1つは,これは皆様にも当てはまることだと思いますが,いまの世界的な大不況です。全国1万人を対象に「ストレスの原因は何ですか」と調査したら,トップは3年連続で「将来不安」なんです。

 もう1つが「IT化」。これが非常に大きく影響していると思われます。きょうはこれについて,少しお話をさせていただきたいと思います。

返信は3分以内

 キーワードは「圏外孤独」と「HIJK」の2つになります。

 「圏外孤独」。これは「天涯孤独」に引っ掛けた表現で,携帯電話が圏外になった状態での,人とのつながりを遮断されたと感じる孤独感を意味します。住友生命さんが毎年世相を表現する「創作四字熟語」というのを募集して発表されているのですが,その中で優秀作品に入った言葉です。

 ここには40代以上の方が多くいらっしゃるとお見受けしますが,携帯が圏外だったりアンテナが3本立っていなかったりしたらすごい孤独感にさいなまれる,というようなことはないと思います。でも,携帯が当たり前にある時代に育った20代,30代前半ぐらいの方にとっては,それぐらい携帯が大事な存在になっているということです。

 メールとか携帯に,ある意味支配された人間関係が築かれていると言っても過言ではない状態です。メールや携帯は24時間直接誰かとつながることができます。それはとても便利ですけれど,生身のリアルなコミュニケーションが希薄化している状況にあるとも言えると思います。

 いま女子高生とかが,メールを打って3分以内に返信が来なかったら「私,嫌われてるんだ」って思っちゃうんだそうです。だからもうとにかく,3分以内に戻さないといけない。もしくは,誰かにメールを打って―「おはよう。きょういい天気だね」ぐらいのことでも皆さん送るんですけれども―送ったときにパッと返信が来ないと「ハー,私,もう皆に嫌われちゃったのかもしれない」と思う。

 それが恐いがゆえに,いまの傾向として自分が言いたいことを言うのではなく,返信が来やすいネタを提供することがメールでは大事なんだそうです。弊社の中ではそれを「自己」ではなくて「他己」にウケるということで「他己ウケの現象」という言い方もしているんですが,それぐらいしばられている状態です。

好きでなくても…

 ではもう1つ。恋愛がらみで「HIJK」というのがあるのですが,ご存じですか。  皆さん,恋愛のパターンを「ABC」で表現していたことがあると思います。誰かとおつき合いして,Aはキス,その後は申し上げませんが,いまの恋愛のパターンは「HIJK」なんだそうです。

 これは,LiLyさんという方が書いた「おとこのつうしんぼ」という本の中で紹介されている言葉で,エッチ(H)を最初にしてから愛(I)が生まれて,ジュニア(J)ができたから結婚(K)するというパターン。「この後にLが来るよね,このパターンって。離婚」と言う人もいるんです。

 これはもちろん全部のパターンではないんですが,1万人調査で「好きでなくてもつき合ったりできる」という方が,20代だと大体20%ぐらいいます。そう考えると,2割ぐらいの感じでこういう形が生まれつつあるということなんだと思います。

 これはある意味,恋愛感の価値観の多様化の一つだと思うんです。IT化によって何が変わったかというと,もちろんコミュニケーションツールの変化もあるんですが,あらゆる情報が,世界中の情報が瞬時に手に入る。これがすごく大きいと思います。

 いままでは,お父さんやお母さんが「結婚まではだめよ,男の人と一緒に住んだりしちゃ」みたいなことがあったわけで,それがそのまま常識というか,そういうものだと思えたわけです。けれどもいまは「とはいえ,この子こうだよ」「あそこではそうだよ」というのが全部わかる。そうすると,何が正しくて何が常識なのかがもうわからない状態になっている,というようなところがあるのではないかと思います。

 恋愛観とか価値観について,昔は何となく暗黙の了解があったと思います。例えば「結婚は恋愛のゴール」みたいな言い方,考え方がありました。けれどもいまは,ゴールインなんて言わないと思うんです。

 先ほど申し上げた「子どもをつくる行為は結婚してから」という,ある意味当り前だった感覚も,3割ぐらいの方―20代~60代全体を通しても3割ぐらいの方が―「できちゃった結婚もありだよね」としています。恋愛でも何が正しくて何をよりどころにすればいいかがわからない,というような共通価値の消失が起こっているということです。