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2010年4月9日(金)第4,297回 例会

ラジオは人肌メディア~リスナーに支えられて33年~

道 上  洋 三 氏

朝日放送(株)
エグゼクティブアナウンサー
道 上  洋 三 

1943年山口県生まれ。’65年朝日放送入社。深夜番組「ABCヤングリクエスト」の初代パーソナリティ。「歴史街道~ロマンへの扉」のナレーションなどを15年間担当。’77年3月から早朝番組「おはようパーソナリティ道上洋三です」(月~金)で日々リスナーに語りかけ,今年で33年目になる。

 今日は今シーズンの阪神タイガースについてお話させていただこうと思ったんですが,成績が成績ですのでスッと過ぎて,ラジオのPRをさせていただければと思って寄せていただきました。リスナーと私どもがお付き合いをさせていただいている中で得た,幾つかのエピソードをお話させていただこうと思います。

すぐに反応,すぐに紹介

 テレビは一つ照明がパーッと当たっただけで,もう違う空間になります。生活の空間ではありません。ラジオは照明がいらない。マイク一つあったらいいんです。これで例えば料理の素材,あるいは朝の新聞の中から「これおかしいんじゃないか」と言ったことに対して,「お前の方がおかしいわ」「その通りだ」「もうちょっと違うことを言え」という反応がすぐあります。反論があったらすぐご紹介します。

 「六甲おろし」ばかり歌っていると,ジャイアンツファンから「いつまでやっているんや」というのが来ます。金刃投手という左のピッチャーがいますね。彼のお父さんはうちのリスナーで,尼崎にいてはんのです。昨日もファクシミリをいただきました。「うちの息子がナイスピッチングをしたときには何も言うてくれんのか」と来ましたので,「ナイスピッチングでしたね。そいじゃ『六甲おろしボールペン』お送りします」と言ってお送りしたんです。

 リスナーのメッセージ,またそういうお父さんやお母さんとのやりとりをさせていただきながら,本当に助けていただきました。ファクシミリやメールで寄せられた生活の知恵で助けられているものもたくさんあって,それが33年支えられているということなんだろうと思うんです。

ラジオが命の恩人

 15年前の阪神・淡路大震災では,3日目に神戸,4日目に西宮,5日目に芦屋…。お見舞いも兼ねて避難所に行きました。仮設住宅が建つとそこへラジオを持って行き,六甲おろしボールペンを持っていき,被災者の方にお話をうかがいました。しばらくして,淡路島の北淡町(現在の淡路市)に取材に行ったテレビのクルーが帰ってまいりまして,こう言いました。

 「淡路島で80になるおばあさんが『あんた朝日の人か?』って声かけてくれはりました。『そうです』と言ったら,『私の命の恩人は道上さんやさかいによう言うといてな』と言いはります。『何でです?』と聞きましたら…」

 このおばあちゃんは毎朝ラジオを聞いていました。北淡町は震源地で,おばあちゃんの一軒家は全壊した。お昼過ぎに救助隊の人が前を通りかかったら,瓦礫の中から何か音がしている。何かしゃべってる。瓦礫をどけてみたらおばあちゃんが横たわっていて,ちょうど梁と梁の間で助かっていたそうです。

 「『あのラジオがなかったら私の命は助かれへんかった。私の命の恩人はラジオや,道上さんやさかいに,よろしゅう言うといてな』と言いはった。『はい,ありがとうございました』と言うて立ち去ろうとしたら,『こういうときは,遠くの親戚より近くのラジオやね』と言うてはりました」

 あの北淡町のおばあさんの「遠くの親戚より近くのラジオやね」という言葉が一番うれしかったです。墨すって,下手くそな字ですが「遠くの親戚より近くのラジオ」と書いてスタジオに貼りました。それで半年,1年やらせていただきました。

価値観が変わった

 私は,20年たったらこの番組をやめさせていただこうと思っていました。もう定年前になりますしね。「あのときにラジオがあったからこそ」「あんたのラジオのお陰で」とか言っていただいたのが,逆に僕の方の励みになりました。

 なるべく新しいニュースを,おもしろい話を,1日でも多く「六甲おろし」を歌えるようにと思ってやらしていただいたんですが,あの震災で全く価値観が変わりました。「六甲おろし」も,新しいニュースも,おもろい話もどうでもいい。ラジオというのは毎朝皆さんがご出勤のときに,この交差点に行ったらあいつがぼやいとるな,この交差点に行ったら子供の歌をやってるなと時計代わりに聞いてくださっている。ごはんがあって,味噌汁があって,ラジオがある。トーストがあって,コーヒーがあって,道上洋三を置いていただいてるんだというのが初めてわかったんです。

 それからは,一切のものを捨てようと。機嫌がよかろうが悪かろうが,僕がしゃべらせといていただいてたら皆さん方はついてきてくださる。そのラジオが儲かろうが,儲かるまいが――いや,儲からないかんのですが,僕にはそんなこと関係ないんです。儲かるか儲からないかだけでメディアの話をするのをやめていただきたい。儲かるものがよくて,儲からないものが悪いのか。

 CDがそうです。儲かるCDがいいんです。儲からないCDは悪いんです。じゃ,いい音楽は売れるのか――売れないんです。いいか悪いかというと,あまりよくないものが売れたりするんです。

 そういう意味では,ラジオはあんまり売れなくていいと思ってます。お金の額によって価値を測られるのではなくて,皆さんの心の内にどう位置づけられているかということが僕にとっては大事なんです。これからもご出勤の節のカーラジオであれ,散歩のときのトランジスタラジオであれ,ぜひお供にしていただきたいと思います。