大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2010年3月19日(金)第4,294回 例会

アラスカ自然紀行

松 本  紀 生  氏

写真家 松 本  紀 生 

1972年松山市生まれ。立命館大学を中退し,アラスカ大学に編入・卒業。現在は1年の半分をアラスカで生活し,動物や風景の撮影に専念。’07年に「オーロラの向こうに」を出版。大スクリーンでのフォトライブを実施し,関西の主な大学で講演を行っている。

 僕はずっと,1人でアラスカに行って写真を撮っています。1年のうち,夏の3カ月と冬の3カ月は毎年アラスカに行きます。

 夏は無人島で生活します。大海原の真ん中にポツンとある小さな小さな無人島で,1人でキャンプをするんですが,長いときで2カ月は帰ってきません。それが終わると別の無人島に移ってキャンプをします。テントを張り,自炊しながら生活します。

 その無人島を拠点にし,ゴムボートで海に出て大きなザトウクジラを探して写真を撮ったり,別の無人島に上陸して森の写真やクマの写真を撮ったりしています。

全天を埋め尽くす光

 冬はオーロラを撮り続けています。オーロラ自体は,まあまあ頻繁に出るんです。日本からも「オーロラツアー」なんていうのでアラスカに行く人がたくさんいます。フェアバンクスという町があって,そこに行くとかなりの確率でオーロラが見られます。写真もかなりの確率で撮ることができますが,皆が行く所ではつまらない。ホテル暮らしをしながら撮ってもつまらないので,ぼくはちょっと変わった旅をしています。

 日本の面積の4倍もある大きな大きなアラスカの,どこに行ってオーロラの写真を撮るかと言いますと,アラスカ山脈の麓です。アラスカの懐に入っていって,北米大陸の最高峰マッキンリー山(6,194メートル)が見える所です。

 そんな大きな山なのに小さく見えてしまうときがあります。それは,この山の上空にオーロラが現れるときです。すごいときには全天を光が埋め尽くして,それが生き物のようにうごめく。北米最高峰を目の前にして,オーロラが山の上を舞っている。僕はそれが見たくて毎年山の麓に行き,キャンプをしながらオーロラの撮影をしています。

 山から100キロほどの距離にある一番近い村まで行き,セスナをチャーターして山の麓に降ろしてもらいます。雪の上ですから,車輪のままでは着陸できません。スキーを付けて滑らせながら着陸するんですが,冬のアラスカの山の中ですから雪の量がものすごく,前もって滑走路をつくっておかないと,スキーごと埋もれてしまいます。

 どうするかというと,前の日のうちに着陸したい場所まで飛行機で行き,スキーが雪面に着くところまで高度を下げ,エンジンを吹かせて前に進むんです。スキーで雪面を押さえながら何百メートルも進んで滑走路をつくります。前に進んでは飛び立ち,同じ所に着陸して雪を押さえつけ,また飛び上がってという作業を何度も繰り返して滑走路をつくるんです。その日はいったん村に帰り,雪が固まるのを待ちます。翌日になって,ようやく前の日につくった滑走路の上に着陸できるんです。

雪原にただ1人

 4,000メートル,5,000メートル,6,000メートル級の山々にぐるりと取り囲まれた真っ平らな雪原で,1人でキャンプを始めます。

 雪原に「かまくら」をつくって生活します。大きなスコップで山をつくるところから始めます。それだけで4日間。そのあとに小さなスコップで中をくり抜いて部屋をつくる。全部で5日間かかります。

 1カ月キャンプをしたとして,晴れた日は5日間もあればいい方です。あとは雪が降ったり,吹雪が来たり,周りが真っ白になったりというような日がずっと続きます。

 雪がゆっくり降っているときはまだいいんですが,やっかいなのは吹雪です。ものすごい風が吹きます。人間が飛ばされそうな勢いの風です。こういう風に雪がプラスされる吹雪,毎年1回は見舞われるんですが,風が雪を運んできて,かまくらが全部埋まってしまいます。高さ3メートルぐらいのかまくらが一晩にして埋まってしまう。それぐらいの猛吹雪なんです。

 吹雪のあとは,雪が風の力でカチカチに固められてしまいます。そういう固まった雪を使って僕は遊びます。のこぎりで雪のブロックを削り取り,「イグルー」と呼ばれる小さな家をつくります。この中に住むわけではないのですが,夜,この中にろうそくを入れてながめると,とてもきれいで幻想的です。

帰りも一苦労

 先ほど説明しましたように,飛行機で降りる前に滑走路をつくりました。では,迎えに来てもらうときはどうするかというと,自分でつくるんです。滑走路をつくるのは,パイロットがやりたくない,危ない作業です。  ですから,パイロットは僕に言います。「迎えに行ってやるけど,滑走路はお前がつくっておけ」と。言う方は簡単ですけど,つくる方は大変です。

 長さ300メートル,幅が6~7メートルの滑走路をずっと自分で踏んでつくるんです。「スノーシュー」と呼ばれる,「かんじき」のようなものを履き,何日も何日もかかってつくるんです。柔らかいパウダースノーなので,1回踏んだだけでは固まらない。同じ所を何度も何度も踏み,何日もかかってようやくつくるんです。

 オーロラは,晴れた晩でないと見られません。曇っていると,雲にさえぎられて見えません。ですから,天気のいい夜は一晩中起きてオーロラを待ちます。朝まで起きています。ずっと待っていても,なかなか出ません。ほとんど出ません。今年の冬も,撮れたのは結局2枚ぐらいでした。その前の冬は0枚でした。その前の冬も0枚です。

 それぐらいなかなかオーロラは出ないものなんですが,粘って粘って,ずっと毎年通って,皆さんにご覧いただけるようなオーロラが撮れました。