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2010年2月19日(金)第4,290回 例会

日本画(花鳥画)を楽しむ

重 岡  良 子   氏

日本画(花鳥画)を楽しむ 重 岡  良 子  

1953年生まれ。’77年京都府日本画新人展大賞受賞。’87年日展特選受賞。’05年京都迎賓館作品買い上げ。高島屋,大丸などで個展開催。

 今日は日本画というものを,もちろん皆さんよくご存じだと思いますが,ちょっとだけお話させていただこうと思います。

 日本画では鉱物,岩石を砕いた絵の具を膠(にかわ)と混ぜて定着させます。宝石も使います。ルビーとかオパールの屑を砕いて使ったという歴史もあります。今でも日本画で言う群青はラピス・ラズリを砕いて使ったりします。宝石などの貴重なものはとても高いので,人工物も使うようにしています。

白のミラクル

 藤田嗣治の「白」が西洋人にとってミラクルだと言われておりました。学者たちが長年調べても分からない。日本画の絵描きから言わせていただけばとても簡単で,日本画の「胡粉」という材料を油で練って,日本画の「面相筆」で描いたものです。西洋人は胡粉とか面相筆を知らないので,とても変わったものだと受け取ったのでしょう。

 西洋人は「黒」に関してもすごく困りました。日本人は墨で五彩を出すというようなことをしましたけれども,西洋人は墨を知らないので,黒についていろいろなことを考えました。イカの墨も使いました。すごいのはミイラです。ミイラは炭化しているので,その塊を粉にして,練って黒を出したりしたことがあるようです。

 日本人はいろいろな自然物からものを作り出すのが得意な民族で,植物にもすごく精通していたのだと思います。

 筆の話をしますと,毛が昔に比べて2~3センチ短くなっています。地球の温暖化が原因ではないかと思います。あまり寒くないので,動物が一生懸命毛を伸ばさない。温暖化がこんなところにも影響しているのではないかと思います。

 「日本画はどういうふうに,どのぐらいの時間をかけて描くのですか」。こうおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。

 京都の日本画は写生をとても大事にします。桜を見に行かれたりするとお分かりだと思いますが,花の命はとても短いです。その間に花を描き,木を描き,全体を描くとすると花に1年,木に1年,全体に1年,最低3年スケッチをします-というようなことを先生から教わりますが,寒かったり雨が降ったりして描けない年もでてきます。絵になるまでには随分の時間がかかります。

 その中からどんな絵が描きたいかという理想を求めていくのが日本画で,写生のままを絵にすることはしません。

光源氏も絵を描いた

 私が描いている「花鳥画」は,世界中で日本人だけが描くものです。日本人はとてもデリケートで,箱庭のような小さな世界も好きですね。日本には四季があり,その中でいろいろなものを愛でたいという欲がありますので,季節によっていろいろなものを,森羅万象を家の中に持ち込みます。それが生け花であったり,日本画であったりするのです。

 「源氏物語」には,そのころのエチケットやしきたり,ファッション,いろいろなものが出てきます。地方の豪族たちがそれを参考にしてまねる,そういう役割も果たしていたのだと思います。おまけに恋愛も絡んでいたから今まで残ったのだと思います。

 主人公の光源氏はオールマイティーで,何でも立派にできる人という設定です。絵も描きます。「絵合(えあわせ)」という巻があって,教養のある人は絵も描くということを暗に広めています。

 当時の貴族は簡単に外出できません。召使が一緒で,お召し物もちゃんとしなければいけません。家の中で描けるのはお花や鳥です。貴族が主に花や鳥を,教養として描いていたのが花鳥画の始まりだと思います。

 もっと自由に旅行できる人,例えば全国に布教するお坊さんとかだと,「あっ,ここはきれいだな」と描きたくなる。絵の具をたくさん持っていくのは大変ですから,墨で絵を描きます。それで昔の絵には,水墨による風景画が多かった。

花鳥画の見方

 花鳥画をどう見るか,どうやって見たらいいかということですが,まず,色が美しいというのがあります。絵の具はとても高価なものだったので,少しの色できれいな色を出そうとしました。色が美しいかどうかということをまず感じてください。

 それと,日本人は,間(ま)とか空間とかいう,あるのかないのか分からないようなものが心に染み込んでいます。その空間に何を感じているかというと,例えば,小さいときに遊んだ風景,子どものときに誰々ちゃんと一緒に遊んだあのレンゲ畑の,あの楽しかったころの風景。悲しかったとき,道を歩いていてふっと赤い花が見えて和んだとかいうことを,絵を通して思い出す。

 そういうふうに,絵を通して皆さんのイメージを喚起しているのが,花鳥画の一番の魅力かもしれないと思っております。

 日本画はできるだけ素直に,誰がどう言おうが,好きか嫌いか,自分にとって好きか嫌いか,そういう形で見ていただければいいかと思います。

 京都はお年をとられた方がお元気で,私は本当に「自分は若輩者だ」と思っています。日本画の大先輩の小倉遊亀という女流の絵描きがおりますが,この先生が105歳のとき「私のような若輩者が,駆け出しが何も言えませんが-」とおっしゃいました。105歳の方にそうおっしゃられると,私はまだ卵みたいなものですから,「ああ,言えないな」と思っています。

 日本画の世界,特に花鳥画の世界は何年も何年もかかってやっと1枚の作品が出来上がるようなところがあります。まだたくさん勉強し残したこともあります。120ぐらいまで生きて,オーソリティーになって,パンダになろうかと思っています。