大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了。大阪府を経て現職。公共経営学,NPO政策論。主著に「NPO政策の理論と展開」,「ボランティア革命」など。
NPOは,広く民間非営利組織を指します。わが国では、NPOという言葉はNPO法人の発展とともに普及してきました。NPO法の施行から11年がたち,NPO法人は全国の認証件数が4万件に近づきつつあります。民間非営利の市民活動は,全国各地で盛んに展開され,NPO法人はその有力な主体ですので,流行と呼ぶことも過言ではないと思われます。NPOへの関心やさまざまなNPOの活動とその成果が,流行として一般的な普及の途上にあるとすれば,いずれ当たり前のこととなる日が来るのかもしれません。将来の状況も予想しながら,今年1年,大いにときめいたNPOを振り返りたいと思います。
「民の担う公共」の掛け声のもとに,2006年6月に制定された公益法人制度改革三法が昨年12月1日に施行されました。今年最初に話題を呼んだNPOは,昨年末から日比谷公園に「年越し派遣村」を開設した複数のNPOが挙げられます。2つ目は,財団法人日本漢字能力検定協会です。公益法人にあるまじき蓄財が指弾され,前理事長らが背任に問われました。3つ目は,女性の代表が「鞆の浦の世界遺産登録を実現する生活・歴史・景観保全訴訟」の原告団事務局長を務める「NPO法人鞆まちづくり工房」があります。4つ目は,秋から年末にかけて,行政刷新のスローガンのもとに断行された事業仕分けにかかわります。この手法を実践してこられた「構想日本」の名は,国が事業仕分けを採用したことによってさらに広く知られることになりました。
これまでNPOの研究者は,非営利セクターと政府セクターの関係を3つの局面に整理して,それらが時代によって変化しながら重層的に存在していると説明してきました。
まず,NPOは政府のサービスの不十分な部分を補充して,政府セクターと代替関係にあります。貧困への支援に取り組むNPOなどです。2つ目は政府を補完,政府と協調して行う活動です。3つ目は敵対関係,対抗関係と言われるものです。多数派を支持する県や市と対抗する鞆のNPOなどが該当します。
今年の夏は歴史的な政権交代が実現しました。10月初めの鳩山首相の所信表明演説は,身近な事例やエピソードが盛り込まれ,印象に残っています。それは「新しい公共」として,人を支える公共サービスの供給に幅広い民の参画を呼び掛けるメッセージでした。
公私の「公」の領域は官,あるいは行政が,「私」の領域は民間が担うものと明確に区分していた二元論から,これら2つの領域の中間に官と民のさまざまな多様な主体がともに支え合い,ともに生きるための公共的領域を構想し,それを社会全体で担うという考え方が新しい公共です。二元論ではなくて三元論であると言っていいわけです。
新しい公共は,公と私,その中間の公共という三元論による説明もさることながら,もう1つ別の三元論によって説明すると,もっと分かりやすいと思っています。
私たちの社会は国や自治体などの政府セクター,企業などの民間営利セクター,NPOや地域団体などの民間非営利セクターという3つのセクターから構成されています。
今日,営利と非営利の境界はボーダレス化してきています。最近では,よりよい市民社会の実現に向けて,さらに広い組織や活動主体を幅広く支援対象にしようという考え方に基づいて,CSO(市民社会組織)という名称を意図的,積極的に用いる動きも出てきています。
CSOは社会的な利益や社会的な課題を議論,研究し,行動する組織を幅広く指しています。NPOのようなテーマ型組織はもちろん,自治会やPTA,さらに高齢者や女性,子どもといった世代別,属性別のいろいろな地縁型組織も含めています。
CSOの名称を用いる積極的な意義があるとすれば,次の3点を挙げることができると思っています。
第1の意義は,CSOは新しい公共を目指す活動に参画する市民にとって,活動の器,乗り物になる組織の選択肢が多彩に存在しているということに視野を広げるものです。第2は,CSOの総称はさまざまな組織による公益活動を評価するときの視点を広げる役割があります。第3は,団体自治を進めた地方分権から住民自治に支えられる次の地方分権,その担い手を育てることに役立ちます。
子ども時代や青少年期に戦争を体験されました65歳以上の皆さんはもとより,高度成長期に社会の第一線で働いて,坂の上の雲を仰いで繁栄への道を経験されてきた方は,公と私の関係として「滅私奉公」という言葉が脳裏に深く刻み込まれているかもしれません。
最近,公共哲学にかかる近年の大規模な研究成果によりますと,これに代わる言葉として,私を活かしつつ公を開く「活私開公」という四字熟語が提言されています。 私は,この理念は確かに尊重すべきだと思いますが,これから新しい公共の担い手というものを構想する上では,公と私の関係は,少し違う四字熟語ですが「結私活公」,私を結び公を活かすということがむしろ求められているのかもしれないと思っています。
これからは,NPOを含むCSOが民間公益活動を維持し,継続していくことができるように,社会全体としてさまざまに支援することによって,単に冒頭のある特定の法人形態がはやっているという話にとどまらず,それを支える新しい時代精神,時代思潮が本格的に流行していく,それを盛り上げて普及させていくことが今求められているのではないかなと思っています。