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2009年12月4日(金)第4,282回 例会

低炭素社会と企業活動

島 田  幸 司  氏

立命館大学経済学部 教授
工学博士
島 田  幸 司 

1986年京都大学工学部衛生工学専攻卒業。
’03年京都大学工学研究科環境工学博士修了。
大学卒業後,環境省のほか地方自治体,海外機関などで環境政策に携わる。同年4月から立命館大学経済学部で環境システム・政策評価に関する研究に従事。

 12年前の1997年,京都会議では日本政府の交渉に携わりました。来週からCOP3以来の節目となるCOP15がコペンハーゲンで開かれます。国内外の低炭素社会に関する動きは激しく,読みにくいです。会議はどうなるのか,国内的にも政策が揺れ動いています。環境制約がどのぐらいであれば足かせになって,どれぐらいであればいい刺激になるのかを中心にお話をしたいと思います。

産業部門の努力

 国際的に京都議定書とその次の枠組みが議論されています。G8サミットなどでは2050年に世界的に半減,あるいは先進国では80%減ということが,おおむね合意に近づきつつあり,中期目標も国内外で議論になっています。

  一部自治体,例えば東京都では独自に基準を設けたり,排出量の取引制度を持ち込もうとしたりしています。消費者からもカーボン(炭素)という目で評価され始めています。

  企業活動の部門,産業部門は,1990年の基準年から見ると排出量全体は少しずつ減少傾向にあります。運輸部門,オフィス部門,家庭部門に比べて,省エネ努力や燃料転換の努力が進んでいるとみられます。しかし,依然として日本の排出量の4割程度を占め,この動向が今後の日本の排出量を占うと思います。

  二酸化炭素を含めて,社会的にさまざまな環境規制が行なわれました。私自身も環境規制をする立場で,事業官庁や業界の団体の方々と厳しい議論をしてきました。  厳しい規制をするなら(事業を)やめてしまう。海外,規制がかからない地域に逃避する。やるならしょうがないと順応していく。こういうタイプの業種,会社が非常に多かったです。

  一部,アメリカの会社などでは,自分のところで技術の研究開発をし,終わったところで,この規制をしてくださいと政府にロビー活動をしてマーケットのシエアを高めていく,やや戦略的な動きをする企業もあるようです。

  実は日本の企業でも,何社かそういう会社と遭遇したことがありました。「業界団体としては反対だけど,実はうちにはこんないい技術があって,本当は環境規制をちょっと強くしてくれたらいいんだけどな。ここだけの話にしておいてね」ということを,非公式の席でお聞きすることもありました。

規制と経営効率

 かねがね私は,本当に環境規制が足かせになるんだろうかと思っていました。アメリカの経営学者のポーターさんという方が,「適切に設計された環境規制は,汚染を減らす契機になるだけではなくて,コストを減らしたり,企業活動の質を高めたりするきっかけになると見るべきではないか」という仮説を提唱されています。

  一昨年,国際機関のOECDが,世界の 4,144の事業所を対象に,日本は1,467も参加したそうですが,各国の工場,事業所でどれだけの環境負荷を出しているか,事業所,企業の経済的な経営効率はどうかということを解析した結果を発表しました。

  環境負荷を効率的に減らしている企業群の方が,経済パフォーマンス,経営効率的にも非常にいいと明確にうたっています。そうした企業の環境パフォーマンスは当該国や地方の規制の厳しさ,本社の方針がどれだけ現場に伝わっているかが大きく影響していることも提起され,私自身興味深かったところです。

  広島大学の研究グループが,日本の318社を調査,メカニズムの解明結果を発表しました。規制,自治体からの要請で会社全体の環境経営の優先度が上がり,組織づくりを含めて環境対策をすることで環境と経済の効率も上がるということが,明らかにされています。

  横浜国立大学の研究グループは,日本の省エネ,新エネルギーの分野での1974年から2000年の特許数の増減要因を分析。環境法令の強化に応じて企業の研究開発が促進され,特許も増えていることが明らかにされています。

  自分自身もデータをいじって,検証したいと思いました。企業の収益性と,環境やCSR面での取り組みの関係について,製造業,主に大企業97社のデータを分析しました。総資産に対する当期純損益という収益性,効率性の指標に何が影響するか,分析しました。

  収益性,効率性の指標と正の関係にあった項目は,新卒従業員比率,女性登用専門部署,平均年間給与,売上高当たりの環境対策費でした。逆に,負の関係の項目は,育休取得率,浮動株比率,売上高当たりの廃棄物排出量ということです。

  理論的によく吟味しないといけないし,因果関係は必ずしも明確ではありませんが,私がおもしろいと思ったのは,売上高当たりの廃棄物排出量で,廃棄物を出さない製造業の方が経営効率や収益性が高くなっていました。

長期的な準備を

 最後,まとめに入りたいと思います。長期的に見れば,2020年,2050年という目標が厳しくならざるを得ない中で,企業が長い目で存続するためには,長期的に準備しておく必要があるのではないでしょうか。

  国内で受け身の対応ばかりしていても,結局は外敵に追い込まれるのは明らかです。厳しいハードルだけど何とかクリアできる準備をし,稼げる産業へ構造転換しながら低炭素社会を乗り切っていくのが,新しい産業で雇用を確保するという日本の方向性にも合っているんじゃないかと,最近私は強く思っています。

  ただし,私自身がいじったデータ,海外の研究も,大規模な企業を対象にしたものです。中堅,中小企業は,環境対策と言っても厳しいと,よく耳にします。日本を支えている中堅,中小企業の今後の厳しい低炭素社会での在り方,生き延び方は別途,検討が必要とも思っています。