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2009年11月20日(金)第4,280回 例会

鳩山新政権の外交課題

谷 内  正 太 郎 氏

外務省顧問 谷 内  正 太 郎 

1944年石川県生まれ,富山県育ち。
’65年東京大学大学院法学部政治学研究科修士課程修了。同年外務省入省。アジア局,北米局などを経て,内閣官房副長官補,外務事務次官。在外では在アメリカ大使館,フィリピン大使館,EC代表部などに勤務,在ロサンゼルス総領事を務める。’08年外務省退職。’09年1月~9月政府代表。現在,早稲田大学教授,慶応義塾大学招聘教授,東京大学客員教授などを務める。

 フランス語で「デジャビュ」という言葉があります。日本語では「既視感」,昔の光景というところです。今の鳩山政権を見て,そう感じます。55年前の1954年12月10日に鳩山一郎政権ができました。鳩山さんは,向米一辺倒は良くない,これからは自主外交だということを言われたんです。今の鳩山由紀夫さんは,対米追従は良くないと言われ,アメリカとは対等の関係である,アジアを重視する政策をという方向で,非常に似ています。

  鳩山一郎さんは,憲法改正,日米安保改定,中国,ソ連との国交正常化の3つの政治課題を出しました。特に安保改定は,アメリカに非常に厳しい態度を示されて断念。ソ連については,歯舞,色丹の2島返還でしょうがないというところまで行きました。しかし,アメリカのダレス国務長官から「そういうことをするのであれば沖縄は返還しない」と横槍が入りました。そこで問題を残す形での国交回復にせざるを得なかった。

 鳩山由紀夫総理のDNAにはアメリカに対するわだかまりがあると思います。また、北方領土問題を何とか片づけたい気持ちがあります。しかし前提として,日米同盟がしっかりしてないと北方領土は返ってきません。鳩山政権の当面の最も大事な課題は,日米関係をきちっと整えることだろうと私は思います。

「対等」と「未来志向」

 鳩山さんは「緊密で対等な日米関係」「未来志向の日米関係」と言われています。「対等の日米関係」は1960年代,例の安保条約の改定が終わった時に,「日本よ頑張れ」ということでアメリカが言ったことがありました。しかし,弱い方から「対等な関係」と言った時,強い方はどう思うでしょうか。

  「未来志向の関係」については,われわれも「中国,韓国,北朝鮮との関係で,過去の問題はきちっと直視して,未来志向でやっていきましょう」と言ってきました。過去,現在いろいろ問題はあるけれども未来志向が大事でしょう,こういう話です。

  じゃ,日米関係にそんなに今問題があるのか。鳩山さんには何らかのアメリカないし日米関係に対するわだかまりがあるんじゃないのかという感じがします。

  中国との関係で鳩山政権は,日米中の関係は正三角形であるべきだというお考えのようです。私はおかしいと思います。日米は同盟関係で緊密で近いです。中国は同盟関係ではない,経済的には大変重要な国ですが。二等辺三角形じゃないのか。  日米同盟は,東アジアの平和と安全のために不可欠の存在です。ここに東アジア共同体をつくる,少なくともアメリカをはずすということについては積極的な理由がないといけませんが,それは示されていません。

  オバマさんは,単独行動主義はやめて国際協調で行く,アジアも重視するということです。こういう時に,ブッシュ政権の時ですら非常に良かった日米関係がガタガタしてくるのは,戸惑いと言うと相当品がいい言葉ですが,「何なんだ」という感じがあるんです。

  普天間基地の問題は,閣僚の意見が皆違います。岡田さんは,嘉手納に移す,防衛大臣の北沢さんは沖合に50mぐらい出すという微調整でどうか。鳩山さんは,自分が決めると。もともと民主党は,県外,または国外ということを言っておられました。自民党は,キャンプ・シュワブの沖合,沿岸部で,県内です。私は微調整はあり得ても,もうそこしかアイデアはないと思っていますが,自民党の時代ですと閣内不統一,政府統一見解を直ちに出せということで,国会審議ストップです。

与党としての自覚

 民主党への希望を3点言います。1つは,与党としての自覚をはっきり持ってもらいたいということです。それは,何でも自民党の対抗軸みたいな発想はやめて,与党としての責任を果たすという与党マインドを早く身につけて欲しいということです。

  2つ目は,プロの意見を尊重してもらいたいと思います。官僚から意見を聞いてもらいたいと思います。政務三役だけで話し合っても,プロの意見はちゃんと聞いてもらいたい。特に外交の一貫性,継続性は大事です。

  3つ目に,国民の生命と財産を守ることが国益の中核ですから,国益を踏まえた戦略的外交をきちっとやってもらいたいと思います。

世界の出来事に影響を

 最後に,ライシャワー演説をご紹介します。1961年5月23日にライシャワーさんが,「日本は世界史の行方を左右するに足る能力を持った国の一つなのです」とおっしゃっています。その能力とは「ある国がその国民の持つ理想によって,またその国民が手本となることによって世界の出来事に影響を与える力のことなのです」と,言っておられます。

  日本人は世界史に影響を与える,そして日本が理想を持って,しかもその理想を日本国民が世界に手本として示すことによって世界の出来事に影響力を与える,そういう能力を日本は持っていると言っているわけです。1961年から現在に至るまで,日本はそれをきちっとやってきたかと言うと,反省しなくてはいけないことがあると思います。

  外交においては,長期安定政権が非常に望ましいです。選挙管理内閣だと思われると,相手は足元を見て,ちゃんと対応してくれません。私は,国益が大事だと思っていますから,民主党が長期安定政権になって,きちんと国民の期待に応えて責任ある政党になっていただきたいと,心から思っています。