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2009年10月2日(金)第4,273回 例会

江戸時代の自由都市 大坂

徳 川  恒 孝 氏

徳川宗家18代当主
(財)徳川記念財団理事長
徳 川  恒 孝 

1940年会津松平家に生まれる。 ’63年徳川宗家先代家正より家督を継ぎ18代当主に。学習院大学政経学部政治学科卒業。’64年日本郵船入社。副社長を経て’08年まで顧問。財団法人徳川記念財団理事長。WWF(世界自然保護基金)ジャパン会長。

 今日は,江戸(時代)の文化のお話をしたいと思います。戦国時代を描写したロドリゲスという宣教師と,元禄のちょっと前に来たケンペルというドイツ人の医者の文章を読むと,随分日本が変わったことが分かります。ロドリゲスは「極度の貧窮と悲惨に陥った。各自が勝手に殺したり財産を没収したりした」と書いています。ケンペルが書いた日本はこうです。「肥沃な田畑に恵まれ生活必需品は豊富で,世界でもまれに見る幸福な国民である」。戦争が続いている国と平和の国の違いが,明確だと思います。

「武」から「文」へ

 米の収穫高の7割を武家が取って政治に使う,3割が農民に残る「七公三民」という言葉があります。非常に強く進めたのが秀吉公でした。戦はすごく金がかかるから民生には金が回らない。これが江戸時代に入り,約60年で「三公七民」に変わります。「武」から「文」へ,あらゆる政策が変わっていきました。一番大きかったのは最初の100年,1600年から1700年までの17世紀で,日本中で巨大なインフラ整備が行われました。

  朝鮮出兵のころの人口が1,200万人で,100年たった1700年には3,000万まで増えました。河川対策,新田開発が広がり,お米の取れる量が2倍以上に増えたんです。三公七民になってもやっていけるということで,大減税に進んでいきました。日本全国に通貨が行き渡り,法体系がほぼ共通になり,街道が全部通るようになる。この100年で日本は空前の経済ブームに突入します。

  これが元禄の時代で,元禄文化というのが大坂です。江戸の繁栄ではありません。大坂中心の大文化でした。近松門左衛門がいて,浄瑠璃ができて,商都大坂の一番元気のいい時代だったと思います。

  日本中で大坂と江戸だけが一切,年貢なしの都市になりました。当時日本には,三都と呼ばれる江戸,大坂,京都の3つの大きな町がありました。1700年ごろで言うと,江戸が人口100万人,大坂と京都が30万から40万でした。江戸は世界で一番大きな町で,大坂,京都もトップクラスです。

  元禄時代,高度な職人技術,巨大な読書人口があり,識字率の高さは世界一でした。高い教育水準を支えたのが寺子屋,藩校,私塾で,いろんな学校が日本中にありました。

  一番今と違うのが寺子屋教育で,大体6~7歳から12~13歳まで,お師匠さんと生徒の1対1の教育でした。一人一人に違う教科書がいくんです。寺子屋のお師匠さんたちが言っているのは,子どもは千人が千人違う。一人一人に合わせる。ですから,子どもたちは非常にのびのびと育ったということが言えるんじゃないかと思います。  子どもたちは大体12~13歳から丁稚,徒弟に出ます。江戸時代の人の常識として,12~13歳を過ぎて両親と一緒にいるとろくな者にならないというのが鉄則だったと思います。

  江戸の人の中に「京・大坂は江戸の引き出し」という言い方があるんです。江戸っ子はちょっと大事なことというと,引き出しを開けるんですね。それは京都,大坂で,ここでできたものが江戸へ行って,これが下り物,下ってこない物はろくでもないから下らん物と言われるようになりました。

民でできることは民で

 都市の性格として,江戸は武家の都市です。大坂は商人の自由都市です。大坂城代はいますし,大坂奉行所がありますが,町を治めるのは全部町人でした。徳川時代の在り方は「民間でできることは,みんな民間でやれ。お前たちの中の貸し借りの問題なんかに,巻き込まれてたまるか」。大筋の枠だけ決めて,それ以外は町の名主さんなり何人組かで決めてくださいということでした。

  武家は武家で全体を治める,町人は物を回して利潤を追求するけれども,余り利潤が出ないようにむしろ社会に還元する。農業は農業で,できるだけいい米をつくる。大工さんたちは腕によりをかけていいものをつくる。それがプライドという形となり,皆が社会のパートナーとしてやっていく。こういうのが当時の日本の明確な価値だったと思います。

環境問題に取り組みを

 私は環境問題もやっているものですから,一言だけ申し上げておきます。私が高校を出たころは地球の人口は30億人でした。大阪万博のときが40億です。今,67億いまして,2050年には90億になると言われています。

  人口が増えたのは農業の大変革があったためで,30数億人増えたのをカバーしてきました。薬品の効率アップ,品種改良,遺伝子改良,この3つでここまで来たのですが,これ以上の農業の伸びがどうなるのかという問題が,水不足と一緒になって出てきています。

  水ということでは,ヒマラヤ,アラスカの氷河が減った。北極の氷が減るかもしれない。 ヒマラヤには全部で2万,3万の氷河があるんですが,この間,WWF(世界自然保護基金)の総会に行きましたら,これが3年間でなくなって茶色い岩が露出するようになった写真が出ていました。

  この溶けた水が,氷河湖という,全然ダムも何もない自然の湖水になって,この前壊れてチベットで死者が出ました。こういうことが世界中で起こって,大変心配な時代になっています。

  「あんな25%(の温室効果ガス削減)なんてとんでもない,利益にかかわる」というのが今の大半のご意見だと思いますが,実は幼稚園,保育園,小学校にいる子どもたちが50歳,60歳になったときには真っ向からこの問題にぶつかります。ですから,ぜひこの環境の問題に関しては,相当真剣にお取り組みをいただきたいということが私のお願いです。