大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2009年9月4日(金)第4,269回 例会

三国志に学ぶ

河 田  悌 一  氏

関西大学
学長
河 田  悌 一  

1945年京都市生まれ。大阪外国語大学卒業。大阪大学大学院で中国哲学を専攻。専門は中国思想史。’86年関西大学文学部教授。文学部長,副学長を歴任し,’03年10月学長に就任。この間,米エール大学,プリンストン大学客員研究員を務める。文部科学省中央教育審議会臨時委員,同省大学設置・学校法人審議会委員。(社)日本私立大学連盟常務理事。(財)大学基準協会副会長。著書に「中国近代思想と現代」「中国を見つめて」「書の風景」など。

 日本人の歴史観と,中国人の歴史観は違うと思います。中国では記録したことはしっかり覚えて,とことん批判,追及します。いやなことは忘れて水に流そう,というのが日本人的な歴史観です。欧米の歴史観は,クローチェの場合,「すべての歴史は現代史である」ということです。「歴史とは何か」(岩波新書)というE.H.カーの名著には,「歴史とは現在と過去の対話である」とあります。そういう意味で三国志を読めば,非常に面白いのではないかと思います。

正史と小説

 「三国志」は2つありまして,1つは正史,歴史書です。南北朝の時代に陳寿という人が書きました。250年前後だったと書かれています。文体は漢文で,日本に入ってきて,寺子屋でも漢文でした。  もう1つは口語体の「三国志演義」で,明の時代に書かれました。明の時代はかなり商工業が盛んになり,余裕ができました。四川省で,講談師が毎日ちょっとずつしゃべります。「劉備玄徳が三顧の礼を…」「泣いて馬謖を斬る…」。有名な言葉を話して「今日はここまで」。そして明日また続けられ,口語体で作られていったのが「三国志演義」です。  特にその中で大事なのは,どちらを正当とするかです。「三国志」では魏を正当な歴史と見ています。これが本来の見方です。  司馬光が書いた「資治通鑑」があります。毛沢東は死ぬまで毎日読んで,権謀術数を考えたと言います。「資治通鑑」でも魏を正当とする。僕もこれは当然だと思うんです。やっぱり,きちっとした思慮のある曹操という人が政権をとりました。  ところが判官びいき,義経を助けてやれという日本人の心境と一緒で,小さくて弱くて豪傑がたくさんいる蜀の方を正当として認めたいと朱子が言い出します。朱子は朱子学ですから,いわゆる正当な考え方がここから来ます。それ以来,蜀を,劉備玄徳の方を正当とする見方も出てきます。小説「三国志演義」はそういう立場で書かれています。

天下の英雄

 重要な言葉をピックアップします。覚えておかれると,会社でお話しになる時に役立ちます。ご一緒に声を出して読みましょう。  「燕雀安知鴻鵠之志哉」。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや。「部下のツバメやスズメみたいなお前らに,どうして大鵬である私の気持ちが分かるのか」という有名なことわざです。  「子治世之能臣,乱世之奸雄也」。子は治世の能臣にして,乱世の奸雄なり。曹操が人相見に自分の人相を見てもらいます。人相見は答えなかった。もういっぺん,「わしはどんな人間と思うんや」と聞きました。そうすると,やっと人相見が言いました。「子は治世の能臣にして,乱世の奸雄なり」。  乱世の奸雄の方をご利用にならないと,企業は伸びないのではないか。治世の能臣(東大卒の人)だけでは駄目で,関西大学の卒業生も採っていただかないと,ということです。いかがですか。  次は,曹操が言った言葉です。私は曹操が好きで,曹操の言葉をたくさん集めました。「夫英雄者 胸懐大志,腹有良謀,有包蔵宇宙之機,呑吐天地之志者也」。それ英雄は,胸に大志を抱き,腹に良謀あり。宇宙の機を包蔵し,天地の志を呑吐するあるものなり。  「ただ単に大志を抱け,だけでは駄目で,30歳の時にはどうする,40歳,50歳の時はどうするという謀が必要である。そして,宇宙の機を治めて,天地の志を心に飲み込む。それが英雄だ」ということです。  「今 天下英雄,惟使君與操耳」。今,天下の英雄は,使君と操なるのみ。ここのところで初めて劉備玄徳が出てきて,曹操と話し合いをします。「操は手をもって玄徳を指差し,自らを指差して,天下の英雄はあなたと私,二人しかいない」。後継者をお決めになるときに,「あんたとわしや」と言っていただくといいのではないか。学長はなかなかそういうふうに言えません。学長が言うと票が入らないそうです。

時の利

 (次からは)日本語です。「 文章は経国之大業にして不朽之盛事なり」。これが中国の伝統です。指導者は,ちゃんとした文章を書けなければならない。毛沢東がそうです。周恩来がそうです。今の胡錦濤はどの程度の文章を書いているのか分かりませんが,やはり文章が書けるということが国を治める元である。文治の国であるということです。 次は,自民党に聞かせたいような言葉です。「将たるの道は,勝をもって喜びと為すなく,敗をもって憂いと為すなし」。「勝っても有頂天になったらあかん。自民党負けても,心配せんと頑張れ」ということです。  「良薬は口に苦きも病に利あり,忠言は耳に逆らうも行いに利あり」。トップになると,なかなか忠言が聞けない。忠言は耳に痛いことを聞くことが,大事だと思います。私はしょっちゅう,忠言を聞いています。  「人は足るを知らざるに苦しむ。既に隴を得て,また蜀を望まんや」。有名な「望蜀の願い」です。もうこれ以上,望んだらあかん。  「事を謀るは人に在り,事を成すは天に在り」。計画するのは人間だが,実行できるかはやはり,時の運というものがある。 企業の方も大変でしょうけれど,この言葉を味わっていただいて,時の利,天ということをお考えいただきたいと思います。