大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2009年8月28日(金)第4,268回 例会

スポーツ文化がこの国を変える

傍 士  銑 太 氏

(財)日本経済研究所
専務理事
傍 士  銑 太 
(ほうじ せんた)

1955年生まれ。’80年日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。フランクフルト首席駐在員,岡山事務所長,地域振興部審議役などを経て’08年から現職。兼職として,(社)日本プロサッカーリーグ理事,(財)日本サッカー協会国際委員,慶応大学非常勤講師,内閣官房構造改革特区評価委員。

 もともと私は野球少年で,土佐高校へ行って野球をやるんだと思っていたところ,土佐中学に入った途端,サッカーと出会いました。(テレビ番組の)三菱ダイヤモンド・サッカーで,芝の専用の競技場で観客がうねっているのを見ました。大学3年の時に本場のヨーロッパへ行きました。ドイツに支店を持っているということで(当時の)日本開発銀行に入り1998年,念願のドイツで生活することができました。(ヨーロッパが)非常に安定した時期を迎えていて,そうした中で私が感じたのは日本の限界でした。

分散型の国の形へ

 1つ目の限界は,経済が目的ではなくなったということです。84年,(当時の)経済企画庁で設備投資の担当として経済白書を執筆していたころから感じていましたが,やはりヨーロッパでは,そう思いました。 2つ目は,人口増加時代の価値観で,これを変えなければいけないということです。人口の増加期は,新しく作っていく時期ですが,停滞期は,あるものをいかに楽しむか,使うか,工夫や発想やアイデアを凝らすかです。日本人にとって,非常に弱いところです。 3つ目の限界は中央集権です。先進国で中央集権は日本だけです。EUも北米も地方分権を憲法でうたっています。 こうした限界に対して,何をしなければならないかと言うと,この国の成り立ち自体を変えなければいけません。それが地方分権だと思っています。ヨーロッパでは中央集権の反対は分散で,分散型の国の形にするということです。 スポーツと結び付けると,日本でプロスポーツの本拠地は今,プロ野球12,野球の独立リーグ16,サッカーのJリーグが40,フットサルが12,バスケットが15あります。95チームで,全国40都道府県に分散しています。全国に本拠地が分散して,皆がそのチームを応援します。欧米に似た形が,スポーツの世界では起きています。 Jリーグは,プロ野球と違って週に1回しかないので,応援団が2週間に1回,相手の所に応援に行きます。一番多いのは浦和レッズ,関西で試合をしても4~5,000人関東から来ます。スポーツは2時間だけで,あとの時間は観光客と考えれば,一大観光事業になります。スポーツが,いろいろな産業に影響を及ぼしているのです。

地域意識を高める

 いろんな意識を楽しく変えていくのがスポーツだと思っています。これまでスポーツは手段でした。体育,企業の広告塔,プロ野球も大相撲も国民娯楽という手段として使われ,楽しむという純粋なものはありませんでした。それが90年を境に変わってきました。 これはメディア革命があります。世界中のプロスポーツが生中継で見られるようになりました。地域対抗のスポーツが出てきました。89年にダイエーが福岡に移ってからパ・リーグが変化,93年にJリーグが発足しました。楽しくスポーツをすれば健康にいい,そういうスポーツが出てきました。手段というスポーツから楽しむスポーツに変わった。これがスポーツ文化です。 そういうスポーツは,地域意識を高める力を持ちます。Jリーグが地域で行っていることで,企業名を外して都市名を付ける,都市対都市という位置づけにするということです。(傍士氏提案に端を発した)ご当地ナンバーも同じです。バイクは全市町村名がついているのに,なぜ車は運輸支局の数しかないのかというのが私の原点です。 「♪大阪で生まれた女~」という歌詞をご存知でしょうか。大阪を捨てて,出ていって終わることになっていますが,元の歌は18番までありまして,最後18番では大阪に戻ってきます。ですから,戻ってくる歌にしておけば多分,大阪の企業ももっと戻ってきたのではないでしょうか。もう一回18番を聞いたほうがいいのかなと思います。 Jリーグは企業スポーツの限界を見て,地域のパートナーとのつながりを大事にしています。企業,自治体,メディア,NPO,市民,いろんな支援者がいます。支援の方法は,観客・ボランティアになる,業務を提供する,広告を出す,スポンサーになる,いろいろあります。 新潟では,野球・サッカー・バスケット・チアリーディング・ウインタースポーツ・陸上競技の6種目全部,アルビレックスという名前と同じチームカラーをまといます。経営母体は別ですが,皆で新潟を応援しようという形をとっています。仙台もバスケット・野球・サッカーを,一緒にやっています。

文化が工業に代わる

 こういった話は,子どものため,子どもが地域の未来であるということで,我々が考えていかなければいけないことだと思います。 Jリーグができた年の秋,「地域社会とスポーツ」と題するセミナーがありました。戦後日本の国の形をつくった国土計画の御大,下河辺淳さんの言葉を述べさせていただきます。「全国に工業を発展させることが,地域活性化につながると信じてきましたが,鹿島アントラーズの活躍で元気になった町の姿を見ていると,都市の文化水準,スポーツ文化が高くないと工業自体を維持できないと分かりました。文化が工業に代わる時代になりました」と,17年前に述べられています。 自分が楽しく生きる,人を楽しくさせるのが文化だと思います。これは,大阪人の特技ではないかとも思っています。ぜひ大阪から日本の国の形を,あるいは国の成り立ちを変えていただければと思っています。