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2009年8月7日(金)第4,266回 例会

視聴者満足の追求

福 地  茂 雄 氏

日本放送協会
会長
福 地  茂 雄 

1934福岡県生まれ。’57年長崎大学経済学部卒業,アサヒビール入社。’81年京都支店長,’88年取締役大阪支店長,’96年副社長, ’99年社長,’02年会長兼CEO,’06年相談役。 ’08年退任,日本放送協会会長就任。’88年8月~ ’91年9月まで当クラブ在籍。

 去年の1月25日に就任して「ビール屋から放送屋(に変わって),どうですか」と,よく質問されました。自分で仕事をするわけじゃなく職員に気持ちよく働いてもらったらいいのですから,変わりません。軸足,判断基準の物差しも,ビール会社時代はお客様満足,お客様目線と言い続けてきました。放送は視聴者目線,視聴者満足の世界で,基本的には変わらず,比較的楽しく仕事をしています。

理事から改革

 会長の任期は3年間で,一種の駅伝のランナーです。私の区間には何をするのか,最初に考えました。不祥事が続いた後で,まず第1はNHKの組織風土を風通し良くすること,2番目は中期計画の策定と考えました。 NHKの組織風土は縦軸の組織が強すぎ,横のコミュニケーションが悪いと言われました。縦軸が強いのは人間の背骨と一緒で組織運営では当たり前です。縦軸の組織が弱かったら仕事になりません。ただ,縦軸の組織の中で仕事が完結する時代でなく,いろんな知見をどうやって取り込むかが大事な時代です。 就任して最初,全理事に「日付の入らない辞表を書いて欲しい」,「個室を返して大部屋に移って欲しい」と言いました。 1期未満の理事には残ってもらい,1期以上務めている理事には辞めてもらって関連団体のしかるべき部署に就いていただきました。部下に変われと言っても,理事や役員が小部屋に閉じこもっていては,コミュニケーションを良くすることはできません。 報道局の各部長は全部代わってもらいました。女性の局長が1人しかいないのはおかしいということで,今年の異動で3人できました。40歳台の局長がいませんでしたが,いっぺんに3人でき,若返りをしました。 外から来た人間しかできないことをやるのが私のミッションで,取り組んでいます。

正確で迅速

 大事なことは,放送品質をどう高めてお客様の満足を引き出していくかです。NHKで最初,「今,若者のテレビ離れです」と聞きました。ビール会社時代に「若者のビール離れです」と聞いていました。大手新聞のトップの方には「活字離れですよ」と言われました。先月末,母親の法事で九州に帰りましたが,お坊さんからは「若者の信仰離れで,お寺は大変です」という話を聞きました。 若者がいろんなところから離れている。特に制作を担当している若い人たちには,人間に眼球がついている以上,テレビ離れはあっても映像離れは絶対にない,映像文化は永遠だと思うと言っています。ただ自分の見たい時間に,見たい媒体で見るとか,映像情報のとり方が多様化するだろうと言っています。 コンテンツをきっちりと作る能力を自分たちが持っていれば,NHKの映像文化は,私は半ば永遠に続くと思っています。 ニュース,地震でチャンネルを合わせていただけるのは,NHK報道への視聴者からの信頼があるからです。信頼とは「正確で迅速」ということです。 特ダネは,運がいいからではなく,なすべき場所でなすべきことをきっちりとやっていたら,とれるということです。 例えば(今年3月),成田空港でフェデックスの飛行機が着陸に失敗して,風にあおられてバウンドし,左に旋回して燃えてしまいました。NHKが他局よりも10分か20分早く報道しました。 ロボットカメラは6台ついていて,ほかの(放送局の)カメラにも写っていたと思います。NHKではニュースの5分前にロボットカメラを点検するルールがあり,見たら飛行機が燃えている映像が写っていたんです。 ニュース原稿はまだない。しかし,その燃えている状況を映し出して,後でニュース原稿をつけたということです。毎朝,毎朝,カメラを見るというごく当たり前のことをしていたから,つかめたんです。 選挙報道も信頼が厚いです。7月の東京都議選で不在者投票に行きました。選挙報道担当者に「うちの出口調査の人がいましたか」と聞かれました。不在者投票でも出口調査をしていて,人が足りないから来年4月に入る内定者も全部動員していると言っていました。 当日の出口調査をし,投票総数を最終的に各選挙管理委員会からいただいて,判断をする。開票率ゼロで当選確実という情報も,そういった積み上げの中で出せるのです。

NHKらしく

 会長就任時の記者会見で「娯楽番組とか歌謡番組はやめますか」と聞かれました。娯楽番組でも歌謡番組でも,NHKだからとか,NHKらしい番組を作ったらいいじゃないですか。「ためしてガッテン」は,教育番組と思いますか,娯楽番組と思いますか。娯楽番組ですが,そこから受けるいろんな知見というのもいいじゃないですか。歌謡番組にしても「学校音楽コンクール」,全国の市町村をくまなく歩いた「のど自慢」,地域おこしですよ。NHKしかないじゃないですか。「紅白(歌合戦)」だってそうです。 いろんなモニターの方の統計を見てみますと,NHKの番組は,何かを教えてくれる,考えさせてくれる,制作者の意図がはっきりと分かるといった評価をいただいています。そういった線を崩さないように番組を作って欲しいと言い続けてきました。 先般,あるマスコミの方から「改革は山登りに例えると,今何合目ぐらいですか」という質問がありました。「山を登っている人は,自分がどこにいるか分からない。山のてっぺんにいる視聴者が見てこそ分かる。私にはまだ分かりません。多分,道は遠いとは思いますが,一歩一歩,確実に改革の登山を続けていきます」。こう答えました。