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2009年7月17日(金)第4,263回 例会

阪神淡路大震災における山陽新幹線,JR神戸線復旧工事

池 田  靖 忠 氏(不動産経営)

会 員 池 田  靖 忠  (不動産経営)

1946年生まれ。’69年京都大学工学部交通土木工学科卒業,同年日本国有鉄道入社。
’96年西日本旅客鉄道(株)神戸支社長,代表取締役兼専務執行役員鉄道本部長等を経て,’06年6月現職(大阪ターミナルビル(株)社長)。
当クラブ入会2008年2月。

 今日は平成21年7月17日で,あの大地震が起きて14年と6カ月になります。地震は決して人ごとではないということを,少しでも感じていただければと思います。私は今も西宮に住んでいますが,震災当日はJR西日本の社宅に住んでいました。揺れはひどかったですが,家族もけがはなく無事でした。復旧工事対策本部に所属,毎日大阪に出勤しました。西宮,神戸はすごい被害で風呂も入れず,水は自分でくむ大変な生活でした。大阪は建物の中の被害はありましたが,神戸,西宮とは随分違う平常な状況でした。被災地と10㎞も離れてないところで,違和感がありました。当然ながら,大地震は大阪でも起こり得ます。

阪神間で交通麻痺

 (スライドは)中央防災会議が示した活断層の図です。大阪の上町断層は南北に続く約40㎞の活断層です。2007年に中央防災会議が出した試算によると,上町断層でマグニチュード7.6の直下型地震が発生した場合,最大で死者4万2,000人と言われています。阪神淡路大震災以上の地震ですが,ものすごい数字です。大阪では,南海沖地震,東南海沖地震も想定され,津波が心配です。

  阪神淡路大震災の震源地は淡路島で,16㎞と浅いところで起きています。マグニチュード7.3で,震度7の一番大きい被害を受けたところは,神戸市の灘区六甲道などの地域でした。死傷者は約5万人ということです。

  JR西日本では,山陽新幹線,神戸線,宝塚線の中山寺付近で大きな被害を受けました。この阪神間は,六甲山と瀬戸内海の間の狭い地域に高速道路,道路,私鉄,JRが密集,公共交通機関が麻痺しました。

  山陽新幹線は兵庫県の尼崎市から神戸市の西区にかけて高架橋が落ちました。落橋が8カ所ありました。神戸線は,甲子園口駅と西明石駅間で駅舎が壊れたり,土を支えている壁が倒壊したり,新幹線と同じように高架橋が損傷する被害を受けました。特に被害が大きかったのは,住吉駅,灘駅の間にある六甲道駅付近の高架橋で,約2.2㎞のうち約50%,1㎞強が落橋しています。宝塚線は,中山寺を中心に川西池田駅から宝塚駅の各所で,ホームやホームの上の屋根が損壊するなどしました。

復旧工事で耐震性高める

 自動車や鉄道が走る高架橋の床版を支えている柱,コンクリートは圧縮に強く,鉄筋は引っ張りに強いです。その柱がせん断破壊と言って,斜めの方向の力で破壊され,落橋しました。高架橋の床版自体は被害を受けていませんでした。

  この事故で非常に心配したのは,基礎でした。地上に見えている部分は目で見たら分かりますし,コンクリートはよく分かる構造物です。地中に隠れている基礎が心配でしたが,試掘したり,たたいたりして検査しました。基礎,高架橋の床版は健全で,軽微な補修で再使用したということです。

  復旧に際しては,同じような地震があっても柱のせん断破壊が起きないように,耐震性を上げなければいけません。仮に軽い破壊が起きても,コンクリートが飛び出なければ柱はもちます。人間の体でいえば,骨が幾ら残っていても筋肉が飛び出てしまうと,その骨は支えきれません。

  柱の中に縦方向に鉄筋が入っていますが,そういう損傷が起きたとしても,その鉄筋が変形しないように拘束するための対策をしています。具体的には,柱の外側を鉄板で囲い,すき間には無収縮モルタルを充てんする工法をとりました。

JRグループが応援

 国鉄は北海道から九州まで分割民営化しましたが,各所から皆が駆けつけてくれました。JR総研,JR東日本をはじめとするJRグループの技術者に1週間,10日と飲まず食わずで応援していただきました。在来線は74日で開通,新幹線は81日で開通させていただきました。

  山陽新幹線で,武庫川を渡って六甲トンネルの間の長い高架橋の復旧では,全国の建設業者の方が集まってくださいましたので,海の専門の業者もいらっしゃいました。

  復旧は高架橋周辺にある多くの設備の撤去から始まりました。高架下ではテナントの退去も始まりました。銀行の現金自動預払機(ATM)もありましたが余震の中,お金は全部無事に出すことができたと聞いています。

  土木工事,建築工事,電気工事が同時並行で進められました。当然職種の違う方が入ってきますから,いかに安全に工事を進めるかに気を使いました。労働災害が1件もなく,すごいものだと思いました。六甲道駅付近の復旧工事では,軌陸作業車,軌陸車と言っていますが,道路上も線路上も走れる特殊な作業車を最大限に活用しました。

  復旧工事自体は3月26日に,在来線の開業1週間前,山陽新幹線の開業2週間前にすべて完了しました。当時の運輸省による工事完了確認,JR西日本の自社試験,鉄道事業法に基づく立ち入り検査を経て開通しました。立ち入り検査では,電気機関車4台が併走,電車を同時に同方向に運転する実車走行試験が行われました。

  この後,この地震の教訓を踏まえ,(新幹線を運行する)JR3社,さらにJR九州も加わり,早期に地震を探知するシステム,高架橋の耐震補強等を進めて,ほぼ工事が終わった状況です。

  地震は,いつ起きても起きた時にどういう対策をとるかが大事だと思います。身近なところでは家具の転倒防止とか,懐中電灯(の用意)があろうかと思います。皆様方の参考の一つにでもなればと思ってお話ししました。