1946年大阪市生まれ。日本写真映像専門学校卒業後,広告写真家として活躍。月刊『プレジデント』の専属カメラマンとして長年,経済人の撮影に携わる。
駆け出しのころ,九州に撮影に行きました。新幹線の食堂車で年配の2人の男性と相席させていただき,お話ししました。2人はウエートレスの方が料理や水を運んで来た時,お客なのに「ありがとう」とおっしゃいます。カッコええ,ええこと教えてもろたと思いました。伝票を持って支払おうとしたら,「いいですよ。よいお写真を」と言われました。胸にロータリークラブのバッジがあり,皆様の先輩ではなかったかと思います。お礼申し上げます。僕も大学の守衛さん,掃除してくれるおばさんに「ありがとう」と言っています。
写真を見ながら説明させていただきます。1枚目の写真は,松下幸之助さんです。出版される本のカバーの撮影です。創業時の苦労した話ばかりされていましたので,「苦労話ではええ表情が撮れませんので,もうちょっと楽しい話題に変えてください」と申し上げました。秘書の方に「カメラマンが僕に指示したのは,初めてだな」と言われていましたが,いいお顔を撮らせていただいた記憶があります。僕は,その一言を言うのにものすごく勇気が要りまして,撮影が終わった時には,背中に汗がにじんでいました。 アシックスの社長でいらっしゃった鬼塚喜八郎さんの写真です。トップの方で一番気を付けているのは,絶対に健康に撮るということです。「なんか元気ない顔をしているなあ」ということになれば,ビジネスにも差し障ると思います。 次は勉強の公文式をつくられた公文公さんです。僕の作品に使いたいとお願いしました。300人を目標にしていて,今240人ぐらいです。「あなたを撮りたい」と手紙を書いて。その中には大屋政子さん,横山やすしさんもいらっしゃいました。公文先生には「ここに学生,子どもを2,000人連れてきました。わんぱくな子,よくできる子,先生がイメージして2,000人を見渡して思い出してください」と言って,それを表現していただきました。こんなイメージで撮りたいと言って,返ってきたものをキャッチする。カメラマンは,ピッチャーであり,キャッチャーです。
次は(元西鉄ライオンズ投手の)池永正明さんです。私もカメラマンですから,ズバッと聞きました。「本当に八百長したんですか。カメラにしゃべってください」。池永さんは話してくださいました。見ず知らずの人が遠征先に来て,バッグの中にお金をポンと入れて,「よろしく。また,電話するから」と言って出て行った。まだ25歳で,ファンが一緒に食事したいのかと思い,開けたら500万円入っている。次の遠征先まで持って行った時に,八百長をしたい人が捕まった。そのお金は使ったこともないし,また何か連絡あるだろうと思って持ち歩いていただけだったということです。ファインダーをのぞいて池永さんの目と僕の目が合った時,お互いがかすんでいました。僕は,写真はうそをつかないと思っています。「この人はそんなことをする人ではない」というのが,伝わってきました。 田辺聖子さんは,絶対にプライベートでは写真は撮らせない人でした。僕は田辺さんの本をいっぱい読んで,田辺さんはすてきだなと思い「撮らせてください」と手紙を書きました。着いたころに電話を入れて「ぜひ撮りたいんです」と言うたら,「いや,わたしは絶対にプライベートではだめなの」ということでした。「でも,どうして撮りたいの」とおっしゃるから,「100年後,日本で一番大きな美術館で僕と同世代に生きた人の展覧会をしてもらう。子どもに譲っていって,遺言にし,フィルムを大事に整理して展覧会を開きたいんです」。そうしたら「あなた,おもしろいことを言うわね。じゃ,いいわ」と言われました。僕にとっては貴重な写真です。
写真の撮られ方をお話しします。 レンズの上の方を見る。レンズに対して,姿勢を垂直,水平にしない。 おへそを1センチ上に持ち上げる。 この3つが「人柄・健康・美 」,写真映りが格段に良くなるポイントです。 2番目から説明します。肩が水平,頭が垂直,これは人間が出てこない一番味気ない写真です。写真館で撮られたら全然違う。やっぱり俺は男前だろうってなるはずです。パスポート,免許証写真は,水平,垂直を守って顔・形がはっきり見えるようにするだけのものです。水平,垂直を崩すには,首を少しかしげるだけでいいんです。例えば,立つときに,体重を左右同じバランスにしないで,左足に体重をかければ,斜めの線が出てきます。首を真っすぐにすれば,動きが出てきます。 それから1番目。たいがいの照明は上から来ますから,人間の瞳に光が入る。それが入る位置,ちょっとレンズの上あたりを見ます。そうすると,目の中に光が入って元気に見えます。下を向かないことです。どちらかの肩を前にすると,前に動くアクティブなイメージで,元気に見えます。目の中に光を入れることを考え上を向くと,首のシワも伸びます。 そして,3つ目。今の姿勢のまま,おへそを1センチ上に上げてください。全然違います。会議でも,おへそが下がっていると後ろに引いたようになります。ビジネスでも,パワーを感じません。電車のつり革を持っている時,おへそを1センチ上げると,ものすごくカッコいいです。 もう1つ最後に,奥様,お嬢様方にお土産です。温泉へ行って,絶対に温泉上がりで記念写真を撮ってはいけません。クリームだけ塗って,部屋の中でストロボをたくと,ビカビカに光ります。特にでしゃばって前へ前へ出ますと,白いのがよけいに膨らんでしまって見られない写真になります。もし撮る場合は,一歩引いて遠慮がちにしておいていただければと思います。