1970年,大阪府立大学農学部卒業。’72年に同大学院農学研究科修士課程修了。九州大学で農学博士号を取得。同大助教授,カリフォルニア大学客員研究員などを経て現職。日本造園学会会長などを務める。
農学環境系では初めて,専門職大学院をつくらせていただきました。なぜ緑環境景観マネジメントかということですが,社会の流れを見ますと,60年代ごろは都市の緑地をつくろう,公園をつくろう,植物の新しい材料をつくろうという動きが中心でした。高度成長のころはアーバンデザインとか環境デザインがかなりありました。最近は都市環境・公園・市民参加・地域生態(エコロジー)という概念が出てまいりました。保全の問題やバイオマス,屋上緑化,外来種の問題とか生物多様性の問題が出てまいりました。
かつては設計してつくっていた時代から,住民参加のもとでデザインしてエコロジーを配慮しましょう,要はきょうのテーマであります緑環境景観を考えるときに,マネジメントをどう考えるかということが重要になってきたわけでございます。
緑環境景観マネジメント研究科ができる前に県立淡路景観園芸学校が約10年間ありまして,これを母体に今年4月に設置されたのでございます。専門職課程2年間,学位は緑環境景観マネジメント修士(専門職)。入学定員は20人,今は1年生だけでございます。
明石大橋を渡って淡路インターを出ていただきまして20分ほど走りますと,兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科にまいります。コデマリ,スイセン,シュモクレン,アセビ,ヤツデ,ソメイヨシノなどがキャンパス内で咲いております。
研究科設置の目的ですが,緑環境に着目し優れた景観を備えた美しい地域をつくり,良好にマネジメントしていく専門技術者ということで,マネジメントの計画・設計は当然ですが,それをマネジメントしていける専門技術者をしっかりとつくっていこう。
目ざす人材は,1つ目が緑環境を把握分析評価し景観の喪失・再生・保全のできる専門家。2つ目に,景観の役割をとらえ,空間デザインを考慮・考案し,活用プランを策定できる活用の専門家。3つ目が緑環境景観の施策を立案し,市民・企業等と展開できる施策の専門家でございます。
保全・管理領域では,指定管理者などとして緑空間の総合的な管理運営に携れ,管理者業務もしっかり見られる人材を育成したい。活用デザイン領域では,まちづくりの計画・地域活性化計画・企業の社会的貢献事業などに寄与できる専門家をつくりたい。施策マネジメント領域ですと,これから重要になります多自然居住地域での地域振興の企画・観光などでの施策の立案・企画実施,こういう施策をアレンジメントでき,倫理観を持ち,コミュニケーション能力を備え,企画実践能力を持った人材をつくっていこうという目的でつくっております。
私たちのところは演習を主体とした教育課程で,演習は全単位数の7割にまで持ってきました。緑地環境の変化の体感につながるということで,全寮制になっております。寮の周りは植栽がいっぱいで,それを24時間体験しながら生活していくという環境になっております。樹木調査とか,土壌の化学調査,草本類の植生調査をやっております。土壌の化学調査も実際に現場に出かけ,生き物をさぐって,化学的な処理などを身につけます。
教員の方は「実務家教員」と「研究者教員」がございます。かつて大学で教えておりましたのは研究者教員でして,学会論文や研究レポートを書いております。一方で実際に実務でしっかりと実績を上げられた方,この実務家教員を,専門職大学院では重視しております。私たちのところは実務家教員と研究者教員による横断複合教育で,半分ぐらいが実務家教員でございます。
専門学校の景観園芸学校も存続しております。一般県民を対象に,生涯学習をテーマにしたまちづくりガーデナーコース,これから多分非常に大事になるであろう園芸療法コースを持っております。
ガーデナーコースでは,暮らしを取り巻く環境がいかにあるべきかを考え,花と緑あふれる豊かな生活空間や文化を創造しようということで,県下で卒業された方が過去10年間で4,500人おられます。淡路島のいろんな地域で実際にガーデニングをやっておりますが,後期は農業・林業・里山について特に中山間地域の活性化とかを視野に入れた学習,兵庫県の農林漁業と地域活性化,あるいは里山保全とか林業支援とか農業体験を進めております。こういったことを一般の方と進め,修了生がNPO法人『アルファグリーンネット』をつくって活動されています。
もう1つ。恐らく日本で初めてつくられた園芸療法課程は,1年間の全寮制で15名定員でございます。2002年にスタートし,2009年3月で93名の卒業生が出ております。
今,音楽療法とかいろいろな療法がございますが,われわれのところはガーデニングとか植物栽培等々,植物を用いた園芸療法を中心に据えております。お医者さんにも来ていただき,障害論とか介護学なんかもやっております。8月中旬から11月末まで,7週間の実習を2回,約1,000時間の園芸療法臨床実習をしております。リハビリテーション病院とか,精神科のある病院,福祉関係,園芸・造園関係あるいは教育分野,さらに農業分野が彼らの活躍の場,就職先でございます。
一般企業の社内外環境マネジメントや福利厚生などで,この園芸療法や緑環境景観マネジメントを修めた人々が活躍できないかと期待しながら,教育・研究を進めているところでございます。