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2008年12月5日(金)第4,235回 例会

持続可能なまちづくりを誘導する低炭素技術と社会システム

盛 岡   通 氏

大阪大学大学院 工学研究科
教授
盛 岡   通 

1969年京都大学卒業,’74年京都大学大学院工学研究科博士課程修了。大阪大学助手,助教授を経て’93年教授に就任。専門は環境マネジメント,環境工学。現在,環境・エネルギー専攻工学研究科附属サステナビリティ・デザイン・オンサイト研究センター センター長。

 今日の話の命題は低炭素です。炭素は私たちの暮らしにとって極めて重要ですが,化石燃料の燃焼で炭素が発生し,地球温暖化が進むことは警戒しないといけない。この対応策を町の中で,暮らしの中で進めようというのが一番大きなテーマです。

都市を低炭素の構造に

 温暖化対策は基本的にはエネルギーの使い方を変えるということです。特に多くの人たちが生活し,産業活動を展開している都市地域で変えないといけない。経済活動を元気にしながらこれを実現するのがポイントです。そのターゲットが二酸化炭素(CO2)です。

 企業経営者には「(CO2排出量を)さらに減らすのか」とおっしゃる方もあるでしょう。私たちは生産現場だけでなく,作り出した製品を温暖化対策の面でも貢献できるものに変えていくことを提唱しています。その最大の“生産品”が都市で,都市をCO2が発生しにくい構造にすることが私たちの願いです。

 日本には「環境モデル都市」という概念があります。全国から80幾つ,大阪府からも5件の応募がありました。その中から優秀な都市が(低炭素化を目指す)環境モデル都市に採択され,例えば交通システムやエネルギー供給システムなどについて,環境対応に取り組む。応募都市の中から環境モデル都市が5つ,候補都市が6つ採択されています。近辺では京都市と堺市が候補都市となり,環境モデル都市への昇格が期待されています。

 大阪大学は堺市と連携協定を結んでいます。堺市は中世から発展した歴史都市でありながら,戦後にはコンビナートが発展しました。

泉北ニュータウンもあります。近代的な発展の中で問題も抱えており,持続可能なエネルギーの供給,ヒートアイランドの緩和などを進める行動計画を作りました。

新エネルギーの集積を

 産業政策として短期的にはCO2排出量は増えざるを得ない。新しいエネルギーの供給とそのための技術開発,生産システムのイノベーションが必要です。豊かな暮らしができる,にぎわいのある都市にもしなければならない。

 石油を加工して最終製品にするコンビナートも,従前のように素材を相互に活用するコンビナートではなく,副産物を活用し合ったり,熱エネルギーを相互に利用したりする産業コンプレックスに変える必要がある。

 堺市は今,(太陽電池の生産などで)自然エネルギー活用型の産業地域に変貌する可能性を秘めています。大規模な太陽光発電だけでなく,町中いたるところでこの製品を利用することで製品を育成することが大事です。この事業を直接担当する事業者だけではなく,持続可能なエネルギーの生産のための技術と知恵が集まった環境適用型の産業地域として展開するのです。

 家電製品も車もそうですが,日本は使用時の環境負荷が少ないすばらしい製品を作っています。ところが,いい製品を作る場合も,当然CO2は発生する。温暖化対策というと,生産現場でのCO2排出量だけが注目され,良い製品を作ることで(製品の)一生を通してCO2が少ない消費や生活の仕方を提案する効果は評価されない。これを評価する仕組みを作らないと,産業イノベーションを行っている日本の産業の立場がないじゃないか。これを強く訴えたいというのが私の願いです。

路面電車でにぎわいも創出

 都市には昔,路面電車がありました。これをもう一度見直そうということで,各地に軽量型の乗り物「ライトレールトランジット」(LRT)の計画があります。LRTを使った方が,自動車を利用するよりCO2排出量が少ないだけではなく,人々が集まってにぎわいをつくり出せる。都市での住み方をも変える交通手段が非常に重要だということです。

 都市というと今まで,自然を改変し隅に追いやるという性格がありましたが,これからは自然を生かして気候を緩和し,快適な生活を営める地域にする。食の安全も私たちのテーマです。できるだけ住まいの近く,目に見えるところに農業生産の場を作るということは,その生産品を通して輸入品に対する感性も育つ。

 生活者にきちんと情報を提供することも大切です。何が環境的に良いのか,それを評価する手段は何なのか,評価された結果は皆に知らされているのか。グリーン商品認証というのが当たり前になってきましたが,私たちの目に触れるところから環境的に優れた製品に変えることによって,そういう商品を開発しようとするビジネスを励ますことができます。

 暮らしの見直しは消費だけではなくて,作法の問題も考えないといけない。本当に味わうべきは何なのか,価値判断の世界に入ってくる。堺市では千利休が発展させた茶の精神をもう一度考えてみたい。場合によっては二畳という茶室で,心の中から,暮らし方,あるいは世界のことまで語り合うという文化が脈々と続いている。ある人はこれを「もったいない」と言いますが,私は「もったいない」よりもっと優れた精神が日本の文化にあると思うのです。

 そういうものを堺市はもっと自信を持って発信してくださいというのが大学側からコメントしたことなのです。ややスピリチュアルではありますが,5年,10年,場合によっては50年に渡る運動を進める上では非常に大事な事です。私が希望しているのは,そういうことを都市のマスタープランの中にちゃんと位置づけることです。私はマスタープランがだんだん,骨太の逆の方向に来ていると感じており,各地のプラン作りで常に申し上げています。