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2008年9月19日(金)第4,224回 例会

日本の港湾の現状と課題

平 野  裕 司 氏

(社)東京都港湾振興協会
会長
平 野  裕 司 

1940年生まれ。早稲田大学卒業。
’63年日本郵船(株)入社。2003年同社代表取締役副社長,’06年同社顧問。港湾問題の権威。テレビなどにも出演。

 本日は日本港湾の国際競争力というところに焦点を当て,お話をさせていただきます。

取扱量は貿易構造を反映

 お手元に用意した「増大するアジア主要港におけるコンテナ取扱貨物量」の資料をご覧いただくと,1980年には神戸が世界で4位だったのが,2006年には39位。12位だった横浜は,今や27位となっています。一方,2006年の順位は1番のシンガポールから香港,上海,深 ,釜山,高雄と,日本以外のアジアの港が上位6位を占めており,日本の港の競争力がいかに落ちたかという説明に使われます。

 1985年にプラザ合意があり,一挙に円高が進みました。資料にある1980年は,その5年前。日本の製造業の空洞化が言われる以前のことだということです。

 コンテナ貨物が一番大量に動く航路は,アジア地域から北米に行く航路です。プラザ合意から5年を経た1990年代初め,この航路でアジアからアメリカに行く荷物の40%は,日本からの荷物でした。アジア地域から出るのは48%。中国・香港はまだ12%でした。

 それが2005年には日本のシェアは6.8%に落ちています。日本の製造業がいかにアジアに移転をしたかを物語ります。一方,中国・香港は12%から70%に拡大しています。

 この数字でお気付きだと思いますが,コンテナ貨物の取扱量はその国の経済状態,あるいは貿易構造を反映しており,必ずしも港湾機能の優劣に直接帰属するものではない。この数字だけで日本の港湾に競争力がないだとか,弱いだとか考えるのはいかがなものかと思います。

迷走する港湾政策

 日本では国土交通省が港湾政策を作り,それに基づき,地方自治体が港を運営・管理します。1995年には「大交流時代を支える港湾政策」が策定されました。海に面している都道府県は最低一つコンテナ港を作ろうという,地方分散の政策でした。その結果,’95年に20港だったいわゆる地方港が,2005年には55港に増えました。

 ハブ港とフィーダー港という言葉があります。ハブ港とは主要港湾で,小さい船で荷物を持って来て,それを大きい船に積み替えて外に出す。小さい船で貨物を持って出る港をフィーダー港,積み替えて大きい船で持っていける港をハブ港と呼びます。

 東アジア地域から出て行く「接続貨物」(トランシップメント・カーゴ)の取扱シェアを見ると,1995年には中国北東部はゼロでした。韓国(主に釜山)は44%,日本は56%です。それが2005年になると,中国北東部はゼロから9%,韓国は44%から81%,日本は56%から10%となりました。日本が地方港をたくさん作ったことが,実は釜山のハブ港化の後押しをした。“大交流時代の釜山を支える港湾政策”になってしまったのです。

 今日本海側諸港から釜山へ,韓国船を中心に,延べ年間5,000隻の船が動いています。この船の寄港地は,新しく作られた日本の地方港,新潟,富山,金沢等々です。

 それではいかんということで,2004年に次のスーパー中枢港湾政策ができました。これからは選択と集中だ。大きい港に集中投資をして,港の力を付けようという政策です。その目的のひとつは大型コンテナ船への対応。岸壁を長く,深くし,ガントリークレーンのリーチを長くしなければいけない。やっぱりハコモノなのです。競争力をつけるためにコストも30%下げよう,荷物の港での滞留時間も3日から1日に減らそう,そうすると日本の港に荷物が戻ってくるのじゃないか――。

 ところが,現在船会社の収入はドルで入ってくる。ちょっと円高になると,いっぺんに数字が変わってしまう。そんなこともあり,港湾経費の削減は余り意味がない。スーパー中枢港湾はまさに今迷路に入っています。

 2005年には物流施策大綱の中で,港湾はどうあるべきかという政策を出しました。一言で言うと,東アジア,韓国,中国とは競争ではない,協調だ,このエリアは準国内ネットワークとして考えようと言っています。日本の港湾政策は,行き当たりばったりです。

 一方,港湾を経営する港湾管理者も大きな問題を抱えています。市単位という余りにも細分化された地方自治体が港湾を経営する体制が残っています。

 大阪を例に挙げると,大阪市港湾局が大阪港の経営をしています。ところが,大阪府にも港湾局があり,大阪市が管轄をしている以外の堺泉北港などを経営している。国は極めて大雑把ながら,大きな視点で何か考えようとする。一方,自治体は小さい視点で考えざるを得ない。その間の乖離が非常に大きい。

広域化と会計見直し必要

 対応策をかいつまんで言うと,1つは広域化です。今,大阪府と大阪市がやろうと言っています。神戸が入るかどうかわからないけれども,大阪湾でやろうと。量が増えれば質も変わり,単価も下がります。

 広域化という観点で見ると,東京湾の東京と横浜を合わせた年間のコンテナ取扱量は686万個になります。大阪湾の大阪と神戸を合わせると406万個。このように広域化によって運営規模を拡大することが必要です。

 港が乱立し,広域化に走れない背景には,港の経営に企業会計原則が取り入れられていない点があります。作ったはいいけれども,どれだけ赤字が出て,どういうようになっているのかが皆目わからない。そこで広域化した後,企業会計を取り入れるためポート・オーソリティー(港務局構想)を導入する。

 (役所の)予算にとらわれず,収支をきちっと出す。ややもすれば短くなりがちなスタッフの在任期間を延ばし,エキスパートを育てる。このような見地からポート・オーソリティーが注目されています。韓国は釜山,仁川をポート・オーソリティーに変え,意思決定を迅速にして,着々と手を打っています。