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2008年8月29日(金)第4,221回 例会

熱かった夏を振り返って
~オリンピックと甲子園 野球見聞録~

鍛治舍  巧 氏

松下電器産業(株)
常務役員
鍛治舍  巧 

1951年生まれ。’74年早稲田大学教育学部卒業。同年松下電器産業(株)へ入社。採用担当部長,労政部長,広報部長などを経て,
’05年上席理事・コーポレートコミュニケーション本部本部長。’08年常務役員・コーポレートコミュニケーション本部担当兼同本部長・CSR担当室担当,宣伝グループ担当,社会文化担当,ショールーム戦略委員会副委員長,現在に至る。現在NHK高校野球解説員やボーイズリーグ オール枚方野球監督を務める。高校時代には選抜甲子園に出場,大学時代は全日本4番,6大学通算800号目のホームランを放つなどで活躍し,社会人時代’75年には阪神ドラフト2位指名。

 今年の夏は野球三昧でした。その中で本日は北京オリンピックと甲子園,さらに次代を担う少年野球の話をさせていただきます。

 オリンピックは,ソフトボールの決勝と野球の準決勝,それから3位決定戦を観戦しました。ソフトボールはアメリカに勝って金メダル,現地で大感激しました。上野投手は2日で413球投げ抜きました。その上野さんの好きな言葉が紹介されていました。「人に負けてもいい,しかし,やるべきことをやらない自分の弱さには負けたくない」。まさに将来を担うすべての若者に贈りたい言葉だったと思います。

前駐米大使と隣り合わせに

 この余韻にひたりながら,翌日,野球の準決勝の日韓戦にまいりました。お隣に大変品のいい初老の方がおられまして,実況兼解説でふたりで話をしながらゲームを見ておりました。「星野ジャパンは日本プロ野球代表チームではなく,メダルをねらう日本代表チームなんだ。コーチがプロ野球の球団に気を使って投手起用をしている場合じゃない」という話も,少々熱くなって申し上げました。

 翌日,3位決定戦になりますと,何とその隣の方が始球式のマウンドに立っている。スタンドに上がってきて私の横にお座りになりました。びっくりして名刺交換しますと,日本プロ野球コミッショナー加藤良三という名前がございました。前駐米大使の加藤さんでした。「そういうこととは知らずに,昨日は大変失礼なことを申し上げまして」とおわびをしたのですが,私の名刺を差し上げますと「あの鍛治舍さんですか」と言われまして,意味はわかりませんでしたが,「はい,その鍛治舍です」と,また一緒に楽しく話しました。

 今,スポーツ紙,週刊誌等々で大批判が巻き起こっています。日本はファンを含めた野球の知識レベル世界一の国ですから仕方がないとは思いますが,星野さんの批判ですとか,プロのおごりだ,アマチュアの情報提供の怠慢だなどと言っている場合ではありません。国際試合というのは日本の野球とはちょっと違うんです。私はプロとアマの組織の一本化が要るということを強く思います。

 もう1つ熱かったのが,夏の甲子園90回記念大会です。33歳で解説を仰せつかって足かけ20数年になります。最後に場内を両校が一周する中で大会を振り返って総括するというのが解説の一番の見せ場なんです。今年の夏は「甲子園のこの熱気を北京へと,さらに10年後の選手権100回大会へ夢をつなげたい」という話をして結びました。

 長くやっていますと不測の事態もあります。解説の2~3年目だったと思いますが,同じような場面になって場内一周,アナウンサーが「解説はおなじみの鍛治舍さんです。大会を振り返っていかがですか」。来たなと思って,サーッと話しました。場内一周が終わって整列をしました。全部言いたいことは言い終えたなと思っていたら,放送延長というサインが出ていました。

話は原稿がないほうがよい

 こっちに振ってこなかったらいいけどな,全部言ってしまったなと思っていますと,「鍛治舍さん,全国の高校球児に何か」と言うんです。もう脇の下から汗がザーッと流れ落ちるような感じになりましたが,そうそう今朝の新聞にあったなと思い出しまして,「甲子園は終わりました。しかし,もう地方では遥か選抜に向けて戦いが始まっています。既にその地方の球場で負けた学校,選手もいます。その選手にとってはその球場こそ甲子園です。全国高校球児の皆さん,遥かなる甲子園,それぞれの甲子園に向かって頑張ってください」という話をしたんです。大好評でした。やっぱり話というのは原稿がないほうがいいなということを改めて思いました。 

 その甲子園を目指してやっている少年野球の話に移りたいと思います。私は地元の枚方でボーイズリーグのオール枚方という中学生の硬式野球の監督をしております。土,日しか練習しませんが,自主トレのノートを書かせているんです。土曜日に持ってかえって,夜中の1時,2時までかけて感想を書いて添削して日曜日に返すんですが,かえって教えられることがあります。

わかる言葉で子供に教える

 「監督は,負けるたびに一から出直そうと言う。われわれは一体何回出直したらいいんだろう」。まだチームが弱いときでしたが,そうか,そんなことを口ぐせで言ってるのかと思いました。中学で初めて野球を始めた選手がいて,どうしても引っかけて打ってしまう。ですから「右中間を目がけて打ってごらん」という注意をしたんです。コーチから「すごいアッパースイングで,何度言っても聞かないんですよ。監督から何か一言言ってください」と言われたので,土曜日にノートを見ました。「今日,初めて監督からアドバイスをもらった。『宇宙間を目がけて打て』と言われた」。右中間が何と宇宙空間の宇宙なんです。彼は初めて野球をやったんです。恐らく辞書を引いたのでしょう。夜中に大笑いをしたのですが,やっぱり子どもたちには,わかる言葉で教えないといけないということを思いました。

 最後に,私の好きな言葉をお贈りして話を終えたいと思います。それはこういう言葉です。「学ぶとは心に誠実を刻むこと。教えるとはともに夢を語ること」