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2008年7月25日(金)第4,217回 例会

ボルネオの森は今

坪 内  俊 憲 君

星槎大学共生科学部
准教授
坪 内  俊 憲 

1955年生まれ。’80年北海道大学大学院獣医学研究科形態機能学修士課程修了後,島根大学を経て’95年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程入学,’99年同大学院修了。’80年国際協力事業団青年海外協力隊に参加ザンビア共和国に派遣され,獣医師及び講師として講義と実習を担当。帰国後北海道庁・(株)大塚製薬などに勤務。現在国際協力事業団の一員として,ボルネオ保全トラスト事業責任者として活動。’07年4月に現職。

 ボルネオの森にかかわって6年になります。この森にはすばらしい熱帯雨林が広がっていましたが,もはや過去形です。

 サバ州は世界で3番目に大きな島のボルネオ島の北の端の約10%,北海道と同じぐらいの面積です。熱帯高気圧地帯に属します。種のインキュベーターと言われ1haで6,000種もの植物が生えていると言われています。

多様な生物が生きる森

 ボルネオ,スマトラにしかいないオランウータンがいます。森の哲人と言われますが,本当に哲人で,短期的な記憶力は人間より優れています。1回会った人間は忘れません。

 ボルネオゾウも非常に知能の高い動物です。テングザルや世界で一番小さなヘビも,世界で一番大きな12mになるようなニシキヘビもいます。世界で一番小さな約2cmのカエルも,世界で一番大きなカエルもいます。

 こういうようなユニークな動物が,非常に生産性の高い森で生活しておりました。多様な生物が生きていた森がボルネオの森です。ところが1963年に独立,73年から伐採が始まりました。木を切った後何が起こるか,アブラヤシのプランテーション開発です。一番安い植物油が採れます。種子の真ん中の核油は石けん,洗剤になり,種子の外側の皮に張りついているのがパーム油で,食品になります。

 アブラヤシのプランテーションは2006年のデータでは120万㎡。東京都の全面積が28万㎡ですから,東京都の約4つ分がアブラヤシしか植わってない土地になってしまっている。

 アブラヤシはあらゆるものに入っています。コンビニ,スーパーで売られているものの90%以上はパーム油が原材料になっております。お弁当,冷凍食品のほとんどに入っています。

 サバ州は非常に頑張って保護区(木を切れない森)をつくってきました。15%の森を保護区にしてあります。その保護区は隔離,分断されています。結果,何が起こるか。ゾウは必ず移動します。アブラヤシのプランテーションの中に入ってアブラヤシを食べ始めます。そして,嫌われて殺されます。

緑の回廊を計画

 オランウータンも,プランテーションの中に入ってヤシを食べ始めます。我々が彼らを追い込んでいるわけです。11ヵ所,2万haの保護区があって,ここに住んでいるオランウータンが1,125頭。2003年のデータです。2007年の調査では800頭を割っていました。食べ物が少ないですから,森の中に住めない。プランテーションに出ていけばそこで殺されます。

 パーム油の値段は2005年末から今年では約3.5倍になりました。だから,プランテーションがどんどん広がっていきます。

 オランウータンを移動させれば,何とか保護区の中で生きていってくれるのかなと思いましたら,そうではありませんでした。もう森がオランウータンを維持することができないので,移動して餓死してしまう。生態系をつないで,オランウータンが自由に移動できて,自由に選択肢をもって森の奥深くまで入っていけるようにつないであげるしか方法はないということが今年の調査でわかりました。

 日本で私自身が大量消費,大量廃棄する商品が熱帯雨林減少の原因であって,ボルネオゾウとかオランウータンの命を私自身が食べているということに気がつきました。

未来につなぐために

 生物多様性というのは,非常に大きな課題です。「生物多様性というのは人間社会の持続性を測る指標である」と,国連の決議文に書かれています。生物多様性が減少することは,われわれの持続性がなくなっているという意味です。

 資源というのは,市場開発,技術開発などにより過剰利用のほうに進みます。けれども,保全という付加価値がついた商品を企業が提供し,それを消費者が選ぶことによって,必ずバランスがとれるようになる。そこにオランウータンのすめる森を介してやろうということを提案しまして,土地を買っていくトラスト(ボルネオ保全トラスト)というのをつくりました。これで,サバ州のキナバタンガン川流域の保護区やサバ州がつくった森などをつないで,2万haの「緑の回廊」をつくりました。オランウータンがこの「緑の回廊」をつたって命をつないでくれることを計画しております。

 ボルネオは30年前,36億人分の酸素をつくって世界に供給していました。今は23億人分しかつくっていません。これはわれわれ自身で自分たちの子どもの首を絞めていることです。

 では,人が命をつないでいくための指標である持続可能な発展,生物多様性というものをどうやって構築していくのか,それを皆さんに考えていただきたい。企業成長の指標としては,CSR(企業の社会的責任)がよく言われておりますが,CSRは社会に対する言いわけ事業ではありません。社会に対する企業の成長を示す事業であると私は考えております。ですから,持続可能な発展社会をつくっていく企業の活動であると考えています。

 われわれが生きていくためには,将来の安定のためには,かつてボルネオの森が36億人分の酸素をつくって世界に供給していたということをわれわれの手で取り戻す時が来ているのではないでしょうか。

 地球で命をつないでいくということは本当に大事なことだと思います。一人ひとりができることは少ないかもしれませんが,こういうふうな活動を通じて社会を変えていく,持続可能な社会に,人類が発展していけるようにご協力いただきたいと思います。