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2008年4月11日(金)第4,203回 例会

近代のコーチングについて

平 尾  誠 二 氏

神戸製鋼ラグビー部総監督
兼ゼネラルマネジャー
平 尾  誠 二 

1963年京都府生まれ。同志社大学卒業。大学選手権3連覇に貢献。’86年,(株)神戸製鋼入社。’89年から社会人日本選手権で7連覇。’87,’91,’95年のワールドカップに出場,’97~00年に日本代表監督。’07年から現職。

 演題は「近代のコーチングについて」なのですが,「最近の教え方」ということで,スポーツのフィールドでお話ししたいと思います。

 私は昨年から現場に復帰いたしまして,8年ぶりにグラウンドで教えるようになりました。37歳くらいでコーチを引退したのですが現場をまた始めたわけです。若い人たちにどう接するべきかということも含めて,お話しさせていただきます。

 昔と今のコーチングを比較してみたい,と思います。コーチングの考え方は,個人に今までにない力をつけさせることができるか,そして,それをチームとして戦力化できるかどうかです。で,選手へのモチベーションの与え方が変わってきている気がします。

 私が中高生のころは,技術的な指導はほとんどない時代でした。「気合いや根性」の時代でして,監督がしゃべるのは「アホ・ボケ・カス・死ね」の4つだけ,大変厳しく,恥をかかす,これが主流であったのです。

 高校の時,山口良治という先生でした。ドラマ「スクール☆ウォーズ」で有名になられて素晴らしい先生でしたが,大変厳しかった。

「くそーっ」の気概

 へぼいタックルとか行くと「アホ・ボケ・カス・死ね」モードに入ってきて,もっとひどいと「やめてしまえ」です。でも,やめたやつはいない。「くそーっ,このおっさんに一泡ふかしたろ」という気概が強かったような気がします。この25年くらい前の指導法を「突き放し的指導」と言います。「くそーっ」という反発係数が高かった時代です。

 ところが,今はこの「くそーっ」が少ないんです。「やめてしまえ」と言うたら,やめていくんです。その後,「自分探しの旅に出る」とはやり文句でうろうろするが,道は見つからない。人間,覚悟を決めてやらないと,この道で生きるかどうか,わからない。その気にさせて頑張らすというのが,今のコーチングで重要なところです。

 昔は「ちょっと突き放す」で十分だったと思います。今はサービスが行き届いて,考えることをしない。すぐに答えがほしい。うまく引っ張ってあげないといけない時代です。

 「タックル編」ということでお話しすると今は足の出し方,手の出し方,細かく指導しないと,納得しない。25~6年前は,指導というより,気合いです。頭から行けるか,が勝負です。

 でも,腰が引けるのがおりまして,「何だ,お前なんかにラグビーできるか」と,練習を立って見せられるんです。30分くらい放置されて「くそーっ」モードが高まります。

 30分後,ふっと聞くんです。「おい,お前どうするんだ」,「先生,やらせてください」。「よし,最後のチャンスをやろう。できなかったら,もうやめろ」。皆を集めて,こいつのタックルを見るんです。

空気が読める

 仕組みとしてよくできているんですが,一番のキーパーソンは,ボール持ってる選手なんです。「いいタックル来たら倒れる」という気持ちでないと,この練習は成立しない。山口先生は,この空気が読めるやつにしかボ―ルを渡さないんです。

 見事に倒れて,皆が沸く。「できたやないか。さっきとどう違う」,山口先生が見てる者に聞くんです。答えるのも空気読めないといけない。「気合いだと思います」「気合いだろう。人間,覚悟決めてでけへんことがあるか」。そして,タックルに行った選手を起こしてやるんです。「ようやった。この気持ち,忘れるな」,素晴らしいコーチです。そいつも見てた選手も泣いてた時代です。これを毎日やってる,強くなると思います。

 しかし,今はできない。ここまで引っ張れない。「くそーっ」がない,「やめてしまえ」と言うと,やめてしまうんです。へにゃーというタックルに「情けない」と言ったら大変です。自信喪失蔓延です。一歩が踏み出せない,これが最近の傾向ではないでしょうか。

 やめる理由は2つあって,「初め思ったんと違う」と「僕には合わない」。そして,自分探しの旅に出て,帰ってこない。当たり前です。覚悟が決まっていないから,何をしてもうまくいかないんです。

 ラグビーで一番大切な能力は「努力できる」ということです。どうすれば努力できるようになるか,それは「きっかけ」だと思います。強制的にやらせるのが悪くないのは,きっかけを与えて,できるようになったら面白くなるということです。やわな子供に対して,引っ張る。そのことで,努力するきっかけを見つけることが重要ではないか。

自発的に頑張る

 タックルがうまくいかない子に,どうアプローチするか。「僕らは君に期待している」ということを知らさなきゃいけない。そのために「秘策」を与えるんです。「秘策」というのは特別扱いで期待しているということです。「止め方はいろいろある。足に触って,くにゅって体寄せられるか」。しがみつくということです。「きつくなくていい」「いけそうです」。

 人間,いけそうなことは頑張る。3カ月で皆,同じレベルまで行く。なぜか。やめないからです。やったらできる,と思うんです。自発的に頑張ったことは,成果が早く出るんです。「手繰り寄せ」,僕なりの指導です。

 問題は向こうではなく,こっちにあると思ってください。自分に一度,矢印を向けて考える,そういうものを受け入れられるキャパシティーがあるか,これがテーマだと思います。多様な人たちを抱える中で,相手の至らぬところが気になる前に,自分のキャパシティーに問題がある時が多いんです。あの手この手で,うまく戦力を上げていただきたい,と思います。