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2008年3月21日(金)第4,200回 例会

日本人の主な死因

松 本  圭 史 君(医学研究)

会 員 松 本  圭 史  (医学研究)

1953年大阪大医学部卒業。同病理学教授,医学部長を経て,’91年大阪府母子保健総合医療センター所長,’95年大阪大学医学部学友会理事長,’97年大阪赤十字血液センター所長など歴任。現在は大阪医専校長。

 今から50年から60年前,日本人の死亡原因の第1位は結核でした。大体20歳ぐらいの方が一番よく亡くなりました。第2位は肺炎で,主に小さい子どもが亡くなりました。しかし約50年前,抗生物質という薬品が出てきました。今までだったら死ぬような子どもにペニシリンを打つと,3日ほどで治ってしまう。続いてストレプトマイシンというのが出てきまして,結核が治るようになりました。抗生物質以外にも最近50年間の医学・医療の進歩は,非常に大きい。医学だけでなく,日本人の栄養面の改善,衛生面の進歩,ワクチン,予防の徹底とかいろいろあります。現在の日本人の平均寿命は約80歳,男性が79歳,女性が86歳で,世界で1位か2位の長寿国です。日本の医療はいろいろ問題はありますが、なかなかよろしいということだと思います。

日本人の死因第1位はがん

 現在,日本人の死亡原因の第1位は,がんです。これで大体3分の1の人が亡くなっています。第2位は,大体脳か心臓の病気です。2位と3位はしょっちゅう入れかわります。心筋梗塞等の心臓の病気か,脳梗塞,脳出血等の脳の病気による死亡です。これらの病気の原因は動脈硬化です。高血圧とも申します。動脈硬化が起こると血圧が高い,血圧が高い人は動脈硬化がある。動脈硬化が起こると,血管が硬くなって,細くなって,詰まりやすくなったり,破裂したりします。心臓の動脈にこれが起こると,心筋梗塞等の心臓死となり,脳の動脈に起こると脳出血,脳梗塞等の脳の死亡になるわけですから,2つの病気は同じ病気と考えられます。動脈硬化によって3分の1の人が死んでいると考えられます。

 現在,日本で使われている医療費はアメリカの約半分。ヨーロッパには,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア等多くの文化国家がありますが,日本の医療費はそれよりも低いのです。その医療費で,世界で1,2位を争う平均寿命を誇っています。さらに,日本は国民皆保険という制度があり,これは世界に誇るものです。いろいろ問題はありますが,大きく考えますと,日本の医療はよいほうであると考えられます。

薬だけでは難しいがん退治

 まず,がんについて。皆様方の体の細胞は,心臓の筋肉(心筋)と脳神経細胞以外は増える力があります。一部の細胞がやられて減りますと,元になるまで増える働きがあります。正常の細胞がなくなったときに,元になるまで増えるというのを「再生」と申します。胃の上皮ががんになったものを胃がんと申します。この胃がん細胞の増殖は増え出すと止まりません。その人が死ぬまで増えます。もう1つの特徴は,がん細胞は近所の正常の細胞をつぶして増えます。どこまででもつぶしていきます。例えば,胃がんができますと,下にあります筋肉をつぶして増えていきます。これを「浸潤」と申します。血管があると,血管をつぶして中に入ります。そして,血液の流れに沿って,胃の場合は肝臓に行き,正常の肝臓の細胞をつぶして増えていきます。最後は,がん細胞ばっかりになるわけです。肝臓から脳に行きますと,脳の正常の細胞をつぶして増えるわけです。これを「転移」と申します。がんが治りにくいのは転移を起こすからです。

 薬でがん細胞を殺そうとして,がん細胞は殺すが正常の人間の細胞に害があってはいけない。がん細胞は正常の細胞から出てくるもので,ただ,増え方だけがおかしいだけです。増え出したら止まらないという特徴があるだけで,ほかのことは正常の細胞に似ていますので,その差を利用して薬をつくるのは理論的にも難しい。但し,がん細胞はめちゃくちゃに増えるという特徴があるので,そのめちゃくちゃ増えている細胞を殺す薬はできます。現在使っている主な抗がん剤はそういうものが多いのですが,そういう薬を使いますとがん細胞は確かに死にます。しかし,抗がん剤を使い過ぎると白血球が減ってきて,感染症を起こすばい菌が増えてきます。薬だけでがんをやっつけるのは,現在ではかなり難しいわけです。

早期発見と早期治療が肝心

 それでは,がんに対してはどうしたらいいのか。がんが手術をして治らないのは,手術したときにがん細胞がほかのところに行っているからです。胃を手術しても,胃がんが肝臓とか脳に行っているからです。したがって,早期がんを見つけて手術すれば治ることになります。そのためには,病院で待っていてはだめで,健康診断して見つけ出して治す。広がらないうちに手術で治すというのが一番いい方法です。早期発見・早期治療です。もう1つの方法は,がんが起こらないようにすることですが,一番確実で効果のある方法は「タバコを吸わない」ことです。タバコを吸わないと肺がんは5分の1になるし,喉頭がんは100分の1ぐらいになりますし,がん全体の3分の1は減ります。

 昔,日本人が一番たくさん死んだ感染症というのは,小さい微生物が人について病気を起こすのを申します。感染症は寄生虫,細菌,ウイルスによって引き起こされます。ウイルス性の病気ですと,現在の日本では特にC型肝炎やインフルエンザがあります。ウイルスが問題になっているのは薬が効きにくいからです。ウイルス感染症はお手上げではありません。例えば天然痘は昔,非常にたくさんの人が死んだのですが,今,天然痘はありません。ワクチンが効いたからです。小児麻痺も今はほとんどありません。これもワクチンが効いたからです。はしかもワクチンが効きます。但し,ワクチンのできないウイルス性疾患のエイズやC型肝炎,インフルエンザにはてこずっている,ということです。