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2008年2月1日(金)第4,193回 例会

タイ北部 ストリートチルドレンの現状と
NGOの取り組み

出 羽  明 子 氏

アーサー・パッタナー・デック財団
現地スタッフ
出 羽  明 子 

2000年,京都精華大学美術学部卒業。同年5月から翌年3月までチェンマイ大学でタイ語を学ぶ。’00年10月から財団でボランティア活動を始め,’01年4月からチェンライ支部でも活動。’04年,中田厚仁記念基金を受賞。

  財団はタイ語をそのまま日本語表記にしています。「アーサーはボランティア」,「パッタナーはデベロップメント」「デックは子ども」の意味です。世界には,ストリートチルドレンが1億人以上いると言われて,タイ国内でも1万人の子どもたちがいるのではないかと言われています。

活動拠点に「駆け込み寺」

 北タイのストリートチルドレンには,2つのグループがある。路上で生活や仕事をしているタイ人や少数民族の子どもたちと,タイとミャンマーの国境地帯から移住した子どもたちです。対象年齢は5歳から18歳。

 チェンマイ市内で物乞いや花売りをするストリートチルドレンが多いのですが,子どもたちの問題は,母親,父親の約90%以上が薬物中毒にかかり,その麻薬代のために強制的に物乞いや,花売りをさせられていることです。子どもたちにも薬物が身近で,多くがシンナーなどの中毒になってしまうのです。

 同情や哀れみから花を買ってくれる観光客が多いのですが,子どもたちがある程度の年齢になると売れなくなる。そうした子どもたちは,繁華街のすぐ裏側にある外国人が集まるバーに入り込み,売春しながら生活をします。HIV感染の危険性と隣り合わせです。

 財団は10年前から活動していますが,こうした子どもたちの危険行動の減少,生活の質的向上,社会復帰して幸せで安全な生活が送れるように,いろんなスキルを子どもたちに身につけてもらうことを考えています。活動の一つとして,チェンマイ市内とチェンライ県メーサイ郡の街中にドロップインセンターを持っています。そこでは,カウンセリング,基礎教育支援,一時的な宿泊場所の提供,ヘルスケア,エイズやドラッグから自分自身を守るためのライフスキル訓練,子どもたちの進路のための教育機関との連結,家族のもとに帰るためのサポート,職業訓練など,いわゆる「駆け込み寺」みたいな感じです。子どもたちが活動する繁華街のすぐ近く,歩いていける場所に開設されています。

 もう一つ,ここ3年ほど取り組んでいるのは,青少年リーダー育成プログラムです。私たちスタッフのことはストリートティーチャーと呼んでいるのですが,元ストリートチルドレンの子どもたちがいつの日かストリートティーチャーとして活動してくれることによって,より子どもたちの心に響く,より子どもたちが自分たちの問題を解決していくための取り組みができると思っています。

 財団の活動として,「子どもの家(シェルター)」を,チェンマイ県とチェンライ県の2ヵ所に持っています。緑と川に囲まれた自然の中で子どもたちの心をいやしながら,長期的に生活することで,衣食住,医療のサポート,学校教育,心身のケア,ライフスキルの向上,職業訓練,レクリエーション,身分証明取得のための追跡調査と家庭訪問などをしていきます。子どもが社会に出るときに必要であろう社会的スキル,心身の健康を取り戻してもらうのが目的です。

チェンライ県に支部開設

 私たちがチェンマイの本部で1997年から活動を続ける中で,99年,2000年ごろから物乞い,花売りをする小さな子どもたちの多くがミャンマーと国境を接するタイ最北端のチェンライ県メーサイ郡から来ていることがわかりました。子どもたちが大きな街に出てより大きな問題を抱えてしまう前に,問題を止めようということで,チェンライ県に財団支部を開きました。

 本部と同じような活動をしていますが,国境の町では子どもたちは移民の子どもなので,身分証明の取得,国籍問題というのがすごく大きな問題です。身分証明の書類を何一つ持っていないため,本来得られるべき社会福祉,学校に通う権利,学習を受ける権利など基本的人権を得ることがすごく難しくなっています。チェンライ支部では,特に身分証明書取得のための活動が多くなっており,行政及び民間団体との連携にも力を入れています。

アート活動通し職業訓練

 去年の10月より,ストリートチルドレンのためのアート・クラフト職業訓練プロジェクト,「ドーデックギャラリー」での活動が,財団最新のプロジェクトとなっています。国籍の問題で,今は,10年間タイに居住したら教育を受けたり,就職,結婚などできる権利があるカードを得ることができるのですが,それでもやはりまだまだ一般IDカードと違いますので,就職の際などに,持っているカードが違うことで差別をされたり,賃金を搾取されたりという問題が起こっています。財団活動10周年にも当たり,この財団での活動の形態ももっと発展させていかなければいけないと考えています。子どもたちが手に職を持つことで,より社会に適用していってほしいと考え,その最初の取り組みとして,アートクラフト職業訓練プロジェクトを立ち上げました。目的は,青少年たちの収入の援助と,もう一つはアート活動を通しての癒しから自己自尊心の回復を導くことです。アートというのは簡単に自分の描いたものの成果が見えるので,その成果を見ていくことで,子どもたちが自分の活動,自分自身に自信を持つことにつながり,子どもたちが将来に夢を持てるようにしていきたいと思っています。

 このギャラリー内の売り上げのうち,30%は製作者に還元,30%が青少年の奨学金,職業訓練,自立のための基金として財団のファンドに回します。そして,40%はギャラリーの継続的な運営のための予算としてキープしていく予定になっています。

 大阪RCの皆さんからいただいた基金をもとに,子どもたちの活動のため,財団活動の発展に生かしていきたいと思っています。