豊中市生まれ。2歳からバレエ,絵画,音楽を学び,10歳でNHK大阪放送児童劇団に入団。大阪音楽大学声楽科卒業。テレビの音楽番組などで歌手活動やキャスターに加え,エッセイストとしても活躍。現在NHK-FM「ベストオブクラシック・N響演奏会」や「サンデークラシックワイド」のパーソナリティを務める。
私は名刺に職業を「司会者」と書いています。そんなの仕事じゃないと思われるかもしれませんが,司会のプロがいていいのではないでしょうか。美術館の歴史的な絵は,すばらしい額に入っています。たくさん色を使った油絵にはあまり多弁でない額,静かな宗教画には彫りのある金色の額,鉛筆でピュッと描いたようなピカソの絵も,意味を凝縮した額がついています。司会者は,絵にあたる歌手,俳優,学者にふさわしい額を変幻自在,臨機応変につけていく仕事だと思います。
みなさんにはアナウンサー,キャスター,ナビゲーター,ウィキペディアでは文化ジャーナリストと紹介していただいています。
私の父は,満州国国費留学生として15歳のとき初めて海を渡って日本に来ました。母は京町堀の酒問屋の一人娘でした。中国人との恋愛は大反対に遭いましたが,2人は結婚しました。そして,私が生まれました。
両親は私を育てるにあたって,芸術に国境はないだろうと考えたそうです。「目から入る絵,耳から入るピアノ,全身で感じるバレエ」を習わせました。児童劇団から東京へ出て,今振り返ると,いつも世相を反映した番組で仕事をさせてもらったように思います。
最初が「ステージ101(NHK)」。オーディションで日本中から若者が集い,土曜に生放送しました。次がミコ姉さんをした「あそびましょパンポロリン(テレビ朝日)」。団塊ジュニアが赤ちゃんのころです。「平凡パンチ」から取材されました。歌のお姉さんがアイドル的に仕事できた時代でした。
結婚して息子ができた後に「おはようナイスデイ(フジテレビ)」。ワイドショーでした。ロス疑惑を追ってアメリカへ飛び,大韓航空機撃墜,日航機墜落,大島の噴火もありました。365日24時間拘束を4年しました。見事に結婚生活は破綻して離婚しましたが,すごく勉強させてもらいました。
ここ15年ほどは,ラジオの仕事をしています。NHK交響楽団定期公演は実況生中継。2時間,ときに3時間の番組もあります。世界的な指揮者,演奏家たちと出会えます。シャルル・デュトワ,ウラディーミル・アシュケナージ,ヘルベルト・ブロムシュテット,アラン・ギルバート…。
今,若い人たちが「あいつは空気が読めない」とか言いますが,大指揮者は空気など読まないです。楽団員が嫌な顔をしようが,ため息をつこうが,すべきことを徹底してします。で,音は微妙に良くなることが多い。そういう怪物のような人たちだから,世界を股に棒1本で活躍できるのかもしれません。
交響曲を聴いていると,大聖堂を立ち上げるようにつくるのを感じます。立体的,論理的に考える。これが西洋の基礎にあるのではないか,気分とか雰囲気だけで対等に競い合うのは難しいかな,と思うことがあります。
私はイギリス人と再婚しました。お母さんはビルマ人。(クリス・)スティール=パーキンスと申します。写真家です。彼が属している世界報道写真家集団「マグナム」の会員は,みんなユニークです。2回,3回結婚した人,女に捨てられた人,妻を捨てた人…。
でも,すばらしい仕事をします。戦場や難民キャンプで,ものすごく悲しいけれど,ものすごく美しい写真を撮るんです。そんな人たちがロンドンの私たちの狭い家に来て,写真家はもうかりませんから,寝泊りし,仕事をし,会議に出て帰っていきます。人間的に生きるとは,体裁を整えることなのか,グチャグチャだけれど,自分に嘘をつかないで生きることなのか,選択は難しいと思います。
そして,彼らが歴代の奥さん,恋人,前の前の奥さんの子どもだったりを夢中になって撮った写真が,何年か経つと一つの作品として歴史の中に残っていきます。作曲家も失恋して曲を書き,恋をしては書き,それが作品として世に残る。芸術家と暮らすというのは,そういうことなんだろうと思います。芸術美に触れるとは,決して小ぎれいで秩序正しいことではない,と思うことがあります。
文楽の竹本住大夫さん。浄瑠璃語りで人間国宝です。自分の声は悪声だとおっしゃいますが,その語り口はすばらしいです。河井寛次郎がつくった焼き物はザラザラしていて,目の前で見ると非常に土臭いですが,凝縮された「美」があると思います。
みなさん,ぜひ「美」に触れてください。(そのためには)どうか,群れないでください。いつも奥さんに付いて「わしも行く」では,「わしも族」と言われます。奥さんにも自分の世界がありますから,困るんです。
1人で演奏会に行ってください。休憩時間においしいワインを飲めばいいんです。ご主人がイキイキしてきたら,「私も行こうかしら」と奥さんがついて来るかもしれません。
でも,「美」とは孤高なものです。その先に「死生観」を,心を正して感じるとき,私たちに近づいてきてくれるのだと思います。
ここでブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」第4楽章の冒頭を聴いていただきます。どなたの指揮か想像してください。
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朝比奈隆さんです。2000年11月,92歳でN響を最後に指揮なさった演奏です。ものすごい美意識とエネルギーを感じます。今年2008年は朝比奈さんの生誕100年です。大阪はこういうすごい芸術家を生んで育てた地です。どうぞ,「文化・美」を大事に,独りを恐れずに生きていただければと思います。